有志舎・永滝 稔さんより、応援の言葉を寄せていただきました
vol. 1 2023-02-08 0
「本の長屋」で予定しているさまざまな取り組みのうち、柱になるのが読書会。コクテイル書房で読書会を主催する有限会社有志舎の代表取締役・永滝稔さんから、読書会の楽しさと、本の長屋に期待することを寄稿していただきました。
読書会という愉しみ
私は高円寺に住み、高円寺で歴史書の「一人出版社」をやっています(いわゆる職住接近というやつです)。いつもは一人ぼっちで会社で仕事をしているもので、週末の夕方になると、どうしても人と話したくなってしまいます。
それで行き始めたのが、帰宅路の途中にあったコクテイル書房。ここは古本屋であり酒房でもあるという不思議な店。カウンターに座って本についての話をマスターの狩野俊さんや常連さん、はたまた初めて来店したお客さんたちと話すのがとても楽しいところ。お客さんも本好きが本当に多い。
仕事帰りにコクテイル書房でくつろぐ永滝さん
一方、出版社をやっていると「本が売れない」という愚痴話は出版業界関係者から山ほど聞くし、わが社の本も本当に売れていない。でも、「愚痴っているだけじゃ何も変わらないのでは?」と思っていた時に出遭ったのが、山梨県甲府市にあるブックカフェ「本と珈琲 カピバラ」。
ここでは、「少しでも読書や学術知を広めたい」という志のもと、M・フーコーやJ・バトラーなどの哲学書・思想書・歴史書といった学術書の読書会をやっていて、毎回、会社員・公務員・主婦・学生・ダンスの先生(!)といった「普通の人々」が本を読んで侃侃諤諤と議論していました。これを見て、私は驚きましたし、大いに勇気を与えられました。
「本と珈琲 カピバラ」の読書会風景
この話をコクテイルの狩野さんと話しているうちに、「高円寺でも読書会をやってみよう」ということになりました。そして、カピバラさんで教えてもらった
(1)先に仲間を集めてから読書会をしないこと。まず、言い出しっぺが読みたい本を掲げて、それで読みたい人を募ること。
(2)2人いれば読書会はできる。
という2箇条を元に、狩野さんと「小林秀雄を読む」読書会を始めました。小林秀雄は名文家として知られる文芸評論家で、『ドストエフスキイの生活』『無常といふ事』『本居宣長』などの作品があります。小林は若いころ、高円寺に住んでもいました。それはともかく、上記の2箇条について説明しましょう。
(1)は、まずは読みたい本があることが主で、先にメンバーを集めてからやらないということ。後者だと、いくら仲良し同士でも読みたい本は人によって違うので、読みたくない本までお付き合いで読まないといけなくなりつらい。
(2)は、読書会は自分以外にもう一人いれば対話できるし、むしろたくさん人数がいると議論が錯綜したり、逆に何もしゃべらないまま読書会を終える人が出てしまい楽しくない。
そうして、狩野さんと「だれも応募してこなくても、2人だけになってもいいよね」と言いつつ、twitterで「小林秀雄を読む」読書会の参加者募集をしたところ、6人のメンバーが集まりました(ほとんどが初対面で、年配の人も若い人も外国からの留学生の人もいます)。
私も狩野さんも含めて小林秀雄という文芸評論家は気になってはいるものの、本格的に読んだことはなく、メンバーも、興味はあったけど小林の文章を読むのは初めてという人が多かった。でも、読書会はそれで良いのです。今まで知らなくても、これから知ろうとして読むことが大事ですから。
コクテイル書房での読書会の様子
実際に読書会をやってみたところ、その効用に驚きました。まず、楽しい!何がって、一人で黙って読んで納得したり、「ここ分からないなあ」とつぶやいて終わるのではなく、色々な人の意見が聞けるし、分からなかったことが氷解したり、「そんな理解の仕方があったか!」と驚いたり、「いや、でもこういう事なんじゃない?」と自分の意見を表明できたり。もうともかく、そうして話すことが楽しいのです。
そして、1年もやっていると自然に仲良くなります。私のような中年の男性にとって、日常の中で新しい友達ができるなんてことはなかなかありません。それが自然にできて、しかも本好きという同好の士ばかり。色々な本の情報も交換できます。
ですから、単純にこんな楽しいことはもっと広まって欲しいと思う。「本の長屋」がそんな楽しさに満ちた場所になることを期待していますし、私もそこに参加していきます。そうして、街中から「本を読んで語り合う愉しみ」「本や読書という文化」を広めたいですね。
出版社の人間も「本が売れない」と会社で嘆いているだけではなく、街に出て、本を読者と一緒に読んで広めていってはどうでしょうか。私はこれからも狩野さんや仲間たちと一緒にそれをやっていくつもりです。
そういう場所をたくさん作って、みんなで本について言葉をかわしたい。皆さんも参加してみませんか。間違いなく楽しいですよ。
- 前の記事へ
- 次の記事へ