大航海には地図が必要だ
vol. 30 2020-10-17 0
29日目終了。
ついに30日目が始まる。
全体で言えば4分の1の日程を越えることになる。
新月の夜に始めたから、29.5日周期で数えて二度目の新月の夜。
月齢は難しくて、明け方の4時頃に正確な新月なのだけれど月齢表のカレンダーでは17日になる。
そう思って17日の夜に空を見上げると、もうとっくに新月は終わっている。
昼と夜という考え方にすればいいのになぁと思う。
今日が満月だよなんて言葉を聞いた時には、前日の夜だった可能性がある。
月齢表では明けて今日が新月の日。でもこの夜が新月だなぁと思っていた。
映画「演者」シナリオ初稿を一旦ここで脱稿した。
まだ変更点があると思うし、これからキャストのバックもあるかもしれない。
現時点でオファーをしていない役も登場している。
もう少しキャストが増える可能性もあるし、削る可能性もある。
いずれにせよオファーが出来るような状況ではない役が幾つかある。
現時点でオファーしている役者にだけシナリオを送信する。
土曜を〆切と言いながらずっとこの新月を気にしていた。
きっと目を通すタイミングはそれぞれまちまちだろう。
まだ舞台が終わったばかりで余韻の中にいる役者もいる。
劇団の解散という現実を目の前にして中々そんな気分にならない役者もいるかもしれない。
スマホではなく、プリントアウトやパソコンで冷静に読みたいキャストもいた。
どんなバックがあるのか、気が気じゃないけれど、ゆっくりと待つしかない。
映画やドラマのシナリオは1ページが大抵400~500字だ。
20行×20文字、17行×30文字。
はじめは何故そうしているのかわからなかったけれど、どうやら尺の計算が関係しているという。
1ページ辺りそのぐらいの文字数にしておくと、おおよそ1ページ1分で計算できるのだそうだ。
もっとも1ページぎっしりとト書きが続くこともあるし、1行に「音楽」と書かれることもある。
だからあくまでも目安という意味なのだと思う。
芝居のテンポでも全く変わってしまうのだから参考値でしかない。
それでも一応参考にしたいからいつもの舞台台本の形式から、シナリオ形式に直して完成させた。
その参考値で考えれば、現時点では45~50分のシナリオだろうか?
自分の中では60~70分に思えるけれどさすがにそればかりは撮影しないとわからない。
かつて、僕のことを「マグロ」と名付けた女性がいる。
彼女は映画監督を志していた。
思えばあの頃の僕は酷い有様だった。
いきなりバンドをやると言い出して、毎月のライブと、レコーディングをやりだした。
それ以外に、有志の仲間同士でお笑いライブまで立ち上げたり、お笑いビデオも作った。
そして、劇団でショートフィルムを創ろうと企画までし始めた。
今ほどではないにせよ、制作業務の半分ぐらいはやっている中でだ。
そういう中で、PFF入賞までしたその監督も仲間のように一緒に活動していて。
その彼女に、止まると死ぬマグロだな!と言われた。
回遊魚ってことだ。マグロは運動量が下がると酸素が足りなくなって死んでしまう。
それ以来、色々なやつらに、マグロマグロと言われた。
下衆な意味の、まな板の上のなんとやらとは正反対の意味になる。
とにかくほとんど寝ないで毎日毎日何かをやらかしていた。
結局、あの頃から何も変わっていないのかもしれない。
舞台の次の日でも、ライブの次の日でも、すぐに動き始めた。
いったん休むということをしたくなかった。
そうせざるを得ないほど自分がやる事を創っていった。
思えばそれはそれまでに休んだせいでこうなったのかと悩んだことがあったからだ。
10周年が終わってからはまた少し変わっていったけれど。
今になって同じようなことをしている。
セブンガールズの時も同じようなことをしてた。
そんな僕をマグロと呼ぶのだから、きっとそれは普通のことじゃない。
どこかがイカレているのだと思う。
一週間はゆっくりとしたいというキャストもいるかもしれない。
そう思うと少し早いタイミングすぎるんじゃないかと思う。
今は時の流れが速い時代で、あっという間に舞台の話題もSNSから消えていくけれど。
そんな中で自分の出来ることをゆっくりと考えることだって何も悪くないのだから。
そういうのって多分タイプなのだと思う。
僕はクライマックスで涙を流すようなシーンを演じても舞台上から袖に入った瞬間に切り替わる。
殆どの役者は袖に入っても感情が高ぶったままだったりする。
袖に入ってすぐに、あれ?なんで泣いてるの?なんてわざと質問をしてはたかれたこともある。
そういう訓練をしたという自覚もあるのだけれど、やはり生来のタイプというのもあると思う。
舞台公演期間中は役に影響されてしまう役者もいるし、公演後しばらく気が抜けたようになる役者もいる。
終わればなんにもやる気がなくなる役者もいるし、鬱のようになる役者だっている。
全員が自分と同じだと思ってはいけない。
だからメールの送信ボタンをしばらくクリックできなかった。
読んでみて何も響かなかったらどうしよう。
意味がわからないという役者がいたらどうしよう。
やっぱり、一度、出演を考え直したいと言われたらどうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
せっかちなだけなのかもしれない。
人によって状態が違うことなんか当たり前だ。
演劇だって映画だって、体調次第で受け止め方が変わることがある。
劇団に入ってからは創作はそこまで多くないし、まだまだ信頼されていないんじゃないか。
そんなマイナスな不安ばかり頭をよぎる。
けれど自分なりに出来ることはやってきた。
まがりなりにも世界に持っていくとプロジェクトページに書いている。
そして応援してくれる人が既にこんなにたくさんいるのだから。
自分自身が一人で始めると決めたことなのだから。
それに失うモノなんて自分の自信であるとか自尊心であるとかたかだかそんなものでしかないのだから。
何よりも自分が面白いと思うものを信じないで何が出来るだろうか。
すでに腹は決めている。
メールを送信する直前にそう自分に言い聞かせた。
そしてこれは地図だ。
世界に向かう地図だ。
海賊王に俺もなる。
誠実に書いてきた。
無理に誰かの見せ場を付けたしたりすらしていない。
作品に必要なシーンだけを積み重ねてきた。
全てが意味を成して、全てを対称にしてある。
自分の心が動くまで書き直した。
これから色々な人に見せることになるシナリオ。
その最初に見せる人たちは信頼し続けてきた仲間だ。
そして一番、忌憚なくなんだって言ってくれるだろう。
僕がそれで傷つくことなどない。
むしろ笑ってしまうかもしれない。
お前、馬鹿だなだけで伝わるものだってある仲間なのだから。
やばいやつを創る。
とんでもない奴を。
孤独な戦いは、少しだけ広がった。
30日目はこうして始まった。
小野寺隆一