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INTERVIEW - 2015.11.06

日本の"妄想力”を世界レベルに。演劇界の糧となる記録を作る挑戦 / 安田雅弘(劇団山の手事情社)

昨年結成30周年を迎えた劇団山の手事情社。近年は海外での活動も積極的に行い、国際的にも注目されています。この海外での活動を記録し、DVD化するための資金調達のため、山の手事情社はクラウドファンディングを活用しました。

昨年結成30周年を迎えた劇団山の手事情社。近年は海外での活動も積極的に行い、国際的にも注目されています。この海外での活動を記録し、DVD化するための資金調達のため、山の手事情社はクラウドファンディングを活用しました。なぜ、クラウドファンディングを活用したのか、今後の活動について劇団山の手事情社の主宰・演出家の安田雅弘さん、制作部の福冨はつみさんにお話を伺いました。

独自の方法論を携えて海外へ

――昨年で結成30周年を迎えたと伺いました。

安田:もともとは早稲田大学の演劇研究会が母体です。1984年の結成以来、台本に依存をせず、演者俳優の発想をもとにシーンを構成する舞台づくりを行っています。この舞台づくりを体系化し、《山の手メソッド》と名付けた俳優養成の独自の方法論を構築しました。

福冨:1年間かけてこのメソッドを体得するワークショップを行っているのですが、毎年10名前後の参加者がいます。年齢層もバラバラで、若い方もいれば50歳を過ぎた方もいらっしゃいます。ここから正式な劇団に加入される方もいますし、自分の生活を豊かにする手段として活用されている方もいますね。海外でもこの《山の手メソッド》に基づいたワークショップを開催するようになりました。

安田:1990年代後半からは、ギリシャ悲劇やシェイクスピア、近松門左衛門などの古今東西の古典作品を礎にした上演なども行ない、海外公演なども行なっています。能や歌舞伎はいまは「型」ができて、それに沿った動きや言葉になっていますが、成立した当初の観客はそれがグッときていたはず。その部分を現代の観客に伝えるにはどのようにすればいいか。そのようなことを考えて《四畳半》と読んでいる独自の劇団独自の型を構築し、それに基づいた演技スタイルを活用しています。

―― 海外での活動を意識しはじめたのはいつごろですか?

安田:2007年ごろからです。ヨーロッパ三大演劇祭のひとつ、ルーマニアのシビウという都市で行われる国際演劇祭を観客として見に行ったんですが、上演されている演目のレベルの高さに驚嘆しまして、このシビウの地で自分たちも出演したいと思ったんです。シビウ国際演劇祭は、日本ではあまり知られていませんが、イギリスのエディンバラ、フランスのアヴィニョンにとならび近年レベルの高い、影響力のあるフェスティバルとして注目されています。


シビウ国際演劇祭 街頭パフォーマンスの様子

福冨:安田が帰国した後、日本にシビウのディレクターであるコンスタンティン・キリアック氏が来日するというニュースが入ってきまして。

安田:そこで出演したいとアピールする機会を持つことができました。
自分たちのDVDを見せたところとても気に入ってくださり、招聘される運びとなりました、2009年のことです。そのときの演目はシェイクスピアの「タイタス・アンドロニカス」。その後、2010年にソフォクレスの「オイディプス王」を、2011年には歌舞伎や人形浄瑠璃の演目「傾城反魂香」を上演して、2012年にはフェスティバルを主催する国立ラドゥ・スタンカ劇場からの依頼で、劇場の所属俳優が出演、私が演出し、近松門左衛門の「女殺油地獄」を原作にした「A Japanese Story」を製作しました。日本には能や歌舞伎など、日本ならではの表現手法があります。その表現を活用した演目を意識して上演しています。

福冨毎年の参加、さらに2009年から2011年までは連続でメイン会場で上演したのですが、これは海外のカンパニーとしてはきわめて異例なことだそうです。そして2013年には、クラウドファンディングで多くの方々に協力いただいた「道成寺」でシビウに渡りました。


『道成寺』ブカレスト・オデオン劇場

―― 観客の反応はいかがでしたか?

