選考委員の選評(速報版)を公開します
vol. 8 2025-05-31 0
先日発表した第3回音楽本大賞の大賞と個人賞を受賞した6作について、選考委員5人の選評を公開します。クラウドファンディングのリターンとして作成するZINEにフル・ヴァージョンを掲載しますが、その前に短い速報版を書いていただいたものです。
【大賞】
金成玟著『日韓ポピュラー音楽史 歌謡曲からK-POPの時代まで』慶應義塾大学出版会
選評
◎横川理彦
1960年代から現在までの、日韓のポピュラー音楽の発展と相互関係を辿る一冊。しっかりとデータを押さえ、読みやすくてわかりやすい、「なるほど」とうなずくこと必至の好著。今すぐ読みたい!
◎松平あかね
歌謡曲から世界の音楽シーンを席巻するK-popまで、大衆音楽を通して戦後の日韓関係を俯瞰できる一冊。韓国の音楽が厳しい社会情勢の中で進化を遂げる様子や、「アイドル」の在り方が日韓で異なる話も興味深い。
◎毛利嘉孝
音楽はたやすく国境を越えるにかかわらず、ポピュラー音楽の多くの歴史はナショナルな境界に閉じ込められてきた。日韓をポピュラー音楽で繋ぐ野心的でトランスナショナルな試みを讃えたい。
◎渡邊未帆
常に変化する近隣国との緊張と緩和の関係。音楽において、国境を軽々と越える要素、どうしても越えられない要素とは何なのか? 今「よく聴く音楽ジャンルはK-POPです♡」という方々にもこの本を勧めたい。
【個人賞】
■横川理彦選
ティボー・エレンガルト(著)鈴木孝弥(訳)『キング・タビー ダブの創始者、そしてレゲエの中心にいた男』Pヴァイン
選評 ダブを発明し音楽に革命を起こした中心人物、キング・タビーの実像に迫る一冊。関係者への徹底的な取材から浮かび上がるジャマイカの状況が熱く生々しい。著者も納得した日本語版の取り組みも素晴らしい。
■松平あかね選
岡島豊樹(著)『古典邦楽十吋盤のすすめ』カンパニー社
選評 昭和中期に最盛期を迎えた10インチレコード盤から、古典邦楽の約700枚を丁寧に紹介した圧巻の仕事である。失われた日本の美意識を語り継ぐのに好適。ジャケットを立体的に見せる工夫にも作り手の愛を感じる。
■毛利嘉孝選
白石美雪(著)『音楽評論の一五〇年 福地桜痴から吉田秀和まで』音楽之友社
選評 音楽評論とは何か。音楽や演奏者、聴衆や読者、そしてジャーナリズムやアカデミズムとどのような関係をもつのか。150年もの歴史を遡り、語られなかった音楽評論の系譜を重層的かつ鮮やかに浮かび上がらせる労作。
■渡邊未帆選
AKALA(著)感覚社編集部(訳)『ネイティヴス 帝国・人種・階級をめぐる イギリス黒人ラッパーの自伝的考察』感覚社
選評 なぜ、いま、ここに自分が存在しているのかを問うことで読み解かれる世界の矛盾と不均衡。カリブ系の父とスコットランド系の母の間に生まれたラッパーによる内省的自伝にして、21世紀ブラック・カルチャーの重要書。祝・日本語訳!
■細馬宏通選
相田豊(著)『愛と孤独のフォルクローレ』世界思想社
選評 フォルクローレ音楽に関わる人々のアネクドタ=逸話をたっぷり浴びた著者は、彼らと自身とのやりとりを、あたかもアネクドタを語るように記し、反復するラテンアメリカの孤独を活写する。気鋭の文化人類学者の快著。
以上です。
- 前の記事へ
- 次の記事へ