*スペシャル*伴奏の河原さんにインタビュー!
vol. 11 2022-05-26 0
「オペラへの誘い」いよいよ公演間近です!
本日は*スペシャル*企画として、ピアニストの河原さんをお招きし、ロングインタビューを実施しました!
コンサートに向け、ここでしか聞けないお話しをたっぷり聞けました!ぜひご覧ください。
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(スタッフ)今日は5月27日のコンサート「オペラへの誘い」に向けて、河原義さんをゲストにお招きしています。よろしくお願いします!
(河原)よろしくお願いします!
(スタッフ)「オペラへの誘い」は、初心者の方も音楽を経験されている方も、みんなに楽しんでいただけるよう解説を挟んでお送りするコンサートです。河原さんは本番でその解説を担当してくださるので、今日も楽しいお話を聞ければと思います。
まず河原さんのご経歴について伺いたいんですけれども、音楽を始めたきっかけからお話をいただいていいですか?
(河原)私の両親が文学の勉強をしておりまして、二人ともイタリアの大学に通ってたんですね。その後日本に帰ってきたのですが、当時イタリア語を軸にした仕事で最も必要とされていたのが、音楽家の通訳やオペラの台本の翻訳。それで二人の仕事での交友関係にイタリア人の音楽家が非常に多かったんですね。
私は幼少の頃から家に帰る前、いつも両親がいた事務所に寄ってから一緒に帰宅していたんですけども、毎回事務所に行くと、レッスン室から素敵な歌声が聞こえてきて。ピアニストさんと歌手さんが一緒に来て、イタリア語発音の練習をしていたり、もしくはイタリア人の歌手が来て、その人のレッスンの通訳などを両親がしていて・・・その印象が強く残っていて、音楽に興味を持ちました。 特にオペラ・歌曲の仕事がしたいと子供の頃から思っていました。
(スタッフ)幼少、というのはどのくらいの年齢だったのでしょうか。
(河原)音楽に興味を持って教室に通い始めたのが3つの時だったんですよ。家で「カーネギー・ホール*1」という映画を見たときに、ルービンシュタイン*2の弾くピアノを見て、楽器としてピアノをやりたい、って強く思った瞬間だけは覚えていました。そのことを両親に話して、エレクトーン教室に通い、個人レッスンでピアノも習い始め・・・オペラの仕事に興味を持ったのは小学校1年の時くらいだったと思います。
(スタッフ)すごく早い音楽への目覚めですね。ルービンシュタインのピアノはどういう点に素晴らしさ、魅力を感じられたのでしょうか。
(河原)彼は映画の中ではショパンの「英雄ポロネーズ*3」を弾かれてるんですけれども、・・・ものすごく生き生きとしていて。「カーネギー・ホール」というタイトルのように、ホールを主題とした映画ということもあって、ホールのお客様と演奏の一体感みたいなものが見て取れて・・・いわゆる「俺の演奏を聴け」じゃないんですよ。お客様に楽しんでほしい、私の好きな音楽を気持ちよく聞いてほしい、という思いがすごく伝わってくるような演奏で、それに心を打たれました。
(スタッフ)クラシック音楽は古い歴史を持つアートな部分もありますが、同時にエンターテイメントの部分も強いなと思います。そういった部分についてまず魅力を感じられたということですね。
(河原)そうですね。
(スタッフ)その後音楽を始められて、イタリアに留学をされてますよね。どちらの学校に行かれたのでしょうか?
(河原)中学2年の時に、イタリアのパルマ音楽院の付属中学校に入学して、パルマ音楽院にも同時に通っておりました。
(スタッフ)中2というと13歳くらいですよね。若い時に海外に行くということで、すごく大変なこともあったかと思うのですが、イタリアではいかがでしたか?
