〈後藤雅樹 × 本田陽一郎〉
vol. 8 2014-10-20 0
後藤雅樹×本田陽一郎
タイトル:非時香菓(ときじくのかくのこのみ)
素材:金属、木、紙、樹脂、植物他
森のなかを深くさまよい歩き、おそれと心細さにとりつかれていたとき、ふと見あげた木の上にちいさな鳥の巣をみつける。巣には、ツガイの親鳥のすがたも雛たちのなく気配もなかった。それでも、このちいさな小枝の集積に、われわれは「いのちのありか」を感じとる。そして、たくさんの木々のなかから親鳥たちに選ばれたその1本の木が、「いのちのありか」を守る場所にかわる。日がさして、あたりを明るくすると、巣のある木から道がひとすじとおっていた。あたりに満ちてくるさわやかな良いにおいにさそわれて、道をすすむ。あゆみに力がもどっている。あたりの空気がだんだん濃くなって、さそう香りもみずみずしさをふくんで、むせるほどである。そこで森がきれて、ぱっと視界がひらけた。そこでようやく気がついた。あのからになった巣がまもっていたいのちとは、この湯のことであった。