【応援メッセージ 中筋純さん(写真家)】
vol. 8 2018-08-31 0
ファッション、舞台、映画、ドキュメンタリーの雑誌&広告企画で撮影を担当する傍ら、日本の産業遺構にスポットを当て作品制作を続ける「魂の写真家」中筋 純 (Nakasuji Jun)さんから、心のこもったメッセージをいただきました。
中筋さんは2007年10月産業遺構としてのチェルノブイリを取材時に、放射能汚染にて22年後もなお沈黙を続ける都市空間に衝撃を受け、その後6度に渡り訪問、数々の作品を残されました。
2011年の福島原発事故後には被災町の許可を得て、無人と化した街々の発する静かなメッセージを季節の変化に寄り添って記録した写真展「流転」を開催されています。
2019年3月5日〜10日 金沢21世紀美術館にて写真展「もやい展」開催予定。
2017年7月、東京・練馬区美術館にて好評を博した「もやい展」が2019年3月金沢21世紀美術館にて再び開催されます。
参加作家は現時点で13名。絵画、彫刻、華道、写真、イラスト、造形、、、それぞれが表現した、ポスト3.11の表現が21世紀美術館の空間に展開し、8年の記憶を振り返らせます。
https://www.facebook.com/2017moyai/
中筋さんには、今回のマップ集に掲載するお写真とエッセイのご協力もいただいております!!ありがとうございます!
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「伝え残すこと」
人間が残してきた最大の財産は記録ではないかと感じるようになった。
古代オリエント、シュメール人が粘土板に残した絵文字文書にはじまって、日本では江田船山古墳から出土した太刀。
後世に何かを伝えようという行動は古より受け継がれ、それは次世代への指南を促し安寧を願う人間のプリミティブな願望なのかもしれない。
それを初めて自分の肉体で意識をしたのが今から10年前にチェルノブイリを訪問した時だった。
当時人類史上最悪と言われた原発事故の現場は、時を経て文明の抜け殻に野生が萌芽する矜持的な風景が展開していた。
「汚染」の烙印を押された土地を愛し法を犯してまで帰村する老婆は素手で土をほり、自前の野菜でボルシチをご馳走してくれる。
その熱い液体が食道を通過して胃袋にたどり着いた頃、チェルノブイリの清冽な空気や水、降り注ぐ光と頬を撫でる風と一体になった気がした。
奇しくもカメラを生業にしている自分に何ができるのか、、?
ひとさじの「踏み絵」のようなボルシチは、写真の持つ「記録」のポテンシャルを改めて気づかせてくれのだ。
だが、チェルノブイリという先人の残したまぎれもない記録の教訓は活かされることもなく、4年後の日本で同じ過ちが起きた。
錯綜する情報に逃げ惑う人々、見えない相手に諸説が紛糾し、やがてそれは生産性のない罵詈雑言の応酬へと変化(へんげ)する。数字をベースにした科学の瓦解にさらに数字を持って制圧しようとする世の流れに対し、子を守りたいという本能に産毛がたった母親は、望まぬ流浪の旅を続ける。
そして空気の異変に物申す人々には「風評」という名のユダの烙印を押し、「安全」から「安心」に姿を変えた新たな神話を押し付けようとする。
理屈と感性がせめぎ合う中で記録は果たして無力なのか?
いや、そうではあるまい。あの日から様々な人々が自分の持ちうるポテンシャルを生かして地を這うような活動を続けている。あるものは科学的に、あるものは詩歌や芸術に託し、またあるものは政治の世界に参入し、そしてまたあるものは身銭を切って子供達の遊び場を提供する。
それらはすべて未来世代を見据えた現世代人からのメッセージの記録でもあり懺悔の記録でもある。未来世代の安寧を願う我々が残せる財産なのかもしれない。
ここ数年福島県の様々な場所、さらに今もなおいつ牙をむくとわからない「近代の暗闇」が鎮座する日本全国の風光明媚な場所を訪問しながら、シャッターを切っているとそんな思いが去来する。
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みんなのデータサイトさんは全国のネットワークで近代がばらまいた「無主物」の測定を、それこそ地を這う思いでやってこられた。
チェルノブイリの記録から見てまずは「無主物」の存在を認めることで、そこからどう向き合っていくのか。
答えは正誤の二つではなく、優先されるのは等しく与えられる人々の選択権なのだ。
今回の6年に及ぶ記録の集大成は、そのような選択の場を未来世代に再度強いないことを希求するための貴重な記録になると思っている。
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『「図説」17都県放射能測定マップ集』書籍化クラウドファンディング
現在1,200,000円(達成率48%)残り29日です。
世界でも類をみない放射能汚染を起こした福島原発事故で放出された膨大な量の放射能がどのような状況になっているのか。
17都県、3,400箇所以上の土壌を、のべ4,000人以上の市民と測定室が協力し、一箇所ずつ採取して集めた膨大なデータを、分かりやすく図説化して解説する書籍を出版しようというものです。
引き続きシェア、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
https://motion-gallery.net/projects/minnanods
作品キャプション:
撮影日:2018年5月21日
場所:福島県大熊町
ひとえに人間は太陽が発する核融合エネルギーがないと生命自体が存在しなかった。
太陽の核エネルギーは人間に恩恵をもたらすが、我々が呼び覚ました核は破綻の道をあゆみ人々に分断をもたらす。朝日に照らされるイチエフのシルエットは膝を屈しこうべを垂れているかのようだ。