<製作ノート⑯>日本の映像産業の労働環境改善に向けた本作の取り組み【最終回】
vol. 39 2021-11-16 0
『ブラックホールに願いを!』監督の渡邉です。
本日23:59でクラウドファンディングも終了となります。本当にこれほどのご支援をいただけるとは想像もしておりませんでした。より良い作品になるよう、最後の1ピクセルまで、全力で作らせていただきます。
連載してきました<製作ノート>ですが、実は今回で一旦最終回となります。今回の内容まではクラウドファンディング開催中にどうしても記事にしたいと考えておりました。
日本の映像産業の現状に対して、本作が取り組んでいる内容を紹介させていただきます。
ご存知の方も多いかと思いますが、日本の映像産業の労働環境の状況はあまり良いとは言えない状態にあります。偶然にも、本日また映像の現場のパワハラ・セクハラを告発する記事が話題となりました。
僕個人が実際に経験した現場では、怒鳴られるのは当たり前として、殴る・蹴る・棒でひっぱたく、連日朝の4時に仕事が始まり夜の2時まで仕事をして会社の椅子で仮眠をとりまた現場の日々(しかも別の番組のスタッフが働いているのでうるさくて眠れない)、ストレスで連日撮影現場で吐き散らかす、などがありました。もちろん全てがこのような環境というわけではありません。上記の例も、特撮の現場ではなくとある一般ドラマでの体験でした。
これらの既存の違法労働が常態化している状況を、現場の末端にいる人間が一朝一夕に改善することは難しいと思います。ただ、少なくとも自分の現場でだけはなんとか少しでも待遇を改善したいと考えました。
これらの諸悪の根源は契約書を締結しないことに原因があると感じております。
実務が始まる前に、それぞれの労働内容と対価を書面で確認し同意すること・労働者側は演出家の無理な要求を拒絶する権利を有していること、を確認する必要があります。
よって本作では大半のスタッフ・キャストに契約書を発行し、それぞれの労働内容と対価などについて合意を得てから実務に入っていただきました(一部の方は書面を交わすことなくなし崩し的に従事していただいたことをここでお詫びいたします)。
法律的に意味のない書面でも、それがいま自分ができる日本の映像産業の改善だと信じて実行いたしました。特に自主映画では、良くも悪くも、顔なじみに実務内容が曖昧なままお願いすることが多いと感じています。韓国の映画産業も数年前までは同様の業態だったようですが、自律的に労働環境を整備し続けた結果がアカデミー賞の受賞につながったと聞き及んでおります。
また本作の撮影は(ロケ現場の都合もありますが)基本的には9時撮影開始・17時半には終了、という内容におさまるようにスケジュールを組みました。メイク等撮影の準備に関わる方々にはこの限りではなく、早朝からの作業を強いることになり申し訳なく思います。これらは今後の課題として改善していきたいと考えています。また止むを得ず撮影が終わらず18時を過ぎた例もあり、こちらも自分の力不足を感じました。制作スタッフ不足により行き届かなかった箇所も多いかと思います。僕自身の情緒がかなり不安定であるがゆえにスタッフ・キャストにストレスを与えてしまったことや、(主に製作費の不足により)スタッフ・キャストに対して十分な謝礼をお支払いすることができなかったことも反省点です。今後の撮影においてこれらも改善できればと真剣に考えています。
労働環境が整備されていないことは、長期的に見ればデメリットしかありません。どんなに面白い映画でも、違法な労働をスタッフとキャストに強いることで成立している作品は、健全な市場競争という視点において、評価は一考すべきであると自分は考えます。
本作『ブラックホールに願いを』が、何よりまずお客様にとっても面白い映画であることを祈りますが、同時に、スタッフ・キャストにとっても忌むべき思い出とならないことを祈っています。
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これで<製作ノート>は終わりとなります。3ヶ月に渡り駄文にお付き合いいただきありがとうございました。これらの記録がいつか誰かの何かの役に立てばいいなと思っています(そんな日は来るだろうか…)。
また機会があれば、撮影の記録なども執筆したいと考えております。
ありがとうございました。