映画『演者』完成目前
vol. 358 2021-09-10 0
映像のカラーグレーディングから微調整が完了。
劇伴音楽もすべてが出揃った。
残すところMAが終われば映画は完成する。
同時進行で海外映画祭エントリーのための字幕製作も進んでいる。
映画『演者』完成目前。
映画が完成すれば終わりなわけではない。
同時に様々なことが動き始める。
零号試写の準備にも入ることになる。
緊急事態宣言は9月末までと決まったようだけれど。
完成後はなるべく早い段階でやりたいと思っている。
実際に公開するという段階は国内外映画祭エントリー後だから少し先。
公開の段階に進むには配給、宣伝、物販など山のように考えることがある。
どんなふうに進んでいくのかは頭の中であるけれど、今すぐじゃない。
まず完成させること、そして一歩でも広い世界に届くようにすることだ。
僕にとっても。
出演者にとっても。
関係してくださった全ての皆様にとっても。
もちろんクラウドファンディングに参加してくださった皆様にとっても。
大事な作品にする。
重要な一歩になるように。
まだごく一部の人しかこの作品を知らない。
出演者や関係者ですらどんな映画になっているか知らない。
脚本を読んでいたって、どう仕上がっているのかはわからない。
僕の想像を役者が肉にした。
僕の想像をスタッフが骨にした。
どんな皮をまとって、どんな映画が生まれているのか。
まだほとんどの人が知らない。
まだ誰も観たことがないような映画。
そして観ていただかないことには説明することが難しい映画。
人に観てもらうことは恐ろしいことでもある。
でもそれを上回って一人でも多くの人に観て欲しい。
そしてそれと同じかそれ以上にどこかの誰かたった一人に届いて欲しい。
傑作とはきっととても個人的なことなのだと思う。
誰にとってもきっと自分にとっての傑作があるはずだから。
それは誰かの評価でも世間の評価でも社会の評価でもない。
人に薦められて出会ったのに、その人よりも深く愛してしまうことだってある。
僕はずっと僕自身にとっての大傑作を探し続けているのかもしれない。
今まで数えるほどの脳天から電気が走るような傑作があった。
そんな作品に出会いたいときっと探し続けている。
この映画もこの世界のどこかで誰かにとっての特別な作品になるかもしれない。
今日もきっと映画館でそんな作品との出会いを探している人がいる。
今、家に閉じ籠って少ない刺激の中で生きている少年がいるかもしれない。
それはいつかの僕自身でもある。
コロナ禍という閉塞感に溺れてしまいそうな少年は何を思っているだろう。
何も思わないようにしているかもしれない。
大人たちの喧騒にしらけきっているかもしれない。
何もかも厭になっているかもしれないし、ただ漠然と不安かもしれない。
インターネットの中にしか居場所がない人だっているかもしれない。
そんな何人もの人の中から誰かがこの声を聞くかもしれない。
それはまるで奇跡のようなことだって思っている。
その時、きっとこの映画は傑作になる。
個人的な傑作で構わない。
意味もなく叫ぶようなこと。
それをきっと僕は芝居を初めて30年間探し続けてきた。
海に向かってバカヤローって叫ぶなんて本当かよと思いながら。
心が震えて、電撃が走って、声が漏れ出てしまうような瞬間。
僕はそれを「劇的」な瞬間なのだと呼んできた。
その一瞬を創るために劇の世界でもがいてきた。
傑作が完成しようとしている。
胸を張ってこの船を海に出す。
映画『演者』完成目前。
未だ誰も知らない。
小野寺隆一