会田誠さんBUCKLE KOBO来訪レポート(岩根彰子)
vol. 24 2017-06-21 0
すっかりレポートが遅くなってしまいましたが、5月半ば過ぎ、会田誠さんが完成したドローイングを見にBUCKLE KOBOへ足を運んでくださいました。
▲30枚のドローイングにゆっくりと目を通す会田さん。
そのうちの何枚かを指して「これなんかはアートっぽいですね。中間色とかグラデーションが使ってあると、アートっぽく見えるんですよね」と。
▲会田さんが「アートっぽい」と指したドローイングの一部。牛のあたりにゲルニカの影響が……。
その後、根本さんが全体構成を考えるためにドローイングのコピーを切り貼りして作った、いわばラフスケッチを見ながら、大きな絵を描くにあたっての具体的なアドバイスをしてくださいました。
まずは事前に描くドローイングの位置づけに関して。もちろん実際の絵のモチーフや構図を決めるためという意味もあるが、それよりもむしろ「描き始めのフレッシュな感覚が保存されていることが大切」と言う会田さん。
「描いている途中で、そもそも最初に何がしたかったんだっけ? とわからなくなることがあるので、そういうときにドローイングを見直して初心を思い出したり、リラックスして描いていたときの感覚を取り戻す目安にするのがドローイングを描く主な目的だったりするんです」
ドローイングはあくまでもイメージ作りの素材で、本番は本番として考えた方がいいでしょう。そう前置きして、会田さんの話は続きます。
「ドローイングは紙を机に置き、ペンを持つ手首をスナップさせながら描いているので、そこに描かれた線にはそういう動きや息づかいが感じられる。一方、キャンバスのように垂直な壁に向かって、肩から腕を自然に動かして描く線はドローイングとはまるで違う線になります。特にこういうタイプの大作だと、お客さんは描いた人の息づかいや体の動きを追体験しながら絵を見るものですから、基本的には下書きを10倍に拡大するという考え方ではなく、垂直のキャンバスに描くときの肉体の実感の方を優先した方がいいと思います」
ドローイングとペインティングの違いについて、もうひとつ興味深かったのが、モチーフの内側と外側のバランスのお話でした。
漫画やイラストなどのいわゆるドローイングでは、たとえば猫というモチーフを描くとき、その輪郭と内側をしっかり描いていけばいいが、ペインティングではモチーフの猫と同等か、時にはそれ以上に背景への描き込みが必要になるとのこと。絵のタイプによって違いはあれど、一般的にペインティングは絵画の物質的強さが「モチーフの内部と外側とで比重が同じである方がよい」とされているそうです。
確かにいわゆる「絵画」と「イラスト」を比べてみると納得です。
「特に油絵的な手法でキャンバスに描くときは、モチーフと背景の境界線がせめぎあった結果、最終的にここに決まりましたと感じられる方が、画面が強くなる傾向にあります」
▲ドローイング用のクロッキー帳の表紙にメモを取る根本さん
一方、描きたいものはまだ無意識のなかに収まっている状態なので、仮に下絵を作ったとしても、描き進めるうちにそこからどんどん変化していくだろう、という根本さん。その変化を記録するためにも、定点観測カメラを設置することになりました。
会田さんからは他にも、横長の絵を見るとき、基本的にお客さんは横に目線を動かすので、横スクロール系の構図がうまくいくことが多いといったお話や、会田さん自身が大きい絵を描くときに意識していることとして、「元は大きくても、雑誌などで紹介されるときにはかなり小さい扱いになってしまうこともよくある。だから小さく印刷されても大体の絵の構造が伝わるようにしようと思ったりしますね」といった本音も。
「ただ根本さんが描く場合は、根本さんファンが見ることを考えると、10メートル離れて全体をみても面白いけれど、すごく近づいてイラスト的にみても面白いという、その両方があった方がいいと思う。いわば10メートルから10センチまで、全部面白いというのがいいのではないかと思いますね」
最後はアドバイザーとして現状の画材をチェック。
「多分、これだけでは足りないので、近々、百円ショップなどでいろいろ使えそうなものを買い出ししてきます」
というわけで、翌週には「いろいろ使えそうな」道具を揃えて、再びBUCKLE KOBOへ来てくださった会田さん。その模様は次回のレポートにて。
岩根彰子(撮影:江森康之)