(河原)私は単身でイタリアに行ったので寮生活をしていました。寮に帰っても日本人が一人もいない、むしろ外国人が私一人で、寂しい思いはあったんですけど、むしろ子供であるがゆえに友達に質問したりとか、言葉がわからないことに対する恥が一切なかったんですね。だから溶け込みやすかったのと、向こうも子供なので気を使わずに喋ってくれる。だからコミュニケートしやすかったです。一切遠慮もなく、間違いを恐れることもなく接することができたので。
(スタッフ)小さい頃に海外に行くメリットですよね。ちなみに今回のコンサートも、色々なイタリアの曲を演奏しますよね。イタリア人の考え方について、イタリア人って面白いな、と思ったところはありますか?
(河原)例えば、実際イタリア人と交流してみると、時間にルーズだなということを感じることが多いと思うんですよね。私が大人になってから、オペラの来日公演の現場に参加して、その中でイタリア人の大道具の方達が、「これだと何とか間に合わせることはできるけれども、思ったレベルの舞台に仕上がらない」と、「時間が足りなさすぎる」と言ったりして・・・で、舞台監督に「本番の初日の日程を遅らせられないか」と言うことがあったんですよ。
これ、日本人スタッフからすれば何を言っているんだ、とんでもない、ということだと思うんです。ただその反面私は、いち大道具スタッフが、より良いものを作りたいということに対して、そこまで思い入れがあるっていうことに感動したんです。もちろんお客さんはチケット買っているし、初日の日程を遅らせるなんてできるわけないんですけれども、もしかしたら、より良いものを作るためにそれができたらもっといいものになるよ、っていう意思表示をするイタリア人。気に入りましたね(笑)
(スタッフ)(笑)・・・・日本とイタリアだと劇場のスケジュール感の違いというか、そういう差はあると思うんですけれども、でも「良いものを作りたい」というところではやっぱりイタリアは本場だし、誇りを持ってオペラという古典、歴史を伝えるものとして携わっているんだなと・・・すごくお話を聞いて嬉しい気持ちになりました。
河原さんは色々なオペラの公演も見られてきたと思います。今に至るまでで、感動した公演はありましたか?
(河原)たくさん、ありますね・・・すごく印象に残っているのは、私が19歳の時に通訳として、ミラノスカラ座の仕事で「リゴレット」の公演に参加したんですけれども、指揮者のリッカルド・ムーティ*4が自ら、ソプラノ歌手に音楽稽古をしていたんですね。その人はすでに素晴らしい歌手なんですけれども、マエストロの指示によって、それがさらにどんどん良くなっていく。結果どのような公演になるんだろう?と思って、その本番を見たら、やはり鳥肌が止まらなかったですね。とにかく美しいということと、全ての音が洗練されている。細かい装飾音から全ての音に至るまで、まるで最後の一音のように丁寧に作ってありました。
(スタッフ)河原さんの愛が感じられるコメントですね!
ところで、河原さんはコレペティトゥア*5をやられていますね。音楽稽古をつける仕事、ということで先ほどのお話と通じるところがあるかと思いますが、コレペティトゥアというお仕事・役割を知ったのはいつ頃だったのでしょうか。
(河原)いわゆる歌科の伴奏というものは、15-16歳の頃からイタリアの高校時代に始めていたんですけれども、その際にレッスンの稽古ピアノとは別に、劇場でコレペティトゥアをしているという先生がいらっしゃいまして、彼らの仕事を見ることによって知りましたね。だから15-16歳くらいでしょうか。
(スタッフ)その時、日本でしかも子供、となるとコレペティトゥアの仕事を知っている人はすごく少ないと思うんですけれども、「こういう仕事があるんだ」と知った時、どういう感想を抱きましたか?
(河原)まず僕のイメージだと、歌手がどういう風に歌いたいか、というイメージをピアニストに伝えて、ピアニストが合わせる、っていうイメージでした。けれども、ピアニストの方が歌手に指示をしている、というのがまず、すごく新鮮でした。
(スタッフ)ですよね!
