塚原重義×成田良悟スペシャル対談 前編が公開!
vol. 4 2020-05-22 0
なんと今回は『デュラララ!!』・『バッカーノ!』など数々の名作を送り届けてきた小説家・成田良悟さんと『クラユカバ』塚原重義監督の対談インタビューが実現!
実は塚原監督の作品をFlash時代から応援していたという成田さん、
そんなお二人の創作への情熱やルーツなど様々なことを語っていただきました!
総集8000文字を超えるボリュームを前後編に分けてお届けいたします!
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■アニメーション監督・塚原重義 × 小説家・成田良悟スペシャル対談 前編■
――まずお二人のこれまでの経緯についてなど、お聞きかせください。
塚原重義(以下、塚原) 元々学生のころから自主制作アニメを作っていた流れで、短編アニメを作るという方向に進み、今に至るという感じです。
――作品を作るうえで大事にしてきたことなどはありますか?
塚原 オリジナル作品に関して言えば、もう一つの東京=大帝都を設定して、そのあちこちを舞台にした作品をちょっとずつ作っています。微妙に各作品がリンクしているのがお客様からも好評を得ている点かな?とは思っています。
成田良悟(以下、成田)2003年に電撃文庫からデビューさせていただきまして、そこから「バッカーノ!」や「デュラララ!!」といった作品を幸運にもアニメ化していただき、なんとか作家として生き延びられている状況でございます(笑)。
主にキャラクターの多さを売りにした群像劇を書かせていただいていまして、塚原監督との共通点として作品間のリンクは私もかなり多用しています。
幸運にもノベライズのお仕事として「BLEACH」や「悪魔城ドラキュラ」「ダンガンロンパ」のスピンオフなどを過去に執筆させて頂きまして、そういった作品の際にも世界観とキャラクターを大事にしつつ、自分の味を活かせるように頑張って来たつもりですが、出来ているのかどうか今一つ自信はないまま、この場に呼んでいただいたといった感じです(笑)。
――お二人とも東京のとある場所を舞台にしているという点ですが、作品に落とす際のこだわりなどはありますか?
塚原 成田さん、先どうぞ(笑)。
成田 あ、はい(笑)。生々しいおはなしをすると自分がニューヨークや池袋を舞台にしている理由は、そのほうが楽だったからですね。「指輪物語」みたいに一から世界観を作るとその場所の特産品や言語体系まですごく細かく作らなければならなくなるため、キャラクターたちの動きがおろそかになってしまう。一番自分が書きたいのはキャラクターたちなので、世界観に囚われないようにするには、現実の舞台を使ったほうが早いというのがありまして。
今は現実の地続きの部分に“首なしライダー“などの怪奇的な要素が少しづつ入り込み、現実にどう影響を及ぼすのか想像するのが物語を作るうえで楽しみになっているので、現実を舞台にした話を今でも多く書き綴らせていただいています。
塚原 そういう点では僕も似ているところがありますね。自分の場合、街が好きなんですよね、基本的には。自分の箱庭、遊び場として架空の街を描きたいと思っていたものの……自分にとって街の魅力ってその情報密度なんですよね。どういう建築様式の建物があって、どういう商品の看板があるのか、市内交通機関はどんなで、そこに至る歴史背景や現時点の文明レベルや習俗は……?というような。こう考えることが多岐にわたってくると、自分が生まれ育った街とその歴史を足掛かりにした方が実感を持って捉えられるので、郷土である東京、特にその東側をモチーフにしています。もちろん、単純に好きであるというのが大きいですが……。自分が自分の視点で描けるものがこれだったというところに落ち着きました。
――成田先生はニューヨークを舞台にした作品も書かれていましたが、ニューヨークにお住まいだったことが?
成田 実はニューヨークに行ったことは一度もなくてですね。当時はストリートビューなどもなかったので、国立図書館でみつけた資料や地図や旅行書などを参考にしていました。それでも審査員の人には「成田さん、ニューヨーク行ったことないでしょ」とばれてしまいました(笑)。見る人が見るとばれてしまうんだなと。だから「デュラララ」では行きなれている池袋を舞台に書かせていただきました。
――塚原さんは自分が住んでいないところを描くといったことはありましたか?
塚原 オリジナルではあんまりないですね。まだ東京を意識する前の作品はもっとぼやっとした街だったんですけど……。それ以降は基本的にはすべて東京が舞台になっています。作品数が少ないということもあるんですけど(笑)
――成田さんは以前のクラウドファンディングでご支援いただいたわけですけれども、その理由として塚原監督の作品である「ウシガエル」がきっかけだとお話をいただいていますが、「ウシガエル」を知った経緯など教えていただけますか?
成田 多分mixiだったと思うんですけども。当時はフラッシュムービー全盛期だったじゃないですか。「こんなすごいフラッシュがあるぞ!」と周りの友人からの紹介していただいたのが「ウシガエル」でして……。「え、これはセル画アニメじゃないのか……!」と最初に驚きました。一見すると東京の過去の情景に思わせつつ、全く違う様で同じ部分も多い。そんな不思議な感覚の世界をネズミとウシガエルが駆け回るという絵面がすごく魅力的でした。そこから作品を見させていただいて、今に至るという経緯です。
――塚原監督、「ウシガエル」制作の経緯など教えていただいてもよろしいですか?
