365日の祈り
vol. 365 2021-09-17 0
映画「演者」クラウドファンディング公開から365日目。
365日連続のアップデートは週に一度の金曜日、全員公開の日。
偶然、そんな日に整音された音声が届き、エントリー版が完成した。
様々なパーツが集まって。
今、ここに映画がある。
たった一つの映像クリップ。
たった一つの収録音声。
たった一つの劇伴音楽。
一人の脳から生まれた脚本が俳優の肉体を通して顕現して。
イメージが一つ一つ具現化されていって。
いくつかの濃密な時間を過ぎて。
今、ここに映画がある。
自分のセーターを編み上げることは中々難しいのだという。
誰かのセーターを編むことの何倍も何十倍も。
時間があればできるのではない。
人はたとえ無意識であったとしても何かが必要なのだろう。
漠然と編むことはできない。
まして進んでいるのかいないのかわからないような作業は何度も止まりかける。
僕がこうして一歩一歩進むことが出来たのはきっと僕の為じゃない。
僕たちは20年以上も小劇場の舞台に立ち続けてきた。
目の前に座っているあなたの心に届け届けと演じ続けてきた演者たちだ。
笑うなら声を出して笑うまで、切ないなら息を切らせて泣くまで。
僕たちは目の前の人たちの心が動くことだけを目指してきた。
そして音楽が止まった刹那に聴こえてくる客席からの吐息に。
僕たちはその何倍も何十倍も何万倍も感動してきた。
カーテンコールの万雷の拍手の中、生きている実感を手にしてきた。
全ての音声、音楽、効果音がミックスされた音源を色調整された映像と重ねる。
タイムコード00:00:00:00から僕は僕たちの映画「演者」を世界で初めて鑑賞した。
自分が監督で編集をして何度も何度も観てきたはずなのに。
僕は何度も心を震わせて、いくつかのシーンで涙ぐんだ。
長い旅路を終えた達成感による感動なんかじゃない。
純粋に作品に感動している僕がいた。
世界中の誰よりも僕がこの映画を知っている。
ああ、大きなスクリーンで観たい。
大きなスクリーンだからこそのシーンまでしゃぶりつくしたい。
来週からは字幕製作のチェック作業が始まる。
そして完成披露試写会の準備にも入る。
字幕が完成したら世界中にこの映画を送りつづける。
365日。
歴史に残るような一年。
パンデミック、オリンピック、テロとの戦いの終焉、新しい冷戦、風の時代。
今、地球上の人間たちは大きな大きなうねりの中にいる。
新しいイデオロギーが生まれて、新しいネットワークが出来て、世界は変わるだろう。
飽和状態にある経済は新しい価値観に呑み込まれるだろう。
その特別な一年をここに皆様と共に歩めたことは全て僕の力だった。
ステージの上に立っていた時と同じように。
目の前のあなたに僕はこのアップデートを綴り続けた。
たったの一歩でも前進し続ければゴールは近づいてくる。
わかっていても足が動かない日だってあるさ。
でもそんな時に足を動かせたのは全てあなたのおかげだった。
演じることは祈ることだ。
演じることが生まれた時は同じ意味だった。
英語の「PLAY」と「PRAY」の語源が同じように。
うずめが天岩戸の前で踊ったように。
だとすれば「演者」とは祈る者たちだ。
誰かの為に。
まだ心が震えている。
僕の頭と体を映画「演者」が支配している。
小野寺隆一