(河原)名前を挙げるとラファエル・コルティエージという非常に優秀なコレペティトゥアの方がいらっしゃるんですが、その指示の内容を聞いていると、実際ピアノではこういうことができるけれども、オーケストラではこういう風には聞こえない、こういうことはできない、指揮者がオケに指示を出すまでに伝達の時間があるから、アンサーに時間がかかるよ、という指示をしていて、すごく興味を持ちました。
(スタッフ)実際にコレペティトゥアになってみて、ここが面白いな、というところや大変だけどやりがいがあるな、という点はありますか?
(河原)まず、やりがいについてなんですけれども・・・オペラのピアノ伴奏では、ボーカルスコアといって、オーケストラスコアからピアノに編曲されたものを弾くのが主体なんです。そこではオーケストラを聴きながら自分の好きなように編曲を変えられるんですよね。ここは多分コントラバスを響かせた方が格好いいんじゃないか、とかここはこの楽器を効かせた方が歌手は助かるんじゃないか、とか。そういうことを考えながら、スコアからボーカルスコアに音を足したり引いたりしていく。この作業が非常に楽しくて・・・それによって個性が出ますよね。僕だったらこういう風に指揮者に聞かせる。指揮者もおそらくこういう響きを求めてくると思うからこれに慣れていた方がいいと思うよ、という個人的なアドバイスができることがやりがいの一つです。
大変なところは、コレペティトゥアは歌手の準備をして指揮者に渡す立場なので、指揮者のオーダーももちろん受けなければならない。でも悪い言い方をすると、指揮者と必ずしも音楽感が合うとは限らないんですよ。全く違う音楽感を求められて、それを伝えるのが私の使命になるので、自分が納得していないことを伝えなければいけないこともある。これが私にとってはちょっと大変なところです。
(スタッフ)お話を伺ってみて、必要不可欠な裏方、というあまり知られていないポジションを紹介できるのがすごく嬉しいです。
では、最後の質問になります。ファンディングをしてくださった方や、コンサートでイタリアオペラのことや河原さんを含め出演者の方の出番をすごく楽しみにしていらっしゃる方に向けて、何かメッセージをお願いします。
(河原)ファンディングをしてくださった方へ、この度はご支援をいただきありがとうございます。我々としては今回のコンサート、すごく有名でクラシック初めての方でも聞いたことがあるようなレパートリーを中心として稽古したんですが、この全ての作品が19世紀、1800年代の産業革命によってすごく栄えていたフランス・パリを中心としたヨーロッパで作られたオペラの作品ばかりなんです。このベルエポックと呼ばれている時代、産業革命によって蒸気機関車が出てきて、ヨーロッパ中の若者たち、芸術家たちが交流しやすくなったんですね。そんな中で夢を見た人たちがパリに集まっていって、素晴らしい作品が色々出てくる。その時代の情熱に満ちた作品を発表できる、という場を我々はすごく誇りに思い、楽しみにしています。それをご支援くださるということに、心より感謝申し上げたいと思います。
また、初めての方に向けてのメッセージとしましては、今回のコンサートを通じて、この時代のいわゆる「クラシックの定番」のレパートリーに、現代音楽、ポップスも含めて、色々意外な共通点があるんですね。そういうことも交えて伝えていければなと思うので、楽しみにしていただけたらと思います。
(スタッフ)河原さんに素敵なお話を伺えて良かったです。本日はありがとうございました!
*1 1947年のアメリカ映画。当時に実在した著名な指揮者・演奏家が多数出演している。
*2 アルトゥール・ルービンシュタイン。20世紀を代表するピアニストの一人。
*3 ポロネーズは「ポーランド風」の意。弾むようなリズムが印象的な、様々な映像作品において使用されているクラシック音楽作品の1つ。
*4 イタリア人の指揮者。世界各地のオーケストラで指揮を行う、現代を代表する指揮者の一人。
*5 オペラ作品における稽古ピアニスト。稽古の中では伴奏をするだけでなく、作品を時代的・言語的な要素から読み解く音楽的演出の解説をする役割も担う。