今尾偲監督より推薦メッセージいただきました!
vol. 12 2024-08-05 0
良い映画には「事件」が映り込む。それは何も大袈裟なアクションシーンや車の爆発という「事件」ではなく、製作者たちの意図を超えたところに不意に立ち現れる「現実の介入」だ。監督ニキル・ペールワーニーは、この作品に7年もの月日かけ、ダウン症のアブリ・ママジを主演に抜擢し、この映画を完成させたという。そこで描かれているのは、インドの市井の人々の「日常」だ。
だが日常には、実は全ての事件が存在している。障害者問題、精神疾患、格差社会、恋愛と結婚……それはどこの国でも起こり得る、今あなたの隣で起こっている出来事かもしれない。だが、そうした問題をあからさまに社会派として取り上げるのではなく、この物語においてはそうしたものはあくまでも背景として描かれている。そして、一見さりげないコメディーの様に見せながらも、そこには確たる主張がある。それは多分「全ての生には価値があり、美しい」という事だろう。ニキル・ペールワーニーはこうした主張を「語る」のではなく、映画的に「感じさせる」。そのさりげなさに、僕はとても勇気づけられた。
今尾偲(映画監督、『私が私である場所』『猫、かえる Cat's Home』)