センシティブシーンの撮影について
vol. 5 2023-11-18 0
監督の志波景介です。
記録もかねて、少しだけ恋セクの撮影話を書きたいと思います。
今作は「恋にセックスは必要ですか?」というタイトルからも分かるように、主演の成瀬亜未さんを中心にセンシティブなシーンの撮影がありました。
センシティブなシーンでも、俳優とスタッフが芝居や撮影に集中して挑めるよう現場の環境を整えることは今作の課題でした。
その課題について考えたうち、ひとつが【ハラスメント窓口】を設置すること。ハラスメント窓口の連絡先をキャストとスタッフに共有することで、いつでも相談できるという「現場に対する安心感」と「ハラスメントの抑止」に繋がると考えました。
ただハラスメント窓口の設置はなかなか難しく、志波が信頼できる方に窓口をお願いしたところで、志波がもしハラスメントを起こした際に、被害にあった方はその窓口に相談出来ないんですよね。窓口が、志波の信頼している人なので。
かと言って、どこの誰かも知らない人にハラスメント窓口という責任をお願いするのも難しく悩んでいたところに今回相談したのが、
ショートドラマ配信アプリ「BUMP」を運営するemole株式会社さんでした。
今作の撮影で恐れているトラブル、ハラスメントに対する考え方、対策と解決方法。今回が初めましてで、現在の関係性と距離感がハラスメント窓口として適していること。
これらをお伝えしたところ、「はい、もちろんです」と二つ返事で窓口になってくださいました。本当に躊躇なく、当たり前のように受けてくださいました。
窓口にどんな些細な相談でも届けば、解決するまで撮影を中断することを約束し、ハラスメントが起こらない撮影現場作りを徹底しました。
◯演出を事前に説明、俳優から許可を得る。
・どの程度の露出で、どこまで撮影するのか。
・可能な限り参考画像や動画を共有。
・俳優が許可を出すうえでの条件の有無の確認。
・事前に許可を得た演出も、現場で再度確認。
・現場で演出許可が得られなかったときの【代用の演出】と代用も断られたときの【代用の代用の演出】を準備。
◯演出等を理由に俳優に触れない。
・どうしても触れる際は、一声かけて許可を得てから。
・ただ許可を求めれば、俳優も現場の空気や流れを壊さないために許可をしてしまうことがあるので、原則として許可を求めない。
◯ハラスメント窓口の共有。
・志波の連絡先とemole株式会社さんの連絡先の両方をキャストとスタッフへ共有。
・窓口の共有はオファーを受けていただいたタイミングから。撮影準備中からお伝え。
今作の技術スタッフは男性ばかりでしたので、成瀬さんに対してはさらに
◯センシティブシーン撮影時の男性スタッフと女性スタッフの人数を撮影1週間前までに報告。
・増減があった際は都度報告。
◯ガウン(上着)や飲み物の受け渡しは女性スタッフ。
・このスタッフは成瀬さんの身の回りのケア"のみ"を担当してもらい、成瀬さんの近くに常に待機。
身の回りのケアのスタッフは、成瀬さんの信頼できる方を現場に連れて来ていただいても良いとお伝えしていましたが、成瀬さんと話し合い、今回はこちらで女性スタッフを用意するという形になりました。
便宜上、「女性」「男性」という言葉を使っていますが、同性異性や性別関係なく不快感を感じることは人によって違います。今作は成瀬さんの気持ちや考えを伺い、こちらで対応可能なことを相談し、このような形で撮影を進めました。必ずしも、万人に対して正しい対応ではないです。
実際の撮影現場でハラスメントが起きたかどうかは当人達にしか分からない部分もありますが、ハラスメント窓口への相談も無く、撮影は予定通り終えることが出来ました。
今後の作品づくりの参考のためにも、色んな方に今回の撮影環境を振り返ってもらって話を伺ったのですが、これらの対策は無駄ではなかったと思える言葉を沢山いただけて嬉しかったです。
今回この投稿を書いたのは、今作に関わった俳優の皆さんが「濡れ場OKの俳優」とか「作品のためなら脱げる人」という目で、簡単に見て欲しくないなと。演出の共有と打ち合わせ、センシティブシーン撮影の際の条件や約束、それらを俳優とスタッフが徹底して向き合っていただけたから、勇気を持って俳優はカメラの前に立ってくれたんだと。少しでも伝えたく。
今作で身体を張ってくれた、皆さんの今後の活動のためにも書き残そうと思いました。
ハラスメント対策に限らず、まだまだ課題はあります。足りないところを書き出すとキリがないです。ただ、これからも出来ることは積極的に行い、少しでもストレスを感じない撮影環境を作っていきたいと思います。
脚本・監督 志波景介