安田:あちらの方は感情を素直に出してくれます。終わった瞬間に大きな拍手をいただいて本当に嬉しかった。会場もおかげさまで満員で。ただ、やはりレベルが高い演劇祭は観客の見る目もシビアだということも痛感しました。最初から最後まで気を抜けないですね。移動も大変ですし、あちらのスタッフとのコミュニケーションも大変でしたが、それ以上に得られるものも大きかったです。これらの活動が評価されて、2013年にはシビウ国際演劇祭から故中村勘三郎さん、野田秀樹さんとともに「特別功労賞」もいただきました。

海外での活動を記録として残していくために

―― 今回、クラウドファンディングにチャレンジしたのは、この演劇祭のDVD化の資金調達とのことですが、その理由について教えてください。

安田:2013年に、シビウの国際演劇祭、ならびにモルドヴァ共和国の首都キシノウと、ルーマニアの都市、シビウ、首都ブカレストで上演した「道成寺」という演目は、もともとは10年前の作品で、能や歌舞伎、戯曲など古くから様々なレパートリーが作られてきたモチーフを再構成しています。今回のクラウドファンディングは、この海外公演の模様のみならず、国際演劇祭を行う街の雰囲気や、舞台周り、観客の様子などを映像に収めたものです。

福冨:海外公演にあたり、文化庁からの助成金はいただけたのですが、映像制作費は含まれていませんでした。助成金は使いみちが細かく決められています。今回の映像に関しても、利用できる助成金はありませんでした。

安田:新しいことを始めたい場合は、助成金の制度に頼っていると、なかなか踏み出すことはできないのがネックですね。取材費や機材費などについては劇団で用意したのですが、撮影した素材を編集する工程が必要です。このために、クラウドファンディングを活用しようかと考えました。


完成したDVD

―― なぜ、そこまでして映像を残そうとした理由は?

福冨:とても貴重な体験なのに、自分たちしかこの体験ができないというのは本当にもったいないと思うんです。

安田 : せっかく海外の演劇祭に出るのに、その模様を日本の古くからのファンの方にも届けたい。それに、私達が海外に出て行って貴重な経験をしたとしても、その経験が行った本人たちにしか残らないんですよ。それこそ、貴重な税金で補助していただいてるのに、それが日本にいる人達に全く還元されない。後から続く劇団の人たちも、一から同じ苦労と体験をするのも非常に効率がよくない。そこで、記録に残すことを検討するようになりました。海外の演劇祭は、日本とは比べ物にならないくらい、街も盛り上がり、人々のリテラシーも高い。そんななかで自分たちの演劇を上演するということは本当に実りが多い。文章や写真よりも映像のほうがダイレクトに伝わると思いまして、撮影クルーを連れていくことにしたんです。

福冨:多くの人は海外の演劇祭がどのようなものなのか見たことがないですし。貴重な機会だからこそ、その後に残る記録を作ろうと思い、この企画に至りました。


劇団山の手事情社制作部 福冨はつみさん

クラウドファンディングは地方からも応援できる新しい形

―― クラウドファンディングを始めるにあたって、特別に行ったことなどありましたか?

福冨:Twitterやfacebookなどで告知をしましたが、特に大掛かりなことはしませんでした。演劇の場合、チケットを知り合いに買ってもらったりすることは多くありまして、「クラウドファンディングを始めました」と知り合いに言ったり、アピールすることはそれほど抵抗がないんです。また、お客さんもそんなに驚かない。チケットのかわりにDVDや特典、そして呼び名が変わったことぐらいで、じつはいつもと行なっていることは変わっていないんですよね。

安田 : チケットじゃない特典というのは、地方にお住まいのファンの方には好評だったようです。劇団を応援する手段って、チケットを買うことぐらいしかないんですが、遠方にお住まいの方は気持ちはあっても、公演に行けないので買うことができないでいたそうです。劇団を支援する気持ちでチケットを買ったとしても、当日そこは空席になってしまいそれが心苦しいと。ただ、今回のクラウドファンディングでDVDだったりレポートなどの特典ができたことで、遠方の方も参加できるようになったし、家で公演の模様をみていただけるようになった。新しい支援をしていただける形になるんじゃなかと思っています。
クラウドファンディングというものは、特典があることで通信販売的や前売り販売にも捉えられることも多いかと思いますが、自分は浄財のような仕組みだと感じています。 参加していただいた方のお金だけでなく、気持ちも受け取れるから、私達はよりいっそう志を強くできる。

