無垢で揺らぎのない、美しい一本の線。ー後藤勝さんからの応援コメント
vol. 51 2025-05-22 0
「第3回刑務所アート展」クラウドファンディングへ、後藤勝さんから応援コメントをいただきました。
後藤勝 Photographer/Journalist/Director of Reminders Photography Stronghold
<プロフィール>
89年に渡米、NYでスタジオ勤務を経て、南米へ渡る。エルサルバドルやペルーで内戦を取材、その後コロンビアで人権擁護団体と活動。97年からアジアの内戦、HIV/AIDSや児童売買などのテーマを追い、日本では差別やマイノリティー問題をテーマにプロジェクトを続ける。これまで国連やアムネスティ・インターナショナル、ヒューマンライツ・ウオッチなどの国際機関と「人権キャンペーン」を世界的に行なっている。2012年に拠点を東京に移し、墨田区で写真総合施設 Reminders Photography Stronghold を設立。
主な受賞歴は、IFDP国際ドキュメンタリー写真基金賞、WHO世界保健機関賞、さがみはら写真賞、上野彦馬賞など。ASK依存症予防教育アドバイザー、山谷地区のNPO団体で困窮者支援とアウトサイダーアートにも関わる。
https://www.masarugoto.com/
<応援コメント>
僕は南米の刑務所で過ごした事がある。
24歳だった。左翼ゲリラを取材中、山の麓で待ち伏せをする軍隊に捕まった。「思想を持たない日本人だ」と説明するが、30年以上イデオロギーの内戦が続いていたこの国のモラルは崩壊していた。
「お前の刑は決まった。左翼だろ。観念しろ」
こう告げられて、地方の刑務所に入れられて尋問が続いた。大部屋には30人ほどの政治犯がいて、運良くその中にゲリラの知り合いがいた。寡黙な彼はペドロと呼ばれていて、次第に親しくなる。軍事政権が続くこの国で、武装闘争こそ唯一の解放への道だと信じるゲリラ兵士が多い中、彼は違った。
「僕は銃の引き金を引かない。その代わりにペンを持ち、言葉で戦う」
ガルシア・マルケスという南米出身のノーベル文学賞作家がいる。ペドロはいつも彼の小説「百年の孤独」を隠し持っていた。
「人の生涯とは、何を生きたかよりも、何をどのように記憶して、語るかである」
彼は僕に、薄暗く汚い大部屋の隅で、このマルケスの言葉を教えてくれた。
塀の中は絶望だ。人間は「希望」が無くなると、生きることへの執着も薄れ、暴力が日常となる。だが不思議なことが起こった。次第に囚人たちが、ペドロの周りに集まってきて、夜な夜な部屋の片隅で語り合うようになる。「言葉」で表現をして、各自希望を見出し、自らの生きる術(すべ)としたのだ。「言葉」はなんという偉大な文明なのだろう。僕は心からそう感じとった。
縁があって、僕はいま日本の少年院でワークショップを行い、少年たちに「写真の術(すべ)」を教えている。
ある日、小柄で人懐っこい少年が1人いた。聞くと「人に馴染めずに問題ばかり抱えている少年」だという。担当の教官たちも参加し、ワークショップが始まった。「何が撮りたい?」という質問に少年は「花壇が撮りたい」と答えた。少年は毎日草木や花に水をやり、教官たちと大切に育てているという。
少年は楽しそうに撮影を始めた。教官たちもそばにいて、静かに見守る。撮影後は、写真の鑑賞会だ。少年は、プロジェクターに大きく映された花や草木の写真を見て、少し恥ずかしげに説明をする。しかし彼は落ち着き、自信に満ち溢れていた。
「こんなに楽しそうに、こんなに彼らしい笑顔で、こんなに誇らしげな彼の姿は、これまで見たことはなかった」
少年が一番信頼する教官が、こうつぶやいた。
ワークショップで伝えたいのは、写真の撮影方法ではなく、写真が持つ、術(すべ)だ。喜びや楽しみ、時には悲しみ感じて、自らが持つ術(すべ)で自分の思いを表現し、その気持ちを感じた人の心が慟哭し、感動する。この過程を経て生まれるものが、「芸術」と言っても過言ではない。
ピカソを見よ。マティスを見よ。バスキアを見よ。無垢で揺らぎのない、美しい一本の線。塀の中でも、堀の外でも、それは変わることはない。
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後藤さん、応援コメントありがとうございます。
5月26日まで、第3回「刑務所アート展」展示会の開催資金を集めるため、目標250万円のクラウドファンディングを実施しています。ぜひ、プロジェクトページをご覧になり、ご支援いただければ幸いです。