伊参スタジオ映画祭のこと
vol. 4 2021-09-06 0
ご支援者の皆様
「ゼツボウガラス」企画・脚本の村口知巳です。
少しずつですが、秋の気配を感じるようになってきましたね。
日本の場合、秋から冬にかけて、わりと映画祭が集中的に開かれますが、今回の「ゼツボウカラス」も、あるひとつの映画祭をきっかけに生まれた物語になります。
「ゼツボウガラス」という物語は、もともと 2012年に伊参(いさま)スタジオ映画祭のシナリオ大賞というシナリオコンペに僕が応募し、審査員奨励賞をもらったシナリオです。
その伊参スタジオ映画祭は、群馬県の中之条町という山里の田舎町の、さらに山奥のレトロな廃校で毎年開催されている映画祭です。
ここ数年、たくさんの映画祭に参加してきましたが、この映画祭ほど、映画の作り手と観客が混じり合う映画祭はないような気がします。
一般的な映画祭で上映される映画は、インディーズ映画では特にそうですが、観客にとっては、初めて観る映画がほとんどで、監督やキャストもその場にいる事になると、観る側も多少は畏まったというか緊張した心持ちで映画にのぞみます。
そして映画を見終わったあと、僕たちはその映画の余韻を持ち帰りつつ、あるいは咀嚼しながら、今日見た映画の事を思ったりするのですが(タイミングが合えば監督やキャストに当たり障りのない感想を伝えたり)、まあ、それはそれで映画祭の醍醐味なのですが、伊参スタジオ映画祭は2日目の夕方頃、参加者全員にカレーが振る舞われます。
地元のお母さん方の作る、ごく家庭的なカレーです。
そのとき、招待された監督・キャストにしろ、有名なゲストにしろ、観客にしろ、カレーを食べたい人は、みな平等に配給の列に並ばないといけません。
そしてカレーを受け取った人は、すみやかに各自適当な場所を見つけ、カレーを食べます。たとえ隣にさっきまで観ていた映画の主演俳優がいたとしても、まずは何より、僕たちは目の前のカレーを食べることに専念します。
僕はそのときの、全ての参加者がごちゃごちゃに混じりあった会場の風景が好きです。
そしてカレーの後、映画祭の最後にはいつも「月とキャベツ」という日本映画が上映されます。
長年シナリオ大賞の審査員長も勤めている篠原哲雄監督が、映画祭の開催地でもある中之条町で撮影し、1996年に公開されたノスタルジックな味わいの素敵な作品です。
「月とキャベツ」の上映が終わり、すっかり日も暮れた頃、伊参スタジオ映画祭は幕を下ろすわけですが、あなどるなかれ、僕らは暗闇の中、帰り際に(冗談ではなく)キャベツのお土産までもらいます。
運が良ければ、辺りが真っ暗な中、空にはぽっかりと月が浮かび、僕らは文字通り「月とキャベツ」を手にして帰るわけですが、映画祭に参加しただけなのに、なんだかいろいろな事が「ああ、これでよかったんだな」とそんなふうに思える不思議な映画祭です。
そして今回、篠原哲雄監督とシナリオ大賞の審査委員の一人で「ゼツボウガラス」を奨励賞に推薦していただいた、シナリオセンター講師の坂井昌三氏、伊参スタジオ映画祭の実行委員長である岡安賢二氏から応援のコメントをいただきました。
また、町田市で2019年に開催された鶴川ショートムービーコンテストで、川上さんのアニメーション「雲梯」と僕の「サウンド・リザバー」という短編作品を上映していただいた縁で、鶴川ショートムービーコンテストの実行委員長でもある清原理氏からも応援コメントをいただきましたので以下に記載させていただきます。
伊参スタジオ映画祭のシナリオ大賞でかつて奨励賞を受賞した作品がこうしてアニメ化されることに喜びを感じます。ゼツボウが希望に大きく化けて描かれていくこの作品は実写ではなかなか難しいと思ったことは確かです。繊細で心打つ作品を期待しています。
(篠原哲雄 / 映画監督)
いつ映画になるのか待ちくたびれていました。シナリオを再読してみたらアニメになるべくシナリオに思えてきました。「ちゃんと絶望してからまた生きてください」のラストメッセージが忘れられない。アニメの中でどれだけ印象的になるのか楽しみでなりません。
(坂井昌三 /シナリオセンター講師)
脚本・村口知巳監督の持ち味は喜怒哀楽に当てはめず、徹底してヒトを見つめ、その複雑さを提示することにある。アニメという手法により、それはより際立つに違いない。
(岡安賢一 / 伊参スタジオ映画祭実行委員長)
映画は複数の人間が関わって創り出すところがユニークポイントなアートですが、村口知巳監督と川上喜朗監督の出会いが思いがけない創発になることを期待しています。
(清原 理 / 「双方形」主宰・鶴川ショートムービーコンテスト実行委員長)