映画「演者」クランクアップ
vol. 260 2021-06-04 0
全5日に渡る撮影が無事終了した。
5日と言っても実質は4日。
初日の午前は移動と準備、仕込み。
最終日は朝に1シーンのみで残りは撤収作業だけだった。
想像はしてたけれど、想像を超える濃密な時間が過ぎていった。
この短期間では何かを犠牲にせざるを得ないだろうと想像する人もいると思う。
でも今、思い返してもそういうことは一つもなかった。
アングルを決める時だってそうだし、カットごとの照明創り込みも。
そしてもちろん芝居も、まあこれでいくかというOKは一つもない。
編集で何とか出来るかな?みたいなことすらしなかった。
髪の毛一本が気になれば、もう一度。
皆でこだわって撮影し続けた。
それが出来た理由は3つ。
移動時間を極力減らせるロケ地を選んだこと。
事前の打ち合わせでやって欲しいカットを伝えていたこと。
そしてやはり稽古をしていたこと。
段取りチェックでもシーンの通しでの芝居を全てのシーンでする。
動きの説明などもほとんどしないですぐに段取りに入れる。
稽古で方向性を伝えてあるから、あとは本番の空気でどう変わるかを見ればいい。
そしてスタッフさんに言っていただいたことだけれど、芝居の直しがとても早い。
長く一緒に稽古をしてきたから、共通言語が出来上がってる。
ここはもう少し強めにしたいかなぁというだけで目でわかるほど芝居が変わる。
その役者の一瞬での対応力を褒めてくださった。
僕はなんとも言えず誇らしい気分になった。
スタッフさんの仕事の早さもすごかった。
テストから本番の間の直しのスピードにはいつも驚いた。
そのスピードに応えなくちゃいけないと何度も思った。
でも本当はどうなのだろう。
僕はたくさんの人に支えられながらただただ夢中になっていただけかもしれない。
クリエイティブなその時間に没頭し続けていただけかもしれない。
誇らしかったし、応えるぞと感じたことは嘘じゃないけれど。
本当の僕は欲だらけで、もっと良いものを、もっとすげえのをと思い続けていた。
「用意!」と口して、本番を迎えてモニターに集中する。
そのほんのわずかな映像ひとつを創り込むことに全身で浸かっていた。
浸かり切っていた。
毎日、撮影が終わると酷く疲れていると気付いたのに。
深く寝入っても短時間で目が覚めたのはずっとハイだったからだろう。
起きると同時にその日の撮影シーンのことばかり考えてた。
皆が話しかけてくるとき「今いい?」と頭につけていて申し訳なかった。
どこか話しかけづらい空気を纏っていたのだと思う。
まったく僕のようなものは面倒くさいやつだと思う。
そんなやつに付き合ってくださった全員に感謝です。
もう僕の脚本なんてゴミに近いものだと思う。
撮影されたカットに比較したら、ただの文字列でしかない。
この映画はこんなにたくさんの皆様に応援していただいて製作をしている。
夢の中に入って夢中になる時間を僕はいただいた。
支えられてばかりの僕が出来ることはこの作品を仕上げることだ。
成就させることだ。
たくさんの宝物を繋ぎ合わせて、映画が出来上がる日がやってくることだ。
全ての支えてくださった皆様に。
ありがとうございました!!
小野寺隆一