作品制作⑨舞台装置(小島美沙子)
vol. 29 2023-10-19 0
みなさま
おはようございます
三人之会の奥田です
本日劇場入りをしました! 映像・音響・照明の調整をしながら、衣装の最終チェックや小道具の最終加工をしています。
今回は舞台監督としてお招きしている小島さんから、本公演の舞台装置(水槽)についてお話しいただきます。
ぜひお読みください。
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初めまして。
普段は人形劇役者をしている、小島美沙子(こじまみさこ)です。今回は舞台美術と安全を担う、舞台監督としてこの作品に参加しています。
今日のアップデートは、私が舞台監督として意識する安全に対する取り組みや考えについてお話ししていきたいと思います。
今回、座・高円寺の劇場創造アカデミーで出会った奥田くんに声をかけて頂き、この特別な空間を作る仲間として参加することができました。正直、声をかけてもらった時は本物の水といえど、使うのはタライやバケツで使う数十リットル程度だと軽く考えていました。
それが、蓋を開けてみてビックリ。
舞台美術の打ち合わせをした時、シアターピースの名作『TIME』のような本物の水の使い方をしたいという要望を受けました。
深さはないとしても、確実に百数十リットルの水を扱うんだなと気を引き締めました。
すでに奥田くんが書いていますが、本物の水を使うことを歌舞伎用語、そこから転じて演劇用語で「本水(ほんみず)」と言います。本水を扱った歌舞伎作品は滝や川、雨を表すことが多いので規模も大きく、扱う水の量も予算も桁違い。勿論、それに伴うリスクもあります。
率直に言って、私は映像の現場で人形を持ちながら水や火を扱う経験をしてきましたが、その規模は精々が洗面器一杯ほどととても小さく、カメラの目前でのみでした。
そのため、舞台という広範囲で水を扱う際のありとあらゆるリスクを考え、考えながらも、どう歌舞伎や大劇場には到底及ばない低予算で『TIME』のような美しい水面を実現するかを模索しました。
今回作った水槽(あるいはプール)は、DIYによくあるレジャーシートを使った手作りプールを参考にしました。低予算で手軽ではありますが、その分、強度にリスクがあるため防水シートを二重にして対応しています。滝や川に見立てるような大掛かりな仕掛けはありませんが、『逃亡』という作品の中で求められる水の役割を果たすには充分だと考えています。
さて。なぜ私はここまでリスクの話をしているのでしょうか?
それは、万が一にでも水が漏れてしまうと、照明や音響機器を濡らすリスクがあるからです。機器の破損はもちろん、水濡れによる漏電のリスクも伴います。そのため、前述の防水シート二重に始まり、これまで培った経験と知識を総動員して万が一、億が一に備えています。
また、神経を巡らせるのは、会場に対する安全だけではありません。
水の中で演技をする俳優の安全と健康もきちんと担保しなければなりません。そのため、水槽内の衛生面や枠の段差による怪我の危険など、俳優の健康を害するモノを舞台上から少しでも排除します。
もちろん、俳優だけでなく、観客の安全も考えています。
舞台美術が観客に不安を与えては、作品に集中していただけません。そのために頑丈に枠を作り、演出として作品空間に閉じ込めることがあっても、観客が安心して観劇できるギリギリの環境を探り、作るように心がけています。
このように舞台上は様々な危険が潜んでいますが、それを明確にし、解消していくのが舞台監督の最大の仕事だと私は考えています。
この最大の仕事を遂行しつつ、演出や俳優のイメージを実現するのがこの作品での私の使命です。そのため、演出の奥田くんと密にコミュニケーションを重ね、どうしたいのか、何を表現したいのかを共有していきました。
その成果はしっかりと舞台上に現れていると自負しています。果たして、三人之会『逃亡』で使われる本水は一体何を表現しているのでしょうか?それはぜひ、劇場でご自身の目で確かめていただければと思います。
この文章を書いている現在、私の目にはバスタブ程度の水量が満たされた水槽とその上で演技する俳優さんたちが映っています。
概ね問題なく稽古が進んでいます。
水が満たされるスピード、アーティストの映像がどう映るのか、俳優の演技に支障はないか、舞台面は十二分に安全か…
これらを細かく検証、実験しながら稽古が進んでいます。
ここまで長くなってしまいましたが、これらの舞台美術や安全の確保には、皆さまの温かいご支援が欠かせません。この記事をお読みいただき少しでも興味を持ちましたら、ご助力を賜れますと幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
10月12日 若葉町ウォーフにて