2017年8月9日 会田誠さん画材レクチャー(岩根彰子)
vol. 28 2017-08-15 0
いよいよクラウドファンディングも残り6日を切りました。
鉄工島FESでのお披露目に向けて、根本さんの制作も後半戦。そんなタイミングで再び会田さんが新しい画材を持ってきてくださいました。
ここまで根本さんが使ってきた絵の具は、基本的に透明なアクリル絵の具。以前、会田さんが「根本さんの場合、直にキャンバスに向かって、ああでもないこうでもないと悩みながらやったほうが活き活きした絵になるように思うんですよね」とおっしゃっていた通り、その時々のインスピレーションをそのまま画面に映し出していくような形でキャンバスを埋めてきました。
実際に描き始めたのが5月25日。それから約2ヶ月半ほど経って、今回、会田さんが新たに提案してくださった画材は、ネオカラーという不透明な絵の具とポスカです。
重ね塗りすることでニュアンスのある表現ができるアクリル絵の具と反対に、ネオカラーは「不透明絵の具」。下の絵の具を覆い隠す力が強いので、ベタ塗りに向いていて、下が暗い色でも明るい色でも変わらなく描けるのが特長です。
まずは以前、用意してあった小さいキャンバスに、会田さんがアクリル絵の具をざっと塗っていきます。
そこに上からネオカラーやポスカで模様を描き込む会田さん。
「いままで描いたものを無視して、思い切ってその上に落書き風に絵を重ねてしまってもいいと思うんです。それを活かす活かさないは後の処理でなんとでもできるので」
また、ポスカは高いところを描くときにバッグなどにまとめて入れて脚立に登れば、いちいち降りる必要がないので手軽に使えるというメリットも。しかも極太のものを使えば、線を描くだけでなく一部分を塗りつぶすなど、面を作ることにも使えるとのこと。
次に会田さんが教えてくれたのは、そんな風に蛍光色やポスカで描いた部分が全体の統一感を乱しているように感じたときの対処法。全体のトーンをまとめるためにグロスメディウムを溶いたアクリル絵の具を重ねていけばいいそうです。
「メディウムは木工用ボンドみたいなもの。そのままでは白いですが乾くと透明になります。グロスというのは要するに油絵のようにギラギラ光るということで、グロスメディウムをアクリル絵の具に混ぜて重ねていくと、油絵っぽさが出てくる。落書き風に勢いで描いた部分にこれを重ねると全体的なまとまりが出たり、うるささが抑えられます。逆に目立たせたいところを強調するためにも使えますし、色的にも不透明絵の具の単調になりがちなところにニュアンスを与えてくれる効果もありますね」
このようにメディウムを使って色を重ねることを「おつゆがけ」、英語では「グレージング」「グレーズ」などというそうです。
「この絵は、すでにだいぶそういう感じになっていると思いますが、しつこいくらいに重層的で、複雑な感じになったほうが面白いと思うんです」という会田さん。
今回教えてくださったのは、現在の状態からさらにしつこい書き込みをするために不透明絵の具を使う方法、さらにそれを大きな絵としてなじませるためのグロスメディウム使い、ということです。
また最後に会田さんからは「あくまでも僕の個人的な意見ですが」という前置き付きで、鉄工島FESに間に合わせることを最優先に考えなくてもいいんじゃないか、というアドバイスもいただきました。
「先ほども言いましたが、この絵は執念で描けば描くほどよくなるタイプの絵だと思うんです。いっそ、やりすぎるくらいの方がいいのではないかと。イラスト仕事とまた違って、締め切りは俺が納得した時だ! みたいにふんぞり返れるのもアートだったりしますから」
鉄工島FESでの除幕式まで、あと約一ヶ月半。今回のレクチャーを反映して(あるいはまったくしないで)根本さんの絵がどう変わっていくのか。そして、最終的にどのような作品が生まれるのか。多くの人に、ぜひ自分の目で確かめにきていただきたいと思います。
最後にもうひとつ。こちらは余談ですが、作業の合間に根本さんが自分と会田さんのことを「“We are the World”リハーサル時のボブ・ディランとスティービー・ワンダー」になぞらえて、編集者の穂原さんと盛り上がる一幕がありました。
“We are the World”のリハーサル中、抑鬱状態のような顔をしているディランが自分の担当パートの歌い方がつかめずクインシー・ジョーンズに意見を求めにいくと、スティービーが「こうすれば?」といった感じでピアノを弾きながら、まるでディランそのもので歌って示す場面(天才としか言いようがない!)がメイキング映像に収められているのですが、根本さんはそれを想起したようです。
▲京浜島のディランとスティービー
(岩根彰子)