『TATTOO BURST』元編集長 川崎美穂さんからの応援コメントです!!
vol. 6 2020-06-10 0
本邦初のタトゥー情報専門誌『TATTOO BURST』元編集長、現在はタトゥーに関する執筆や調査研究員として活動中の川崎美穂さんから応援コメントいただきました!
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刺青にまつわる仕事をしていて〝梵天太郎〟の名を知らぬ者はいない。
閉塞した社会に風穴を開けるべく、さまざまな表現媒体を通し、刺青の芸術的側面や魅力を伝え、古い偏見を払拭することに生涯を捧げてきた、新たな時代の開拓者であった。先見の明があり、ファッション的なタトゥーが世界を旋風する未来が見えていたのだろう。
だが、刺青師として活躍される前に凡天太郎の名義で描いていた劇画などの記録は、ほとんど残っていなかった。生前インタビューした際に御本人にも訊ねてみたが、いい意味で過去に執着心がなく、いつも次世代のタトゥーのことを考えているような方であった。
2008年鬼籍に入られた後、有志により『凡天劇画会』が発足。過去作品の発掘調査が本格的に行われ、やっと全貌が明らかになっていく。会の発足当初から活動を応援し、ときには執筆やイベントに参加させてもらいながら、その軌跡を追いかけてきたのだが、今回は幻の映画といわれていた『刺青』をリマスター化するときき、これは今までで一番のミラクルだと心躍った。
この映画が公開された1978年の日本は、ワンポイントをコレクションする欧米スタイルのタトゥー文化を理解する以前に、まだ「タトゥー」という言葉さえ周知されていなかった時代である。
刺青といえば錦絵のような絵物語で全身を包みこむスタイルが基本であり、男性の場合ワンポイントは痛みに耐えられない者の「落書き」と嘲られる風潮もあったと聞く。無論、現代のようにお洒落な和柄デザインを手がける彫師もいない。
さらにひと昔前の彫師たちは、タトゥーマシンを「電気針」や「ミシン」と呼んでおり、手彫りから機械彫りへ移行することを躊躇していた世代である。流派の異なる彫師同志は口を利くことさえも憚られていた。
本作は企画・制作・原案・脚本・監督・出演までを手がけ、映画という大掛かりな表現手法で、新しい時代の幕開けを世に知らしめようとした渾身の力作である。
主なあらすじは、昔気質な職人を貫く師匠とファッション界で華やかなスポットを浴びる弟子、その世代間の対立を描いた物語であるが、一見相反する二人の彫師は、どちらも凡天太郎という一人の彫師が内包していたカルマの具現化である。
究極の刺青芸術を欲しながら伝統と革新の狭間で葛藤し、理屈よりも生の衝動に突き動かされながら数奇な運命を辿るという、自伝的要素をふんだんに含んでいる。
特筆すべきは、刺青を入れるシーンはフェイクなしの実演、刺青者もペイントではなく本物を採用していること。さらには冒頭のサービスカットに、カルーセル麻紀への施術シーンという衝撃のお宝映像も挿入している。映画音楽を手がけた宮川としをによる和モノ・レア・グルーヴも素晴らしい。
実験的で突飛な部分もあるが、それを差し引いても有り余るほどの圧倒的な熱量が勝る。これぞ常識を突き抜けた凡天イズムの真骨頂というべき重要な作品であることは間違いない。
昭和の香りがプンプンとする娯楽映画として楽しめるのは勿論のこと、日本刺青の価値ある貴重な歴史的資料として切にリマスター化を希望します。皆様こぞってご協力のほど宜しくお願い致します。
川崎美穂