サイコロを握って
vol. 400 2021-10-22 0
今週のはじめに初号試写をした。
ずっと僕だけが知っていた映画を関係者たちも体験した。
僕の耳に初めて映画『演者』のリアクションが届いた。
僕のサイコロは赤い一の目しかない。
ひとつずつ、ひとつずつ。双六の升目。
初稿から決定稿までの脚本を読み、繰り返し稽古して撮影した出演者。
話の展開を全て知っているはずの出演者たちの声。
鑑賞直後の上気した声は僕を勇気づけてくれた。
映画の大事なところはどうやって浸透していくのかだとも思う。
直後から少しずつ記憶になっていって体感としての感触になっていく。
映画を観に行く道程も含めた体験が数日後にどんなものに変化するだろう。
ふと思い出すシーンはあるだろうか。
もう一度観たいシーンはあるだろうか。
もう一度体感したい瞬間があるだろうか。
物語の展開を知らない方々にも近日中に観ていただける。
完成披露試写会が待っている。
それ以降は国内外映画祭に挑戦し続ける。
しばらく公開までは時間がかかるだろう。
それが初めての審判の日になるのかもしれない。
でも僕はどうやら恐れることはないらしい。
全てを知っている出演者の声でもらった勇気は力強く僕を支えている。
楽しみにしてくださっている声も届き始めている。
完成披露試写会は本当に限られた人だけのプレミアムな機会になりそうだ。
広めの会場なのにそんなに多くの方々を呼ぶわけじゃない。
舞台挨拶も含めてどんな一日になるだろうと想像してしまう。
いつか伝説的な一日になるといいなぁ。
本当に始まるのはこの日からなのだから。
誰もが心の中にスクリーンを持っている。
とてもオリジナルなスクリーンだ。
それはいつか観た映画を思い出したり。
いつか体験した出来事を映し出す。
同じ映画の同じシーンでもきっと人によって少しずつ違う。
白黒になったり、スローになったり、ピントが一人に当たっていたり。
映画が記憶になった時に初めて観た人だけのオリジナルな映画が出来上がる。
自分のこれまでの体験や感情が重なった人生の一部になる。
豊かな映画はそんな一部にいつの間にか重なる作品なのだろう。
最後の編集はどんな映画だって鑑賞する人の心の風景だ。
サイコロが転がって赤い一の目が出る。
またひとつ進む双六。
僕だけが知っている映画は更に拡がっていく。
その目には何が書いてある?
あがりはいつやってくる?
そろそろ出演者たちの体験になっているだろうなぁ。
それぞれの心の動いた瞬間の感触が浸透していく。
今になって何を想うだろう。
それを僕は想像してみる。
それが楽しくて。
それが楽しくて。
それが更に拡がると思うだけで。
ワクワクするから。
恐れるどころか。
その日は近い。
サイコロを握って。
小野寺隆一