言葉と静かに深く向きあう時間を求める人に(糸川乃衣さんからのメッセージ)
vol. 32 2025-01-30 0
コレクターの糸川乃衣さんからいただいた応援メッセージを紹介します。
140字小説はTwitter(X)から生まれました。
いま、Xのなかには多様な言葉がひしめいています。
小説を書かれる糸川さんは、Xの中の言葉と向き合うことに苦しさを感じていると言います。
そして、このシリーズの140字小説たちはそうした言葉とは質の違うものであり、言葉と静かに向き合いたいと願う人のところに届いてほしい、と語ってくださいました。
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◆糸川乃衣さんからの応援メッセージ◆
へいたさん、のび。さん、四葩ナヲコさんという信頼できるお三方の選りすぐりの140字小説を、紙の本で読める日が、もうすぐ来る。
そう思うだけで、心が少し救われる気がします。
同じ140字のTwitter(X)を、ずいぶん前からしんどく感じています。
夥しい数の声が渦巻く急流に投げこまれると、言葉はたちまち情報になってしまう。受けとる側は、押し寄せるそれらひとつひとつの価値を瞬時に見極めなければならないわけですが、当然のことながら、その価値というのは受け手にとっての価値にすぎません。他者の切実なメッセージに対して「スルー」を選択するおのれを自覚させられるたび、また、自分の大切な話が不要な情報と見做されただ流れ去ってゆくのを見送るたび、どうしようもなく苦しくなります。
こんなインスタントな情報処理を強いられる場ではなく、もっと静かなところで、丁寧に、目の前のひとりの語りに耳をかたむけるように言葉と向きあいたい。そんな気持ちが、ずっとあります。
「140字小説セレクション」が手もとに届くのが待ち遠しいです。
なぜなら、こちらの140字は、Twitterとは真逆のものだから。
このレーベルを通じて出会える作品は、作者が小説という形にし、さらに本に収録することを決めた、つまりは「私はこの140字を、形にして残すに値するものだと信じています」とみとめられたものたちです。読者である私は自己基準の取捨選択から解放されて、集められた作品たちをそのまま受けとればいい。インターネットから離れた場所で、自分の手でページをめくりながら読めるのも、ありがたいところです。
たった140字だけれど、いえ、たった140字だからこそ、味わい方はどこまでもひらかれています。
作者に会いにゆくような気分で読むもよし、切りとられた日常のかけらをきっかけに自分の記憶と出会いなおすもよし、小さなお話に連れてゆかれたさきの壮大な景色にぼーっとしたり、作者に内緒で作品と私だけの親密な関係を結んだりしてもいい。とびきりのお気に入りをみつけたら、声に出して読んだり、手帳に書き写したり、体に沁みこませるような読み方もしてみたい。
小さな言葉と、好きなペースで、静かに深く向きあえる。
私は今切実に、そういう時間を必要としています。
同じような気持ちでいるひとたちに、このシリーズが届くことを願っています。
糸川乃衣
お話を書くひと。モズがミミズをはやにえにする瞬間を目撃したことがある。語りの偏りに抗いたい。第1回星々短編小説コンテスト正賞、第3回かぐやSFコンテスト審査員特別賞。
https://linktr.ee/Itokawa_noe
冊子『はやにえ日記』