第2回音楽本大賞受賞作の選評です
vol. 8 2024-05-28 0
こんにちは、音楽本大賞実行委員会です!
5月24日に発表した第2回音楽本大賞受賞作への各選考委員による選評を公開いたします。クラウドファンディングの特典として制作する特製ZINEには、フル・バージョンを掲載する予定です。
【音楽本大賞】
松本直美『ミュージック・ヒストリオグラフィー~どうしてこうなった?音楽の歴史~』ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
https://www.ymm.co.jp/p/detail.php?code=GTB0110016...
[選評]
横川理彦(選考委員長)
あたりまえのように流布している大作曲家や名曲の歴史を現在の視点から見直し、これからの音楽の可能性を見渡す傑作。文章が読みやすく親近感が持てるところもすばらしい。ぜひ、広い世代の読者に薦めたい。
小室敬幸
もちろん体裁としては著者のひとり語りなのだが、文章から感じられるのは徹底した対話の姿勢だ。想定読者の知性と好奇心を疑わない著者と会話を積み重ねていけば、凝り固まっていた価値観は解きほぐされ、もっと自由に音楽と向き合えるようにしてもらえる。
松平あかね
興味深いエピソードを入り口に、音楽史を鵜呑みにしないよう促しつつ、専門知識のない人でもいつのまにか西洋音楽史を把握できるように配慮されている。ジェンダーや人種問題、音楽史の未来についても言及がある。
毛利嘉孝
なんとなく「変だなあ」と思っていたけどいまさら聞けない西洋音楽史の成立をめぐるさまざまな疑問を、音楽史を知らない人にもわかりやすく解説した爽快な著作。とても平易な文体なのに、ところどころ最新の歴史学の知見も盛り込まれていて、深い。クラシック音楽の聴き方が変わる。
渡邊未帆
「音楽史とは何か?」を丁寧に問いなおし、「西洋音楽史」を著者の視点で現代にアップデートして語りなおした挑戦的な一冊。マクロなビジョンを持ちながらも、随所に笑いを誘い出すミクロなエピソードを挟み込んでいて、一般読者も専門家も惹き込むことと思う。まさに「音楽本大賞」的!
【特別賞】
池辺晋一郎ほか(監修)『小学館の図鑑NEO 音楽』小学館
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?...
ジャンルの越境、西洋中心主義からの脱却と言葉でいうのは易しいが、一冊にまとめるとなると大きな困難が立ちはだかる。だが本書は、考え抜かれた構成によって特定の何かを貶めることなく、音楽文化の多彩な可能性を子ども達に伝えてくれる。(小室敬幸)
【個人賞】小室敬幸選
浅井佑太『シェーンベルク(作曲家・人と作品)』音楽之友社
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?...
対象となる人物の価値観・思想が驚くほど立体的に立ち上がり、彼が手掛けた作品への興味がこれ以上ないほど掻き立てられる。児童書から学術書まで、日本語でも数え切れないほど音楽家の伝記は書かれてきたが、本書はその理想形のひとつだろう。
【個人賞】松平あかね選
沼野雄司『トーキョー・シンコペーション 音楽表現の現在』音楽之友社
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?...
著者は現代音楽研究の第一人者にして批評家。多岐にわたる話題から本題へ深く切り込んでゆく語り口が鮮やかで、1話完結のショートフィルムを見る感覚で各章を読み進めた。好奇心を持ち続けたい音楽ファンにぜひ。
【個人賞】毛利嘉孝選
金悠進『ポピュラー音楽と現代政治:インドネシア 自立と依存の文化実践』京都大学学術出版会
https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814004645.htm...
インドネシアのポピュラー音楽、ロック、インディーズ、メタル、パンクの発展を詳細に記述しながら、ミュージシャンたちが政治から距離をとり、反体制的な態度を示すだけではなく、皮肉なことに積極的に保守的で権威主義的な政治の主体になっていくことを丹念に描きだしている。ポピュラー音楽と政治はどのような関係を持つのか。今後の議論の起点にすべき挑発的な著作。
【個人賞】横川理彦選
ベンジャミン・ピケット/須川宗純(訳)『ヘンリー・カウ 世界は問題である』月曜社
https://getsuyosha.jp/product/978-4-86503-164-5
1968年から10年間、革新的なロックで社会の変革をしようとしたイギリスのバンド、ヘンリー・カウの軌跡を辿る評伝。膨大な関係者への直接のインタビューと資料整理が邦訳2段組約500ページに詰まっている。力作だ。
【個人賞】渡邊未帆選
阿部万里江
/輪島裕介(訳)『ちんどん屋の響き 音が生み出す空間と社会的つながり』世界思想社
https://sekaishisosha.jp/book/b621496.html
大道楽師集団ちんどん屋は、日々路上を歩き、音を出しながら、何を感じ、考えているのか? 本書では、彼らの一見艶やかで異質な姿からは我々が容易には予想できなかった、他者を聴く「哲学」が記述されている! 著者の感受性と想像力と敬意こそがそれをあらわにしているのだろう。