【 takibito のある生活 vol.2 〜 声、かけられなかったけど】
vol. 5 2021-08-17 0
ーーー
さっきは結局、話しかけられなかったけど、ちょっと気になってる。
だいじょぶかな。
なんだか心配で、もやもやして。
スマホの待ち受けを見つめながら、ふとよぎった思い。
指が空を彷徨ってから、
焚き火のアイコンに、そっと触れてみる。
真っ暗な画面に映る自分の顔。
どんな表情って説明したら伝わるのかな。
言葉って、伝えるってむずかしいんだね。
目に入る光は焚き火。
すでにあがっている煙、それもいくつも。
なんだか目についた「ハート」を投げ込んでみる。
炎の赤に、ハートのピンクが混ざってにじむ。
でもすぐに、灰色の煙になっては天に昇っていく。
わたし以外にも、ハートを投げ込んでいる人がいるみたい。
赤が次第にピンクに染まっていく。
焚き火の炎自体が大きく育っていく。
すると画面も明るくなっていて、自分の頬が照らされているのに気づいた。
何かが燃える音が、大きくなったり弱まったり、当たり前に耳に入ってくる。
そのすきまからふいに、何かの鳴き声も。
炎と闇の境目を、何度も目や指でなぞってしまう。
いまあの人は何しているのだろう、自分は何をしているのだろう、
そんなことさえ、こころの表面にあがってこなくなって、
ただ音の流れに、ぷかぷか浮かんでいる。
木の割れる乾いた音、赤と黄と白の混色、
こめかみの拍動、橙に透過する光の指先。
と、あたりは暗くなっている。
鼻先の画面も、こころの内側も静まっている。
多くのことが通り過ぎ、時間がいまに寄り添っている。