アリスの不思議な国へ! エツツとブルーノの小屋を訪ねて
vol. 5 2016-09-21 0
こんにちは、川内有緒です。
先日のエツツからの手紙の中で、彼女は一時期ブルーノが作った「エコハウス」に住んでいて、そこでできたトマトや野草を食べてお腹を満たしていた、という話があったので、それについて私が知っていることを書いてみようと思います。
私が「パリでメシを食う。」を出版した後、えつつはもはや「59リヴォリ」に住んでいませんでした。住みたくてももう住めなかったのです。パリ市は、「59リヴォリ」を合法化した後、アトリエとして利用することだけを認めて、住むことは禁じました。
そこで、一部のアーティストは、新たにパリの端っこにある広い庭のある家で共同生活をしていました。どっしりした家で、古きよき邸宅といった趣があって、猫も何匹かいて。「アリス」という名のおばあさんが住んでいたらしいので、そこは「ジャルダン・アリス」(アリスの庭)と呼ばれていました。ブルーノとエツツは、その庭に自作の「小屋」を建てて暮らしながら、「59リヴォリ」に通うという生活をしていました。
この頃、東京に住んでいた私は、ある夏休みにふたりの新たな住処を訪ねました。えつつは、「全部ブルちゃんが作ったんだ!」と言いながら、小屋を案内してくれて、コーヒーを入れてくれました。
みんなで庭に置かれたピクニックテーブルでコーヒーを飲んでいると、次々と変な格好のアーティストが現れ、お茶会はどんどん賑やかになきます。なんだか本当の「アリスのティーパーティ」に招かれたみたいな気分になりました。
このエコハウスは、本当に小さく、そして、すてきなのです。
まず、その材料のほとんどが、廃材の「パレット」(荷物を運ぶ時の木の台)でつくられています。パレットはとてもがっしりしていて、家まで作れちゃうって初めて知りました。
そして、その内部構造も独特。台所とダイニングは一階に、寝る場所は天井が低い中二階に、くつろぎの暖炉スペースは半地下に配置されています。つまり、熱や光の効率を考えて設計されているんです。地下にある暖炉は、温かい空気を家じゅうに行きわたらせ、寝室はゆっくり寝られるように薄暗く、小さなダイニングキッチンには光が燦々と入るように。
さらに、トイレは水で流す必要がないコンポスト式。生活排水もフィルターや水草、魚などを利用してちゃんと浄水できるのです。風力発電の小さな器械が家の屋根のあたりでクルクルとまわり、広大な庭ではトマトやズッキーニが大きな実をつけて……と、あまりの自給自足ぶりに、そして、あまりにゆったりと流れる時間に「本当にここはパリか!?」と驚き続けてました。
私たちは、夏の太陽の下で、コーヒーを飲んでおしゃべりを続けました。猫が時々遊びに来てくれて、神出鬼没なチャシャ猫みたい。人はこんな風にパリで生きられるのか、すごいなあと、とその一日は、今でも私の宝物になっています。
先週もらった手紙には「あの頃はお金がなくて大変だった」とありました。
実は、あの頃そんなに大変だったのかと今更ながらに知りました。でも私が「エコハウス」と言われて思い出すのは、惨めな生活をしている彼女なんかではなくって、「ははは!」と何事も笑いとばすスカッとした笑顔とあの「アリスの不思議な国」なのです。
クラウドファンディングも残り2週間になりました。
今約40人がコレクターになってくれて必要な資金の40%が集まりました。ご支援いただいた方には、こころより感謝申し上げます。ただ、まだまだサポートが必要な状況です。ぜひよろしくお願いします! えつつは11月に展示で東京にやってきます。スクワットさながらの、ものすごくユニークな展示になりそうです。ぜひ一緒に楽しい時間をすごしましょう。