カンカクフィルム監督 小暮哲也ロングインンタビュー(前編)【取材・文/岡部徳枝】
vol. 45 2017-07-05 0
こんにちは。カンカクフィルムの監督 小暮哲也です。
いよいよ明日、ファンディング期間が終了します。ここまで応援いただいているみなさま本当にありがとうございます。
今日のアップデートは、監督 小暮哲也自身へのインタビューの掲載です。
取材と文章を書いてくれたのは、ライターの岡部徳枝さん。僕がバリへ川村亘平斎の滞空時間を追いかけて行った時からの長い付き合いの友人で、その後も何度も一緒に川村亘平斎の作品を目撃した仲間です。
それだけに感慨深く、自分の想いを素直に話させてもらえました。
ぜひ最後まで目を通していただきたい内容ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
カンカクフィルム監督 小暮哲也ロングインンタビュー(前編)【取材・文/岡部徳枝】
●川村亘平斎氏を題材にドキュメンタリーを作りたいと思ったのは、そもそもどんなきっかけからでしょうか?
小暮哲也(以下K):2012年の春に友達を通じて亘平くんに出会って、そのあと観た滞空時間のライブでものすごい衝撃を受けて、そこがすべての始まりです。当時の僕は、写真家としての仕事が主で、ちょうどこれから動画に挑戦してみようと考えていた時期でした。動画のキャリアを積むためには、ちゃんとした取材対象が欲しい。そんなときに目の前に現れたのが亘平くん。是非ドキュメンタリーを撮らせてもらいたいとお願いしたら、快く受けてくれました。それと同時に、「7月に滞空時間でインドネシア公演に行くから、それも取材したら?」と誘われて。僕はまだ独立前で、師匠に就いていた頃だったから簡単に仕事も休めないし、正直どうしようかなと迷っていたんです。でも後日、そのインドネシアツアーの壮行会イベントがあると聞いて吉祥寺のアムリタ食堂にカメラを持って出かけたら、ラジオパーソナリティの神田亜紀さんとライターの岡部さん(私です……笑)がいて。すごい勢いで「絶対にバリに行ったほうがいい、明日師匠に相談しなさい」と(笑)。それで翌日師匠に話してみたら「休んでいいから行って来い。機材も貸してやる」と背中を押してくれて。結果バリに行けることになり、公演DVD「ONE GONG」まで作れることになった。映像監督として記念すべきデビュー作が誕生したわけです。
●取材対象として亘平くんのどんなところに惹かれたんでしょうか?
K:今までこんな人見たことない!っていう強烈なオリジナリティ。滞空時間のライブを初めて見たときに、もう何をやってるかまったくわからなくて、とにかく「なんだこれ?」っていう(笑)。それがすごくかっこよかったんですよね。わけがわからないのが魅力的。わからないから知りたい、そこを掘り下げてみたいと思った。だって、インドネシア語かと思って聞いていた歌も、あとで聞いてみたら亘平くんが勝手に作ったテキトーな言葉だって言うし、おもしろすぎるなと思って。影絵に関しても、自分が知ってた影絵とはまったく違う。どこか怖くて、それがすごく魅力的に映りました。
●出会いから約5年。小暮くんは亘平くんの活動を近くで見て、その歩みをいろいろ記録してきましたよね。
K:僕の中では、ふだんの仕事とは別の作品作りとして捉えているところがあるから、ただ撮りたいという理由で本当にいろいろな現場を訪れました。それこそ亘平くんが1人で影絵のプロジェクトを始めた当時から始まり、「影絵と音楽」シリーズはかなりの回数撮影しているし、山形ビエンナーレのキッズアートキャンプ(2015年・南相馬の影絵芝居「ヘビワヘビワ」)も、3日間ベタ付きで取材しましたね。今すぐこの映像をどう活用するかということより、この先、川村亘平斎という人間のドキュメンタリーを創り上げるにあたって、残しておくべき瞬間がある。そう思って純粋に追い続け記録してきた感じです。
●その中でも今回のインドネシア滞在中の様子を取材することは、とりわけ重要であると?
