ワタクシ、まなべゆきこがこの映画に関わることになった理由
vol. 5 2014-12-22 0
それは、2012年8月8日のことだった。その日、ふとしたことから、「フレンチトーストを食べに行こう」と意気投合した私と本多さんは、鎌倉に来ていた。鎌倉においしいフレンチトーストの店があると聞き、そこを目指して朝から2人で出かけたのである。
天気も良い日で、せっかく鎌倉に来たのだから、と、目的のフレンチトースト食した後、江ノ島水族館→天然氷のふわふわかき氷→江ノ島見物……と、極めてスタンダードな女子旅を展開した私たちは、正しい大人の酒飲みらしく、まだ日が落ちる前から、小町通をちょいと入ったところにある、ヒグラシ文庫という立ち飲み屋に落ちついた。
私の古い友人がやっている、この小さな立ち飲み屋でしたたか飲んだあげく、そろそろ帰ろうか、、、と私が言いかけた時。本多さんがおもむろに言ったのだ。
「実は、動画を撮ってみようかなってと思うんですよー」
本多さんの話によると、自分がずっと使って来たスチールカメラが、最近進化して動画も撮れるようになり、ちょっと動画も撮ってみたいなーと思うようになったのだという。
「いつもファインダーを覗いているその延長線上で、何か動画が撮れないかなって」
【鎌倉の天然氷のふわふわかき氷。全ての始まりの日】
初めてその話を聞いたときの私の率直な感想は、
(なんて軽やかなんだっ!)
というものだった。(本人には言わなかったけど)
プロとして映画業界の一端で生きている私は、映像作品を作る大変さを嫌と言うほど知ってるし、スチールをやるよりも、人も、機材も、お金もかかることは、明らかだ。
本多さんは映画のスチールもやってるから、その大変さも知っているはずなのに、なんだろう、この軽やかさは……。
そう思いながらふと私は、大学時代、自分が自主映画をやっていた頃のことを思い出した。あの頃は何も知らずに、簡単に、軽やかに映画を撮っていたな〜と。今の私はもう、同じ場所には戻れない。でも「あの頃の気持ち」はまだ失わずに持っているつもりだ。
だから私は、すぐに協力を申し出た。もちろんその時はまだ、脚本を書く気も、ましてやプロデューサーなんか、全然やる気はなかった。ただ、私のできる範囲で知り合いを紹介し、応援したい、というその気持ちだけだった。
でも気が付いたら、花男くんと出会い、話しているうちにどうしても脚本が書きたくなって、半ば強引に脚本を書かせてもらい、ふと我に返った時には、プロデューサーという肩書きを名乗るまでになっていた。
本多さんは気付いてないかもしれないけど、これは全ては本多さんの求心力だと思う。
本多さんと花男くん、かもしれないけれど。
【初めてのロケハンの日。この日はまだ、楽しいことばかりで、夢がいっぱいだった】
しかし映画作りは、生半可な気持ちではできない。
あのヒグラシ文庫で話した日からクランクインまで、2年余りかかっていることからも、だいたい想像していただけると思うが、その間も、紆余曲折、色々あった。でもそれを、本多さんはひとつひとつ、頑張って乗り越えてきたのだ。
そして今、撮影という大きな一山を乗り越え、仕上げ作業をしている本多さんは、まさに、青春まっただ中。涙あり、笑いあり、感動ありの中で映画製作を続けている。
私は、本多さんのように、軽やかに、「映画を撮ろう」という人がいなくなっては、新しい映画は生まれないし、映画の裾野は広がっていかないと、本気で思っている。
もちろん、映画製作は「軽やかに」できるものではないし、強靭な意思がなければやり遂げることはできないが、負けず嫌いな本多さんは、その意思を持った人だと、信じている。
それは時に、周りの人に迷惑をかけてしまうことかもしれない。
でも、それでも何かきっと、新しいものを残してくれるはずである。生み出してくれるはずである。私はそれが、観たい。ものすごく、観てみたい。
そしてそれこそが、ワタクシ、まなべゆきこがこの映画に関わる理由、なのであった。
【撮影中:カメラマン城田氏と真剣に打ち合わせをする本多監督】
最後に、花男くんと出会ったことも少し書いておきたい。
今回の脚本は、随分前、本多さんが住んでいる小平にある団地北口商店街で行われる、小さな納会のことを知った時、いつか映画に登場させたい! と常に思っていたことがベースにあるのだが、私がストーリーを、脚本を本気で書きたくなったのは、花男くんの存在抜きには語れない。本多さんの紹介で花男くんと出会った時、私は花男くんが、何か新しい方向へ移行しているようなその転換期にあるような、そんな気がした。
現在の状況に決して満足している訳ではなく、あがきながらも、何か光りを見いだしつつあるような、そんな感じ。私は花男くんのそんな「あがき」を切り取りたいと思った。
今は出会った時から2年が過ぎ、出会ったときからまた少し、光りの中へ一歩踏み出している花男くんがいる。その花男くんが初めて挑む映画音楽も、私はとても楽しみにしている。
【撮影直前、真剣に役作りしている花男くん】