―― その結果、77名の方から合計415,000円の支援が行われました。

安田 : 目標は30万円でしたので、まずまずの結果でした。じつは、2013年の10月にアトリエを引っ越しまして、特典のひとつに、そのアトリエ見学会の招待状をつけたんです。そのコレクターのなかに以前からお世話になっていた人がいたことに驚きと喜びがありました。連絡をいただければわざわざその日でなくともアトリエに来れるのに、あえて応援の意味を込めて購入してくれたことが嬉しかったですね。

福冨:大田区の新アトリエはもともとは工場だった場所を、セルフメイドで改装したものなんです。駅からわりと距離があるんですが、足を運んでいただけてよかったです。

演劇が妄想力を育む力に。

―― DVD制作やワークショップなど、「演劇界の将来像」を非常に意識された活動をされているのですね。

安田 : 常々思うのは、演劇界をこの先も盛り上げていくには、日本全体の演劇に対するリテラシーを上げることも重要だと考えています。小さいころから演劇に触れてなくて、大人になってからいきなり舞台を見に行くって、とてもむずかしいこと。だから、小さい頃から演じること、見ることに慣れ親しんでいってほしいと思うんです。そのうえで、世界の演劇の最先端のなかで勝負していけるようになれるといいですね。

福冨:大田区では、小学校を回って演劇のワークショップをはじめました。

安田:いずれはさらに多くの学校に広げて行きたいですね。このところ思うのですが演劇は子どものころから慣れ親しまないと、おとなになってからなかなか足を運ばない。小さな頃から舞台って面白いって思ってもらい、今後の演劇界全体のファンになってもらいたいですね。

福冨:お子さんだけでなく、大田区民のさまざまな年齢のみなさん向けのワークショップなども企画しています。

安田:常々自分は、日本には「妄想力」が不足していると感じています。妄想とは、プラスに働けば理想や希望の苗床となる。演劇はその妄想力を豊かに育む力があると思っています。妄想ができない世界というのは、理想も希望も育たない世界でもある。妄想するには鋭い人間観察力も必要だし、たくさんの知識も必要。演劇はこの妄想力をたくましく鍛える力があるんですよね。子どもだけでなく、老若男女が演劇に親しみ、妄想力を鍛えてくれる社会になってほしいと思っています。


劇団山の手事情社 主宰・演出家 安田雅弘さん

―― 今後、山の手事情社はどのような活動をされていきますか?

安田:よりいっそう海外で自分たちの演劇の方法を試してみたいですね。たとえば、ヨーロッパのあちこちで開催されているシェイクスピアだけの演劇祭などで、「テンペスト」など自分たちのシェイクスピアものを上演してみたいですね。世界と繋がれる機会があったら積極的に活用してみたいです。

そういった 新しい挑戦を、クラウドファンディングは後押ししてくれる手段の一つだと思います。もっと活用して可能性を広げていければいいなと思っています。

劇団山の手事情社公演情報

劇団山の手事情社二本立て公演
「タイタス・アンドロニカス」
「女殺油地獄」

■構成・演出=安田雅弘

■原作=W.シェイクスピア/近松門左衛門

■公演スケジュール(2015年)
「タイタス・アンドロニカス」
11月6日(金)19:30[完売]
11月7日(土)14:00/19:30
11月8日(日)14:00

「女殺油地獄」
11月12日(木)19:30
11月13日(金)19:30
11月14日(土)14:00/19:30
11月15日(日)14:00
11月16日(月)14:00

■会場
吉祥寺シアター 

詳細は劇団ホームページをご覧ください。
http://www.yamanote-j.org/performance/7207.html


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この記事を書いた人

MotionGallery編集部

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