クランクアップしました
vol. 4 2021-08-21 0
みなさま、初めまして。『こちらあみ子』監督の森井です。
8月1日、無事にクランクアップしました。
正直言ってクランクアップしたくありませんでした。これまでたくさんの現場に参加してきましたが、こんなにも撮影が終わりたくないと思ったのは初めてです。とても魅力的な現場でした。そして、その中心にはいつもあみ子がいました。あみ子は正真正銘、この映画の座長でした。
あみ子は自由な子です。撮影だからといって緊張したりしませんし、たぶんこれが仕事だとも思っていません。映画作りを遊びだと思っているのだと思います。
普段は仕事として映画を作っている我々も、座長あみ子の雰囲気に影響され、次第に映画作りが遊びと思えていった印象があります。
遊びには終わりが来るものですが、遊びであればあるほど、終わりたくないと思うものです。仕事として認識しているとむしろ終わりを目指してしまいがちですが、遊んでいるときはいつのまにか日が暮れてしまっていたりします。今回の現場は、それに似た感覚がありました。気づけばもう薄暗くなっていて家に帰らなくちゃならなくなっている、あの感覚です。
あまりにも終わらせたくなく、追加シーンをいくつも用意してわがままを言って撮らせてもらったりしてこの遊びを何とか引き延ばそうとしましたが、もう追加シーンも思いつかなくなってしまい、とうとう最終日である8月1日の朝を迎えてしまいました。
いつもは僕らが現場で準備していると、まず絶叫が聞こえてきて、あみ子が現場に入ってきたことがわかります。あみ子は「おはようございます!」なんて言いません。「うぎゃー!」という雄叫びと共にスタッフ全員の腹をパンチしてまわるのがこれまでの朝の恒例の挨拶だったのです。
それなのに、この日の朝イチのあみ子の顔を見ると、目を赤らめてひどく沈んだ表情をしていました。いつもはあんなに元気なのに…。朝現場に入るとき必ず絶叫してたじゃないか。それが今日はまったく静か。腹パンチもありません。僕は感傷的な気持ちになってしまいました。そうか、あみ子も撮影が終わるのが寂しくて泣いたのかもしれないな…。僕も泣きそうになってしまいましたが、現場で泣いたらみっともないので我慢していました。
しかし、あみ子のテンションはその後も一向に上がりません。というよりなんならちょっと不機嫌にすら見えてきました。不機嫌なのは撮影が終わりたくないからだろうな、きっと、と思って見ていたら、鼻をくしゅんくしゅん言わせ始め、目をしばしば擦り、くしゃみを連発し……、おや、なんか思ってたのと違う……。
ついにいたたまれなくなり、メイクの寺沢さんに聞いてみました。
森井「あみ子、泣いたんですか?泣いたんですよね?撮影が終わるのが寂しくて泣いたんですよね?」
寺沢「うーん、、、たぶん野良猫にさわっちゃったからだと思う、、、」
実はあみ子は猫アレルギーにもかかわらず、ついついかわいい野良猫に触ってしまい、アレルギーが出てしまったらしいのです。僕の感傷的なストーリー作りはあっさりひっくり返されました。大人はすぐに感傷的なストーリーを作ってしまいますが、それは子供には、ましてやあみ子には全然通用しないのでした。
その後もあみ子はしばらく不機嫌でした。自分の気持ちにまっすぐ正直なのがあみ子のいいところです。撮影だからといって良い子になってはくれません。鼻も目も全部かゆいんだから仕方がありません。一度不機嫌になるとなかなか元に戻ってくれないのがあみ子の素敵なところです。無理はしません。子役の中には映画を作ることが仕事だと認識して、大人の求めるものにすべて答えようと努力する子供たちもいますが、あみ子はその子供たちとは正反対の存在でした。自分の生理に対して徹底的に従順でした。
あみ子も次第に元気を取り戻しはじめ、ラストカットの撮影になりました。シンプルなカットだったこともあって、あっさりと終わってしまいました。みんなでクラッカーを鳴らし、『こちらあみ子』の撮影は終了しました。みんなに祝福され、あみ子は笑顔でした。「やったー!」と絶叫していました。ぼくは「あみ子お疲れさま」とは思いませんでした。ぼくが思ったのは「いっしょに遊んでくれてありがとう」でした。それはスタッフみんなもきっと同じ気持ちだったと思います。
楽しい時は楽しい。イヤなときはイヤ。眠い時は眠い。遊びたいときは遊びたい。かゆいときはかゆい。ムカつくときはムカつく。優しくしたいときは優しくしたい。この純粋さの塊のようなあみ子を撮影できたことが、ぼくは本当に楽しく、本当に幸せでした。
いまは絶賛編集中ですが、あみ子の魅力は映画を観てくれた人にも伝わるものになっていると思います。必ずお届けします。楽しみにしてお待ちください!
『こちらあみ子』監督 森井勇佑