言葉の宇宙船 ー 編集|坂田太郎
vol. 13 2016-08-31 0
ついにクラウドファンディングを利用しての、プロジェクトブックの事前予約も、残すところあと8日となりました!
今回は、川村庸子とともに本著の編集を担当している、坂田太郎(P3 art and environment)のメッセージをご紹介します。
これまでのプロジェクトの流れを辿りながら、いまの思いをお話しします。
編集|坂田太郎(P3 art and environment)
1980年神奈川県生まれ。これまでP3 art and environment、MeMe Design School、アサヒ・アートスクエア(NPO法人アートNPOリンク)に関わる。P3ではAAF2006~08年度の事務局を、アサヒ・アートスクエアでは寺内大輔、岩渕貞太、蓮沼執太、山城大督との協働プロジェクト、北川貴好、福永敦の個展、ロングパーティー『フラムドールのある家』などを担当。現在は、P3でリサーチャーをしながら、自宅のある横浜で『サイト・イン・レジデンス』を行っている。主な役割は、サイトにまつわる資料収集と整理。 http://www.siteinresidence.org
坂田さんからのメッセージです。
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【メッセージ】
ABIとP3が共同で作り出す文化実践のための小さなベースキャンプ「ABI+P3共同出版プロジェクト」。こんなハイパー情報化の時代に出版活動。勝算があるわけでも、大きな資金的裏付けがあるわけでもありません。ただただ必要性を感じたメンバーが集まったところからの、船出となります。
直感、偶然、移動といった旅の感覚を信条にしてきたP3とABIの両者だから、知識を計画的に、体系的に習得してから取りかかろうなんてしていたら間に合わない。何だか分からないが歩き出し、経験と知恵を頼りに、見つけた素材を組みあげる。まずは本プロジェクトの問題意識や可能性について、プロジェクトメンバーの対話、書簡、会話、メモ、作業日誌、議事録など(予定も含む)、プロジェクト推進で生まれ落ちる様々なマテリアルを圧縮して制作するのが、今回のプロジェクトブックです。現在、その制作が大詰めを迎えています。
・ブックプロジェクトのプロジェクトブック
プロジェクトブックといえば、事業の活動指針やコンセプトなどをコンパクトにまとめた名刺代わりの一冊を指すことが多い。わたしたちの本も同様の試みではあります。ただ少し特殊なのは、この本が、ブックプロジェクトのプロジェクトブック、だということです。
無理矢理ではありますが、本というものを「形式」と「内容」に分けるとすれば、書かれた内容もさることながら、本の形式、本のあり方それ自体が、わたしたちのプロジェクトの指針を体現する。読者は、読み進める過程で、ページで語られるアイデアの数々が、今まさに読んでいるその本のどこかで実践されていることを身体でもって知ることになる。抽象的なアイデアの物質的な実践。自己参照的、自己言及的な構造。こうした本書の特徴には、読者に本プロジェクトの意義や可能性を具体的に感じ、判断、応答いただきたい、という思いを込めています。
・「ABI+P3共同出版プロジェクト」の目指すもの
直近の編集会議のテーマは、「道具(ツール)としての本」でした。詳しくは、本書をご覧いただきたいですが、コンパクトな情報伝達のメディアという以上に、ある種のツール、機能するもの、社会的な道具としての本の側面に、わたしたちの関心は向きつつあります。
今年の4月より、トークイベント、企画会議、編集会議など、場所を変えながら議論を積み重ねてきました。6/22のトーク「こんな本を読んできた」では、芹沢と港が自身のブックヒストリーを通して、「本との出会い」について語り合い、エコロジー、シュルレアリスム、文化人類学、サイエンス・フィクション、Whole Earth Catalog、生命科学の研究者たち、生物学、先史学、トラベローグ、水族館のカタログ……、幾多の本との出会い。社会、人生のなかの本のある風景が様々に語られました。
7/8のトーク「小さな発信基地をつくろう」では、分配、リーディンググループ(読書会)、読者、組織という4つの視点から、わたしたちの「小さな発信拠点」のイメージを探りました。繰り返されたのは、本の届く先や届き方、読まれ方、本を介した人と人のつながり、本に関わる人々の生き方など、一冊のブツとしての本と同時に、その周囲に広がる「本の外延(外縁)」も考えたいということ。つくるものと同時に、つくり方、やり方を変えたい。そんな思いが共有されました。これら以外の小さなミーティングやメールでのやりとりなど含めて、4月より紡いできたプロセスは先日の編集会議へと至ります。本当に少しずつですが、議論を積み重ねることで、「ABI+P3共同出版プロジェクト」の目指すものの輪郭が浮かび上がってきました。
・問いかける本
2回のトークイベントで印象に残ったのは、質疑応答で多くの方が質問や意見に立ってくれたことです。「自分はこんな本を読んできた」「こんな本の構想を温めている」「もっとこうした方がいいんじゃないか」「自分はこう思う」「こんな方法なら具現化できるのでは」「本を使ってこんなことをしている」「読書会を始めたところだ」……。その多くは、私たちの問題意識を共有した上で、そこにある課題を一緒になって考えてくれるようなものばかりでした。
恐らく、芹沢と港の間で交された様々な「問い」が、参加者の問題意識や経験を刺激したのでしょう。二人の対話を通してなされたのは、解決策を提示するというよりも、問いかけること。問いを深め、問いの輪郭を浮かび上がらせること。そしてそれは、私たちだけの問題ではなく、多くの人にとっても、現代における本や出版、そして文化の生産全般について考える糸口やきっかけになるような類いのものだと、トークイベントを通して実感しました。
今回のプロジェクトブックは、そうした様々な問いかけを一冊にまとめたものだといえます。例えば、最初に言及した「道具としての本」。文化的活動や、制作物を道具やツールという視点で捉えることに、どんな現代的な意味や可能性があるのだろうか。こうした問いかけと議論の痕跡を収録するとともに、この問いを問いのままで終えるのではなく、自分たちなりの回答をブツとして具体的に差し出してみたい。
最後に、今回、発行部数を1,500部(予定)としました。単純化すれば、これは1,500人の方々と私たちの問いかけ、問題意識を共有したいということ。社会に訴えるというには少ない数かもしれません。しかしつくり手の仲間内だけで充足するようなスケール設定にはしていません。リスクはありますが、まだ見ぬ人も含めた多くの方々と問題意識を共有し、議論しながら、これからの出版活動を実践していきたいという、わたしたちの願いを込めました。
坂田太郎
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どうぞよろしくお願いいたします!