応援メッセージ/高校生・野口絵子さん
vol. 5 2020-10-26 0
登山家・野口健さんの娘である野口絵子さん。
昨年から、ニュージーランドの高校に留学しています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、4~5月に父・健さんと予定していたヒマラヤを諦め、日本へ帰国もできない状況でした。
前回ご紹介した、野口健さんの応援メッセージを読み、ご自身のTwitterで、ポスターの紹介をしてくださったことが縁となり、絵子さんからもメッセージをいただくことができました。
ニュージーランドは、欧米諸国と比する新型コロナウイルスが入ってきたのは遅かったと思います。けれど、感染が始まったかなり早い段階で、ロックダウンが実施されました。
当初私は、新型コロナウイルスに対して、実感がもてずにいましたが、ロックダウンとなり、日本に帰国できないことがわかったとき(帰国はできても、ニュージーランドに戻ることが難しく、留学生としては帰国もままならない)、はじめて新型コロナウイルスの脅威を肌で感じました。
そんなとき、東日本大震災のことを思い出しました。
2011年3月11日、私は、東北の町が津波に飲み込まれていくのをテレビで見ていました。それはものすごい光景であり、大きなショックを受けたけれど、その時点で本当にこの出来事を実感していたわけではないと思います。すると父が、「(現地に)行ってみるか?」と。私はすぐに、「うん、行く」と応えました。
陸前高田のなんにもなくなった土地に立ち、目をつぶって想像しました。「ここに町があったのだ」ということを。そうしたら、ものすごく怖くなり、自然の脅威を自分なりに自分の身体で感じました。
自分自身で見て、感じることは大切だと思いました。
そのためには、自ら行動を起こして、問題に近づいていくことも大切です。
新型コロナウイルスについても、目を背けたりせず、自分で考え、行動していきたいと思います。
私は、ニュージーランドで恵まれた生活を送っていると思います。
ロックダウンのとき、留学生は学校の敷地内で、先生たちと生活していました。必要なものは、先生が買い物をしてきてくれました。
「second family」として、お互いに支え合って生活していましたし、先生たちも色んなアクティビティを用意してくれたので、楽しく過ごすこともできました。
けれどやっぱり、日本に帰れない、日本の家族に会えないことはキツいことです。ホームシックになる友達もいます。誰かがホームシックで泣いていたら、私たちは寄り添って励まし、支え合います。そうやって過ごしてきました。そんなとき私は、ポジティブに考えようと思うようにしました。たとえば、今回の年末年始は帰国できませんが、それはニュージーランドのクリスマスとお正月を過ごすことができるチャンス、と考えるんです。ニュージーランドは日本と季節が逆ですから、夏のクリスマスとお正月です。そんな初めての経験ができるチャンスです!
こういったポジティブシンキングは、父から教わったことです。けれどそうは言っても、寂しくなる時もあります。だから私は、毎日のように母に電話しているんです(笑)!
ロックダウン後、初めて登った山は、南島のワナカにあるロイズ・ピーク(1578m)です。思ったよりもずっと体力が落ちていました。1時間歩いただけで疲れてしまい、登山はブランクを空けてはいけないなって思いました。
けれど、ゆっくりゆっくり登っていき、山頂に着いたときは感動的でした。
眼下に、大きな湖が見えて、湖水が朝日に輝いていました。遠くにはサザン・アルプスの山並みも見渡せました。久しぶりに山のてっぺんからの景色を味わい、私のなかに山での五感が戻ってきました。それがものすごく嬉しかったです。
そして、日本の山のことも思い出しました。よく登るのは、八ヶ岳です。四季の変化を感じながら、苔や樹木を写真に撮るのも好きなんです。ああ、日本の山にも登りたいなと思い、日本が恋しくなりました。
父は、私が帰国した時に登る山のリストを作っているようなので、こんな恋しくて寂しい気持ちも、帰国できれば一瞬で吹き飛びますね!
いま日本は、ニュージーランドよりも感染拡大が深刻であり、山から少し離れてしまった人や、山に行く機会が減った人もいると思います。
私は、山に登ると静かな空間で、鳥のさえずりを聞いたりしながら、自分自身を取り戻すことができます。体力を使い身体は疲れても、忙しい日常から離れて心がリセットされるのです。
だから皆さんも、このポスターを参考にして、気を配りながら、安全に山に登ってほしいなと思います。
この春予定していた6000m峰が、自分の力ではどうしようもできない理由で、先延ばしになってしまったことは、とても悔しいです。ブランクが開くと、登れなくなってしまうのではないかという思いもあります。
けれどだからこそ私は、ここニュージーランドで、もっともっと自然の中へ入っていこうと思います。来期は、outdoor education の科目も専攻します。登山、キャンプ、カヌー……楽しみです。
野口絵子さん