7/3 映画『僕達急行 A列車で行こう』レビュー
vol. 12 2020-07-03 0
『僕達急行 A列車で行こう』(2011)
監督・脚本:森田芳光
あらすじ
都内の中堅企業に勤める小町と、実家の鉄工所で働く小玉。共に鉄道ヲタクの二人は、休日に電車の中で出会い意気投合する。
趣味にいそしむ二人だが、仕事と恋愛の状況はあまり芳しくない。小町は九州への転勤が決まり、小玉は融資を受けられず苦しい経営に喘いでいた。
鉄道を通じて互いを励ましあう二人は、福岡での鉄道旅行で年輩の鉄道ヲタク・筑後と知り合う。彼との出会いをきっかけに、二人の状況は好転していく。
友情や恋、人との縁を、風情ある鉄道風景と共にゆるいコメディタッチで描く。
僕が今働いている工場の横には線路が通っている。数十分に一度、地元民には馴染みのある朱色の電車が通過していく。勤め先の工場は、ちょうど駅と駅の真ん中ほどに位置している。南東の方にはよく野球をして遊んだ公園のある駅があり、北西には母校の最寄り駅がある。
朱色の電車は工場と田んぼに挟まれた路を、あっちへそっちへ行き来する。その中間で、僕は今働いている。
小町・小玉が愛する鉄道。二人には独特の楽しみ方がある。小町は車両や風景にあった音楽をチョイスして、聴きながら乗車する。小玉は車両の音や材質を五感で感じながら乗車する。
一時期“鉄ヲタ”がメディアでよく取り上げられることがあった。撮り鉄、音鉄、時刻表鉄など、それぞれの愛し方によって分類がされていた。
僕の電車への愛は小町や小玉には遠く遠く及ばないが、その分類に沿っていえば、“駅鉄”になるかもしれない。乗車しながら通過する駅とその周りの街を見て、その駅を毎日利用する人の暮らしに思いを馳せる。渡り廊下を自転車で走り去っていくおっさん、改札の前でたむろする学生たち、もう人気のないホームで電車を待つサラリーマン。一駅一駅に暮らしがあり、電車に乗る僕はその人々と乗り合わせたり別れたりしながら、線路の先へ進んでいく。
そして初めて降り立つ駅で、彼らはどんな風に僕を迎えるのだろう。荷物を背負い出口を探してキョロキョロする青年を、今日はどういったご用で?なんて、考えてくれていたら素敵だ。
朱色の電車は工場と田んぼの間を進んでいく。そこから見える街の一部である僕も、いつか朱色の電車に乗って、緑の電車に乗り換えて、知らない街の駅へ降り立ち、まだ見ぬ人たちと出会う。線路はつづくよどこまでも、どこへでも。
髙野亮太郎