日田、福岡、函館への忘れがたい旅を終えて
vol. 40 2023-09-19 0
9月も半ばを過ぎましたが、まだまだ日中の暑さが収まりません。それでも、朝夕の風、虫の鳴き声は秋の到来を知らせてくれます。
さて、8月15日『ホピの予言』オンライン上映会、157名の方にご視聴いただきました。改めて御礼申し上げます。ありがとうございます!
初めてご覧になった方も多く、「今こそ観るべき映画!」「衝撃を受けた」とたくさんのご感想をいただきました。北米大陸の大地で「ホピ」=「平和の民」は、「母なる大地を傷つけてはならない。最低限必要なものだけをそこから収穫する」という教えを守り、「生きとし生けるもの全ての調和と均衡を大切にする」暮らしを送ってきました。とうもろこしを主食に、牛、馬、羊の放牧と織物をし、ナバホと大地を共有しながら永く生きてきました。
新たな移住者によって強制移住を強いられた砂漠の大地がビッグ・マウンテン。そここそがウラニウムの眠る土地で、その採掘に従事することになった彼らは被曝し、そこから掘り起こされたウランが広島に落とされることになりました。
「鉱物資源は母なる大地の内臓。地球も生きていくのに内臓が必要。決して掘り起こしてはならない」
どんなに略奪され、蹂躙され、虐げられてもなお、その地から大地と平和のために祈りを捧げ続けてきたホピに長く伝わる教えは、現在の地球環境をも予言していました。
「宇宙のバランスを崩すと、地震、洪水、激しい嵐が我々を襲うだろう。季節の激しい変化、火山の爆発、稲妻。そして第三次世界大戦が起これば、我々のうち何人も生き残れなくなるだろう」
私たちの歩むべき道を示すように予言は続きます。
「木々も果実も花も鳥も守らなければならない。なぜなら、それは私たちの一部だから」
1986年、宮田雪監督が私財を投じ、命懸けで撮られたドキュメンタリー『ホピの予言』。現実世界が進んでいる方向の危なさに打ちのめされながらも、自身の生き方を見つめ直す貴重な時間になりました。
さて、8月19日には、大分県日田市にある「小さくて自由な映画館」日田シネマテークリベルテに行ってきました。
昨年の8月、家族の急病でトークの予定を急遽キャンセルせざるを得なかったのですが、オーナーの原茂樹さんから「リベンジで是非!」とお声かけいただき、2週間のアンコール上映の初日に伺いました。
ボウリング場併設というところは大阪の第七藝術劇場を思い出させ、それだけでも気持ちは高揚。入ってみると、カフェにオリジナル・グッズがひしめくショップ、写真展もあり、まさに「文化の発信基地」!
原さんがナビゲーターを務めてくださったトークはなんと1時間半にも及び、「ぶどう園物語-ザ・スターリンになれなかった男」を上梓されたばかりのツージーQさんもいらしてくださって、とても有意義であたたかい時間になりました。
日田と言えば「進撃の巨人」の諫山創さんが生まれ育った場所、山々に囲まれた盆地、というイメージが先行していたのですが、原さんにあちこち案内していただいてわかったのは、数々の歴史の舞台となった神がかった土地だということでした。詳しくはどうぞ調べてみてください。
日田のソウル・フードと呼ばれているらしい「賽屋本店」のチャンポンはボリューム満点で懐かしい味! 道の駅には「進撃の巨人ミュージアム」、駅前にはリヴァイ兵士長の銅像もあって、一度では消化しきれない奥深さを感じました。
さらに、トーク翌日、博多へのバスに乗る前に原さんが連れていってくださったところ、そこは……。
中村哲医師がアフガニスタンの地で水路を引く時に実際に訪れ、その技術を真似たという山田堰。大きなシロサギが魚を求めて何羽も集まり、近くには樹齢が想像できない楠木の巨木あって、何度もの旱ばつ、飢饉に苦しみながらも知恵を絞って自然と共に生きてきたこの地域の力強さを感じる場所でした。
さて、その足で福岡へ。福岡市には各学区に人権尊重推進協議会があるそうで、西高宮校区主催の上映会に呼んでいただきました。
ここで教えていただいたのが「桧原桜」の物語。
昭和59年、福岡市南区の桧原にある樹齢50年のソメイヨシノ9本が道路の拡幅工事で伐採されることになり、1本が伐られた翌朝、一人の住民が桜に歌を下げたとか。
「花あわれ せめてあと二旬(にじゅん) ついの開花をゆるし給え」
この短歌が話題となり、数多の歌が桜に吊り下げられ、その中にこんな返歌があったそうです。
「桜花(はな)惜しむ 大和心(やまとごころ)のうるわしや とわに匂わん 花の心は」
それがのちに福岡市長の歌だったことがわかり、道路拡幅計画は一部変更され、なんと8本の桜がいのちを永らえることになったそうです! いまこそ、そういう首長の気概が望まれるところです。
9月に入ってからはここへ。さあ、この人物は誰でしょう。
答え:石川啄木。北海道は函館に行ってきました。
呼んでくださったのは、函館映画鑑賞協会。1980年11月にテオ・アンゲロプロスの『旅芸人の記録』の上映を皮切りに、「函館に岩波ホールを!」と『木靴の樹』『ベニスに死す』『生きる』『泥の河』『阿賀に生きる』など数々の名画を上映され続けてきた市民団体で、過去には手塚治虫監督、宮崎駿監督も呼ばれたという志の高さ。正直、気後れするというか、申し訳ないような気持ちでしたが、映画文化を愛する皆さんの熱い想い、持続する志に触れて、強い力をいただきました。
会場には3回の上映に220人ものお客様が集まってくださり、中には埼玉から函館の実家に戻り、新たに林業を始めたいと思っていらっしゃる男性、子育て真っ最中だけれど、大地のために何かを始めたいと強く願っていらっしゃる女性も。切実な願いを真っ直ぐ伝えていただき、できれば再来週にも予定されている北海道での大地再生講座に参加されることを勧めました。
事務局長の佐々木公子さんはじめ、フィルムの時代から30年以上にわたって函館に映画を届けられてきた協会の方々の「結」は見事で、空港への送り迎えから、ホテル、食事まで、行き届いたお心遣いとその笑顔に、深く胸打たれました。
今回は年に一度の非会員の方も参加可能な特別例会でしたが、基本的には年に6回、会員向けの例会(上映会)を開いていらっしゃいます。映画を観終わった後、「感想会」と名付けてシェアする時間を設けていらっしゃるのもよかったです。函館近郊の方、お勧めします(hakodate-eikann★ncv.jp *★を@に変えて送信してください)。
啄木小公園から眺める海の向こうには青森県。よく見るとポツンと点のように白い建物が。東日本大震災で一旦ストップしたものの、建設が進み、稼働間近の大間原発とのことでした。
「一旦事故が起こったら風向き次第で大変なことになる。函館は市をあげて反対しているんです」
山と海が近接する美しい土地と原発。全国を回っても、雄大な自然のそばには人間の乱開発が迫っています。
「杜人」が見せてくれる風景、出逢わせてくれる人々……。かけがえのないその縁を、大事に育てていきたいと思います。
2023年9月19日 前田せつ子