K:そうですね、だから絶対に作品として残したい。これまでの亘平くんのキャリアの中で一番大きなプロジェクトだし、1年間のインドネシア滞在と帰国後3年間の制作という長期にわたる挑戦だということからしても、亘平くんにとって確実にターニングポイントになると思うんです。
●小暮くんはすでに今年2月にバリへ取材に訪れてますよね。そのときの様子は、このクラウドファンディングのトレイラーで一部見ることができますが、実際亘平くんは現地でどんな暮らしをしているんでしょうか。
K:今回は彼が影絵を習っているバリのスカワティ村を訪れたのと、カリマンタン島で影絵のライブパフォーマンスをするということでそこにも同行しました。バリでは主に影絵師(ダラン)として伝統的な影絵芝居(ワヤンクリ)の技術を修得するために、バリ芸能の全盛期にもっとも活躍したという巨匠ナルタさんに師事しています。影絵師は、薄い牛革素材にパペット(影絵人形)をデザインして作る作業から、劇中でそのパペットを操り、唄や語りを繰り広げる芝居まで、すべて自分で行います。それから芝居の伴奏となるグンデル(ガムランの楽器)も演奏できないといけない。なので、名士サルゴさんのところへもグンデルを習いに通っています。亘平くんは、かつてバリに留学してガムランを習っていますが、影絵師としてしっかり誰かに師事するのは今回が初めてのこと。だから、これまで日本で行ってきた影絵パフォーマンスというのは、バリの影絵芝居をベースにしつつも、亘平くん独自の前衛的な表現が色濃く出たものだったと思うんです。それがここにきて改めて、バリの伝統的な影絵芝居を基礎から学んでいる。これは僕が今の彼をおもしろいと思うポイントでもあります。
●トレイラーの最後には、ナルタさんから影絵芝居を習っている映像もありますね。2人の距離感が美しいというか、特別な空気感が伝わってくるようなとても印象的なシーンでした。
K:ナルタさんは75歳。とても穏やかなのんびり屋さんで知られているようです。亘平くんの恩師、皆川厚一さんの名著「ガムラン武者修行」にも、そののんびり屋エピソードで登場するとか(笑)。「弟子にしてください」と訪ねたら、最初は「もう歳だから教えられない」と断られたみたいですよ。でもなんだかんだと受け入れてもらって、2016年11月29日の新月に亘平くんは正式に弟子になった。今はナルタさんのところへ週に2回、サルゴさんのところへも週に2回、車で片道40分かけて通っています。
●ナルタさんは日本人の弟子を迎えたことについて、何か言っていましたか?
K:「コウヘイは日本人なのにヤバいことをやっている」と僕に言ってきました。ヤバいことっていうのは、難易度が高いっていう意味なんだけど、じゃあ何が難しいかっていうと、影絵師は芝居中にカウイ語というバリの古語を使うんですね。カウイ語は神様の言葉でもあり、今のバリ人でさえ理解できる人は少ないみたい。当然亘平くんにとってもイチから学ぶ言語なわけです。で、このカウイ語をナルタさんから習うには、一旦ナルタさんと亘平くんの共通言語であるインドネシア語に訳す必要がある。さらに、その言葉の意味や物語を知るために日本語に訳す。つまり亘平くんは、二重通訳で勉強しているわけです。
●じゃあ亘平くんの頭の中では、カウイ語、インドネシア語、日本語の3言語が飛び交っているわけですか。
K:そう、ややこしいでしょ(笑)。この言語習得だけでも凄まじいことだと思います。影絵芝居には、カウイ語を話す神様と、そのカウイ語をインドネシア語やバリ語に通訳する役割の道化の神様が登場する。だから芝居の中でも必然的に二言語以上は必要になってくるんですよね。トレイラーの中にも、カウイ語を勉強する亘平くんが登場しますけど、本当に集中して学んでるなと感じました。バリ人でも難しいカウイ語を操る日本人影絵師。これだけでもなんだかヤバそうだって伝わってくる(笑)。いざ現地を訪れて、稽古現場に居合わせて、亘平くんがどれだけすごいことに挑戦しているのか、どれだけの決意で修行に挑んでるか、そこを実感できたし、記録として残す必要性を強く感じましたね。
後編へ続く
【取材・文/岡部徳枝】
岡部徳枝
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