応援メッセージ/山岳気象予報士・猪熊隆之さん
vol. 15 2020-11-25 0
登山者に頼りにされる「ヤマテン」の「山の天気予報」。日本で初めて、本格的に山岳地域の天気予報に踏み切ったのは、気象予報士の猪熊隆之さんです。
同じ、山を愛する者として、メッセージをくださいました。
この春は、エベレストに行く予定にしていました。
最近は、ヒマラヤへ行く機会はなく、もっぱら日本で天気予報をして、皆さんのヒマラヤ登山に関わってきましたので、本当に久しぶりのヒマラヤでした。
いつも通り天気予報をしながら、キャラバンをして、エベレストに登り、現地の空模様や空気感を皆さんにお伝えしたいと考えていました。
それが、新型コロナウイルス感染拡大によって、すべて中止になってしまいました。
けれど、私は諦めきれなかったんですよね。
4月下旬に山岳4団体が登山の自粛を呼びかけたことに、私は違和感がありました。
登山とは、自分自身で判断し歩みを進めるもの。他者から強要されるものではない。
新型コロナウイルス感染拡大を受けて、登山を控えるのも、また自分なりの登山を続けるのも、決めるのは本人。そして、その判断と行動の結果を引き受けるのも、本人。
私は、自分自身に幾つかのルールを課して、細々と登山を続けようとしました。
・一人での登山に限定する
・事故は自分持ち。自ら責任で行う(通常以上に装備のチェックから、一歩一歩、神経を集中することまで、リスクマネジメントを徹底する)
・体調不良時の登山は行わない(過去10日間を含む)
・県内の日帰り山行に限定。山小屋、避難小屋は使わない
などなど。
いつもより、安全マージンを大きく取り、より慎重になりました。
これまでであれば、前向きで降りていた雪の斜面を、後ろ向きになりクライムダウンしたり。
実際には、父の介護が始まり、いわゆる自粛期間中に山に登れたのは、ほんの数回だったのですが、それはそれでよい経験でした。
team KOIが、登山再開に向けて、ヤマケイオンラインに記事を載せた頃、私も自分なりにルールを考え、webに掲載しました。
現在残っているのは、6月12日に出した修正版です。https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/75faa445a0d4dd6fa474b59ea91bb2e5
こういったルールを考えるときにも、また後ほどお話したいと思いますが、母校の大学山岳部の学生たちの指導にあたる際にも、team KOIや日本山岳ガイド協会、日本登山医学会などが掲示したルールやガイドラインは、参考になりました。
私はなによりも、スピードを重視したかったので、最初に5月23日に「登山再開に向けたご提案」を発表しました。
いまほど、新型コロナウイルスのことがわかってはいませんでしたし、世の中は混乱していたこともあり、ずいぶんと反対意見やお叱りも受けました。
けれど、どんどんと修正していけばよいと考えていました。
そのオープンマインドな性質は、team KOIさんとも共通していると思っています。
その後、各方面からルールやガイドラインものが出そろい始めたとき、私の書いた提案は、役目を終えたと思いました。
ところで、大学山岳部についてです。
私は現在、母校の大学山岳部の監督を務めています。
主に首都圏になりますが、各大学山岳部の現状について、情報交換をしながら、母校の活動について検討してきました。
母校では、6月になって、段階的に部活動を再開させました。しかし、7月初旬に、体育会の寮でクラスターが発生しために、いったん休止。こちらから大学側に交渉した結果、再び徐々に再開できるようになりました。
状況は、各大学によって差異があります。再開の目途が立っていないところもあれば、10月になってようやく再開できた部もあります。
これから雪山シーズンになります。
大学山岳部にとっては、例年であれば1年間の総仕上げ、ハイライトとなるシーズンです。
テントでの集団生活での感染が懸念されていますが、雪山登山においてはとくに、テントや雪洞での生活の経験、技術習得が必要不可欠です。狭いテントや雪洞ではありますが、どうやって安全を確保しながら登山ができるか、さらに検討を続け、大学側に提案し、雪山シーズンを少しでも充実させたものにしていきたいと考えています。
大学山岳部は、先輩から後輩へと技術や経験が伝えられていきます。今年は、山に登れない期間が長く、その間、自主トレーニングに励みモチベーションを高めた部員もいれば、目標を失いやる気が湧き上がってこない部員もいます。
頻繁にオンラインミーティングを行なっても、やはり「山」という現場をともにしないことには、健全なモチベーションを保つのは難しいです。
1年間の活動が欠けていくと、その伝承も危うくなります。
いまは、なんとか大学山岳部の活動の存続を保つこと、その方法を探ることに懸命です。
長くなりました。
team KOIの活動も、私の仕事も、そして大学山岳部の活動も、全部どこかで繋がっていると思います。
これからも、互いに情報や意見の交換をしながら、手を差し伸べあって、がんばっていきたいと思います。