大阪国際メディア図書館 畑 祥雄館長から、応援コメントいただきました!
vol. 5 2022-08-19 0
「現代映像」の幕開け
この映画はビデオグラファーだから創れた作品である。監督の個人的な関心からカメラが回り長い時間かけて撮影していく。映画監督やTVディレクターは最初に企画書を作成し組織的な決定を経てカメラが回る。個人活動の 岸田浩和監督 はテーマであるゲーム業界の浮き沈みに密着して発表形態も定めず採算も考えずにカメラを回す。決めているのはゲーム会社「芸者東京」の田中泰生社長の「心の風景」である。
岸田監督の《Re Start-up》は「組織の視点」で社会の出来事を映すのではなく活動する人々の「心の風景」を映す新しい映像作品である。小説家や写真家は個人の視点から「心の風景」を小説や写真の題材にして「現代小説」や「現代写真」の分野を始めた。写真界では目撃者として新聞社などの「組織の視点」で撮影していた時代が長くあった。映画やTV分野は今も目撃者視点のドキュメンタリー映像を制作する。ネットメディアの勃興と機材の進歩に負うところが多いが、すでに「個の視点」が求められる「現代映像」の時代が始まっている。
岸田監督は映画制作のメソッドを学校で学ばず、TV現場の制作プロダクションで鍛えられたこともない。脱サラからライターを経て写真記事を書き試行錯誤をしながら映像監督にメタモルフォーゼ(変容)してきたビデオグラファーである。この新しい職種は分業制作を超え個人や少人数による制作スタイルを特徴とするが、新しい「現代映像」の分野では「個人の視点」で作品が創れるかが問われている。
同様にゲーム業界には国境がなくローカルからグローバルが直結する中で「個人の視点」に頼りコンテンツを創る制作現場である。ゆえに岸田監督のこのアプローチでしかゲーム会社の経営者の「心の風景」を映すことはできなかった。《Re Start-up》は映像ドキュメンタリーが「現代小説」や「現代写真」が担ってきた「心の風景」を映す「現代映像」の幕開けとなる作品として歴史に名を刻むと考えている。
大阪国際メディア図書館 館長
写真家・映像プロデューサー・Eスクール総合ディレクター
畑 祥雄