祭ばやしが聞こえる vol.5
vol. 51 2022-04-22 0
"東京十日目"
早いもので東京に来てもう十日が過ぎました。現在42歳の僕は29歳まで東京(厳密には18-21埼玉県新座市、21-27東京都北区、27-29神奈川県横須賀市)に住んでいたのだけど、福岡県に移住して13年目、東京にじっくり滞在するのは5年ぶり。
前回の滞在は、僕の二作目『人情噺の福団治』の宣伝の時で、この作品は今はなきアップリンク渋谷というミニシアターで2017年9月に公開された。その約二ヶ月前から東京に滞在したのだが、予算を節約するため、僕とパートナーは埼玉県八潮市の僕の先輩の家や、品川駅からほど近い僕の親戚が住む高層マンションなど転々としながら、作品の宣伝活動にあたった。先輩や親戚(その他お世話になった方々)にとって迷惑だったと思うし、甚だ申し訳なかったのだが、僕ら自身にとっても、住み慣れない環境の中、先輩や親戚に気を遣いながら、映画の宣伝を進めていくのは文字通り心身を削る日々だった。アップリンク渋谷で二週間の上映だった『人情噺の福団治』は、トークゲストの方々の助力もあり、なかなかの集客をすることができた。とはいえあのような怒涛の日々が自分たちにとっても、迷惑をかけてしまった方々にとっても正解であろうはずがなく、「次は無いな。もし次、このようなことをやるとしても、きちんと部屋を用意しよう。食事も大切だ。外食や惣菜弁当だけだと健康を損なうし精神的にも不健全。とにかく生活の基盤を整えよう。それなくして柔らかい発想も気力も浮かぶわけがない」と密かに決意した。
そもそも、地方を拠点にしながら東京で映画を宣伝・公開するというようなことをなぜ僕らはやるようになったんだろう。それは一作目『まちや紳士録』(2013)公開時の経験が大きいのではないかと思う。
『まちや紳士録』場面写真
『まちや紳士録』は、今も僕が暮らす福岡県八女市中心部の白壁の町並み(福島地区…国から伝統的建造物群保存地区に選定されている)に引っ越したばかりの頃から約一年間、僕と妻の暮らしを縦軸に、町の営みを撮った作品。八女市の町づくりに長年従事してこられた方々のご尽力で、少なくない予算が集まり、映画は無事完成〜劇場公開に漕ぎ着けた。東京のメイン館は渋谷のシアター・イメージフォーラムという劇場。配給宣伝にはフリーでやっておられる鳥山さん(仮名)という方が参加した。
ここからは少し書き方が難しいな…やや批判めいているかもしれませんが、個人批判ではなく結局、構造的な批判だと思うし、悪口や誹謗中傷といった感情的な、軽い気持ちで書くわけではないので、何卒ご寛恕ください。
『まちや紳士録』の東京公開は2014年3月で、そのための準備で事前にたびたび東京に行く必要がありました。その際、鳥山さんとも顔合わせし、ワンチームで劇場公開までやっていくことになったのですが、この時に感じた違和感が結局、今に至るまで尾を引いていて、自分たちの作品は自分たちで育てていこう、という原動力になっている気がします。
別に何か失礼な態度を取られた等ではまったくないです。むしろ、仕事としては、限られた時間・予算の中、とても的確に進めておられたと思います(これは、自分たちで配給宣伝を行うようになり、その中で自分たちの力の足りなさを実感し、より分かってきたことです)。
ただ、敬意がなかったのです、作品や、そこで描かれる題材への。プロ意識が強くても、失礼な態度がなくても、敬意の不在というのは、ご本人も意識しない部分でビンビンと空気を伝わってくるものです。もちろん、鳥山さんは作品の舞台である福岡県八女市と縁があるわけでもなく、制作期間を共にしたわけでもないので、鳥山さんに「僕や関係者と同じくらいの敬意を作品に示せよ!」などと求めるのは、モラハラだし、異常な行為だと思います。また、関わる作品すべてを心から大切に思うことは、人間だから好き嫌いや感覚の違いもあり、難しいと思います。しかしせめて、どんな場合も作品関係者に不信感を抱かせない程度の人間力は、映画だからとか関係なく、どの仕事に携わるにせよ、必要なことではないでしょうか。
再度書きますが、鳥山さんはとてもプロフェッショナルだったと思うし、その気持ちは時間が経つにつれ増しています。東京を拠点に様々な地方に飛んで、撮影〜作品制作をしている作り手たちならば、鳥山さんの都会流の割り切ったプロフェッショナリズムとも呼吸が合ったのではないかとも思います。ただ、僕は地方に住みながらそこの人間関係、リズム、環境にどっぷり身を置きながら、作品制作をしている者です。鳥山さんの割り切った態度が、僕の目にとても残念なものとして写ってしまったのです。
そんな違和感を抱きつつ進んでいった『まちや紳士録』の劇場公開が、今に繋がっていると強く思います。
※この文章を読んだパートナーから「筋金入りの面倒くささやね(苦笑)」と言われました。どこかにこの面倒くさい人間と組んでくれる配給宣伝の方はおられませんかね。
三重県東京事務所には、三重県庁の職員さんが多数働いておられます。都心部で三重弁を聞くとホッとしますね。
4/19は新橋・TCC試写室での第一回目の試写でした。僕やスタッフは前日に、同じTCC試写室で内覧試写を行い、初めてDCP(映画館で上映する際の上映素材)で、整った環境で作品を観ました。技術的な部分の確認に意識が行った部分ありつつも、手応えあったし、存在として東京に負けてないと確認できました。
今回の東京滞在では、雨や曇りの日が異様に多いです。
雨の中、滞在先から近い下北沢をぶらぶらしていたら、松田優作が愛したLADY JANEがありました。こちらにいる間に、一度行ってみよう。
命が縮む油そば(890円)
滞在先での普段の食事。玄米やら器やら八女茶やら、持ち込んでいます。
伊藤有紀