塚原 当時、毎年末に紅白フラッシュ合戦というオンラインイベントがやっていまして。2003年は見る側でいたんですけど、2004年の夏ごろにその年もあることを知って、もとはそれに合わせて制作を始めたんです。そのころ短編アニメは既に何本か作って公開していたんですけど、それらは「登場メカの設定に拘る」とか「街をかっこよく描写する」とか、物語性よりは自分の箱庭を広げることを中心に「一作品一コンセプト」のような渋めの作りでした。しかし「ウシガエル」はあまり構想に頭を使わず、派手で大げさなエンタメを目指したというか(笑)。でも、色々な反響をいただいてしまい「もうちょっと考えて作ればよかったな」と後悔しました。事前にシナリオもなし、コンテも半分だけ、後半はノリだけで作った大味な作品です。それでも多くの人が何かを解釈して読み取ろうとしてくれたんですよね。そんなこと全然考えてなかったんですけど(笑)。なので、その反省が転換点になって、以降は物語のテーマを考えて込める事を意識するようになりました。あれが作家としての自我の萌芽かな?と、最近は思うことにしてます。
それに、そのころはまだ「もうひとつの東京」観もぼんやりとしていて、ただ漠然と近所である谷根千の街並みを撮って構図の参考にしていたりとか、そのくらいの感じでした。明確に、歴史や文化習俗まで含めて東京をモチーフに定めたのはもう少し後の話です。
成田 「ウシガエル」と最近の作品、「端ノ向フ」の終盤の兵隊さんが街に戻ってきたシーンとか、比べると作りこみが大分違いますよね。モノレールとか……。
塚原 あの辺になってくると、頭の中にだいたいの地図があって、モノレールの路線図はこうで、その中のこの付近の情景を描いている…みたいなのは、ありますね。
成田 あー、そこまでもう出来上がっているなんて、すごいですね。
塚原 例えばあの街中に「ラジウム……」という看板が出てきますけど、あれはモチーフになっている実際の某所に戦前ラジウムの温泉が出ていて、それでちょっと街が賑わったという歴史がありまして。現実では枯れてしまったのですが、それが残って発展しているという設定なんですよ。
成田 なるほど!そういうところからくみ取っているんですね!
塚原 歴史好きというのもあるので、現実では消えたけど、残っていることにしたりするのが面白いんですよね。ゼロから作っているというわけではなくて、自分の好きな要素を発掘して、そのパッチワークで世界を作っている、という感じですね。
成田 それがうまく作品の雰囲気に当てはまっていて、完成度がより高くなっているんだろうなとおもいます。
塚原 ありがとうございます。
――成田さんは世界観をはめるときに工夫されていることはありますか?著作をいくつか見させてもらった際に言葉遊びに近いようなところからヒントを得ている印象を持ったのですが。
成田 言葉遊び……。どの辺とかですかね?
――「読みが違って漢字が違う」など印象的なフレーズがあったと記憶しています。
成田 言葉遊び自体が基礎というわけではないですけど、話を作っている最中にそれがうまく組み合わさるなと感じたら言葉遊びを組み込むこともありますね。後付けで話を作っていくタイプで、最初はキャラを自由に配置して、例えば池袋だったら、サンシャインに向かう途中にある東急ハンズさんとかあたりで、全然別のことをしていたキャラ達がすれ違ったら面白いなという感じで……。それで結果、面白い言葉遊びなどに繋がる場合、順番に組み合わせていくことを積み上げていって、ストーリーと現実に上乗せした世界観を作るといった感覚です。
――お二人の創作についてのルーティーンみたいな物があったりすれば、教えていただきたいです。
塚原 難しいなぁ(笑)。まぁ、散歩ですね。あと夢を日記につけるとか、印象に残った夢を見たときとかはやりますね。それに妄想リレーをやったりしますね。友人とか、仕事の現場でもよくやります。乗ってこれる人乗ってこれない人がいますけど……。例えば遠出して、車窓から山に煙が上がっているのを見たら「狼煙か!この付近に跋扈する賊の襲撃が近いぞ!」……みたいな。それで、三船敏郎か佐藤允の演じるマタギが村田銃を抱えて颯爽と助けに来てくれたりとか、掘立て小屋から爺さんが現れて謎の忠告してくれたりとか、わけのわからない妄想をひたすら打ち合っていくという(笑)。
成田 私も一人でやります(笑)。大学に行くときの電車の窓から見える景色を見て妄想する感じですよね。「今見えている電信柱が一本一本倒れたら何が起こってしまうんだ」「電車が並走しているときに向こう側の電車の中でとんでもない事が起こっていたらどうなってしまうんだ」みたいな(笑)。当時はスマートフォンもないし、混んでるときは本も広げられなかったので、電車の中では妄想するしかなかったんですよね。
塚原 それで思い出したのが、「ウシガエル」に登場するテリヤス工業なんですが、あれは完全に中学の時に友達と話していたバカ話が基になっています。秋葉原の小さなパーツ店で大っぴらに張ってある「盗聴器あります」の張り紙を見て「これはテリヤスの製品に違いない」「流通ルートを調べよう」と捜査ごっこ遊びをしていました。
成田 なるほど、それが下地になっていたんですね。それの積み上げであの世界観が出来たと思うとすごいですね。テリヤス工業のインパクトは強いので(笑)。
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(前編は以上となります後編は6/5(金)公開予定!)
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