プリズン・サークルupdate(9)
vol. 9 2016-10-20 0
「プリズン・サークル」のクラウドファンディングも残すところ、あと1週間となりました!第3ゴールまで到達したのでもう十分でしょう?と思われる方も多いかと思いますが、そんなことはありません!そもそも到達可能な範囲ということで低く設定しているので、あと一週間で頑張っていけるところまで行きたいと思います。なお、今回のupdateは公開にします。よろしかったら、宣伝などにお使いください!
この写真、素敵ではありませんか?
©Rod Mullen
先日、アメリカのアリゾナ・ツーソンにある治療共同体(TC)アミティで開かれた同窓会の時の写真なんです。今回の映画の舞台である日本の刑務所も、このアミティのモデルを使っているのです。簡潔に言うと、当事者の力を使って問題に気づき、学び落としていく(unlearn)試みです。
私はテレビの取材で1995年に初めてこの地を訪れたのですが、すでに20年以上が経過しているんですね。今回は参加できず、この写真を見て懐かしがっているのですが、中央にいる3人の女性たちに私自身、とても大きな影響を受けてきています。それぞれ、性暴力や長期に渡る深刻な暴力にさらされ、自らも加害者への道を辿るという凄まじい過去を生き延びてきた女性たち。中央が創設者の一人、ナヤ・アービター、その左がロビン、向かって右がパメラ。
1995年に初めてアミティを訪れた時、この3人もスタッフのサークルの中にいたのです。素敵な笑顔、イキイキとした姿とはかけ離れた、過去の凄まじい体験の数々。あまりに強烈過ぎて忘れられない出会いだったのですが、当時はTCやアミティという場について知識がなく、何が何だか全くわからずぼおっとして一日を過ごしたことを思い出します。まさか20年後もつきあいを続けていて、日本の刑務所にもつながっていくなんて思ってもいませんでした!このあたりのことは、『ライファーズ 罪に向きあう』(みすず書房)に詳しく書かれていますので関心のある方はそちらをお読みくださいね。
アミティで初めて撮影することになったとき、全員の前に立たされて、100人ぐらいの参加者から質問攻めにされました。私は何者であるのか、どんな企画なのか、なぜ撮影したいのか、何をどう表現するつもりなのか、そしてそれを作ってどうしたいのか。撮影されてもいいかどうかは、参加者が私の話を聞いてその場で決めたのです。とても緊張しましたが、100名一人一人と話をするのは難しいので、そういう場を与えてもらえることを有り難く思いました。その後何度も撮影することがありましたが、そのたびに同じ様にコミュニケーションをとってから撮影を始めました。
ちなみに日本の刑務所では、最初から「受刑者のプライバシー」を理由に、顔を消すことが条件とされます。数年に渡って交渉しましたが、受け入れてもらえませんでした。現場では、刑務官立会いのもとに行われる、特定のインタビュー以外で受刑者とは一切口をきいてはならないと指導を受けます。刑務官をはさまずに民間の職員と話をすることさえ私達は禁じられていました。人間としてのコミュニケーションが一切遮断されたなかでの2年間の取材。そして、テレビをつければ容疑者段階で女性が女に、名前が呼び捨てにされることが当たり前。日本にTCが導入されたとはいえ、まだまだ長い道程だと痛感する今日この頃です。
写真に話を戻します。3人の背後に映っているひとたちの大半も顔見知りです。昔は悪態ついてばかりだった人、笑顔なんて見せたことなかった人、怒りに満ちあふれてた人....あまりにも昔の様子と違ってすぐにはわからない人も多いのですが、皆いい表情していますね。彼女たち/彼らに出会ったことで、私の人生観も大きく変わりました。人間の信じ難いまでの邪悪な部分も、素晴らしい部分も、ここではその両方が浮き上がってきます。そして、何よりも自分の有り様が問われてきたように思います。
日本の刑務所で同じ事が同じ様に行われているわけではありませんが、アミティの考え方に基づいた教材を使って、アレンジしてプログラムが行われているのです。その教材は、この写真に写っている人達の体験を礎にしています。番号で呼ばれる存在から一人の人間として成長過程にある人達の声が詰まっています。写真に映っている人達はほぼ全員「更生不可」と言われ続けてきた人達です。死刑から減刑された人もいます。プリズン・サークルも、そんな声から私達が学ぶことができる映画にしたい。この写真を見て、思いを新たにしています。
そして映画が完成したら、アミティとのジョイントイベントも考えたいと思っています。その実現のためにも、最後の一週間、皆さんどうぞ応援してください。
坂上 香 監督