【応援メッセージ】雁屋 哲 ( 漫画『美味しんぼ』作者 )
vol. 42 2021-06-01 0
いよいよクラウドファンディングも残り10日となりました!
これまで225人のみなさまに2,368,000円ものご支援をいただき、感謝に堪えません。
ただ目標の600万円にはまだ遠く、この10日間により一層の拡散とご支援のお願いをさせていただきたいと思っています。何卒よろしくお願いいたします。
今日は大ヒット漫画「美味しんぼ」の雁屋哲先生からの同プロジェクトへの応援メッセージをお送りします。
>>>>
Nippon AWAKES, The 10th FUKUSHIMA を応援する。雁屋哲
2011年3月に東北大震災が起こった。
「美味しんぼ」ではそれまでに東北各地をとりあげて書いてきたのだから、震災についても何か書かなければいけないと私は考えた。
震災が起きてしばらくは全てが混乱していて取材もままならないと推測し、九月になって取材を開始した。
最初は、宮城、岩手、青森各県を回った。
以前「美味しんぼ」の取材でお世話になった方々がどうしておられるか心配だったので訪ねて回ったのだ。
みなさん、それぞれに途方もない被害を受けていた。宮城、岩手、青森の被害は津波によるものだった。津波が恐ろしいのは、何もかもを破壊し尽くすことだ。
しかし、それにもかかわらず、その方たちは被害にもめげず、立ち上がっていた。
嬉しかったし、感動した。
その話は「美味しんぼ」第108巻に、「めげない人々」として書いた。
福島の取材は、2011年11月から2013年5月まで13回行った。
半端な取材ではなかった。
(2012年、雁屋さんと平井有太)
その結果は「美味しんぼ」第110巻、第111巻にそれぞれ、「福島の真実1、2」としてまとめた。宮城、岩手、青森と違って、福島の場合放射能による被害が主だったし、その被害の程度は予想も出来ないものだった。
放射能の恐ろしさは知っていたことだが、、都市が、町が、村落が人が住むことが出来なくなってしまった姿は、それを前にすると余りのことに言葉を失い、体中から力が抜ける思いをした。
例えば小高の町だ。
小高の町は地震の影響で倒壊した家は数軒あったが、他は外見上何とも無いきれいな家が道の両側に並んでいる。整ったきれいな町だった。
しかし、人が一人も居ない。車も通らない。それなのに道路信号は赤・黄・青と点滅を続けている。正にゴーストタウンだった。
更に飯舘村では奇怪な物を見た。
てんぷらで真価を発揮するタラの芽を飯舘村では栽培していた。タラの木を七十センチほどに切って植えておくと、その天辺にタラの芽が芽生える。
ところが、その年は放射能の影響でタラの芽を収穫出来なかった。
収穫されなかったタラの芽は伸びて長い枝になってしまった。短い本体の幹の上に長い枝が横に広がって茫々と生えている。それが、何百本もだ。それは、異様で不気味な光景だった。
その脇には、田植えをされることもなかった水田が寒々と広がっていた。豊かな水田は百年も二百年もかけて出来上がった、農家の先祖代々の努力の結晶である。その宝物が死んでしまっていた。
そして、福島の至る所でフレコン・バッグの積み重なりが広がっていた。
フレコン・バッグは本来粉末や粒状物の荷物を保管・運搬するためのもので、放射性物質を入れるためのものではない。材質も極めて柔で、私は、フレコンバッグを置いてある地面から伸びた雑草がフレコンバッグを突き抜けて伸びているところを写真に収めた。
そんなフレコン・バッグに放射性物質を入れてのざらしで置いてある。その後、台風や大雨でフレコンバッグが流された話を幾つも聞いた。放射性物質が再び地域を汚染したのだ。正気の沙汰ではない。
10年経って福島はどう変わったか。
私は基本的に変わるはずがないと考える。
放射能は10年やそこらで消えるものではない。
それなのに、福島では、農業も、漁業も再開している。牛の肥育も再開した。これを可能にしているのは、政府の決めた安全基準だろう。
1キログラム辺り、100ベクレルなら安全と決めてある。いま、農作物が1キログラムあたり10ベクレルなら、ああ良かった、安全だ、と言って市場に出すのだろう。
福島第一原子力発電所の事故の後、日本に在住しているドイツ国民のためにドイツ政府が出した指令は1キログラム辺り8ベクレルで、それも暫定的なものとしてである。基本的にドイツ食品の安全基準は0ベクレルだ。
ドイツ人と日本人とでは放射能の耐性が違うなどと言う馬鹿なことはあり得ない。
日本の政府の基準が馬鹿げているのだ。
もう一つ、都合の良い忘却だ。
福島の人達も、あるいは日本人全部は希望的な忘却、意図的な忘却をわが身に強いて、現実から逃げているのだ。
心の除染というやつだ。
現実は除染できないから、心を除染して安全だと思いこみたがるのだ。
このような状況で、「人間の表現」と「原発事故のファクト」を追求するNippon AWAKES, The 10th FUKUSHIMAの取組みは時宜を得たもので、今こそ日本に必要な活動だと私は思う。
福島の事実をしっかりつかんで、人々を覚醒させる力となってくれることを私は期待する。
頑張ってください。
<解説>
チェルノブイリ事故後に、ロシア・ベラルーシ・ウクライナ政府の非常事態省は広範囲な土壌汚染調査を行い汚染マップを作成した。(『美味しんぼ』第111巻)
ラド・アトラスと呼ばれるこの地図帳は、土壌汚染の予測が汚染の強さごとに色分けされ、10年ごとに70年後までの各市ごとの地図がまとまっている。
しかし、福島原発事故後の日本ではそうした調査はなされず地図は作成されなかった。
そこで、みんなのデータサイトが呼びかけ、17都県3,400ヶ所の土壌採取、測定調査を市民の手でおこない、汚染地図をつくり、100年後までの放射性セシウムの汚染を予測して公開した(みんなのデータサイト 放射性セシウム汚染減衰推計100年マップ 2011-2111)。
この市民による100年マップは、みんなのデータサイト発行の「図説・17都県放射能測定マップ+読み解き集」(増補版)(p.110-p.111)に収録されているほか、同サイト(https://minnanods.net/soil/)で閲覧でき、PDFデータでダウンロードもできる。
ちなみに、事故後政府が公表している、航空機モニタリングから推計した汚染地図はおおまかなもので、放射性物質の核種ごとの実測ではないため、このような未来にわたる減衰計算による汚染予想は正確にできない。