日本中に“カメ止め”旋風を巻き起こしている本作誕生の裏側をMotionGalleryに掲載されたクラウドファンディングプロジェクトページから探ってみよう。
監督自身も青ざめた「大変な台本」
脚本を書き終わった時の気持ちを上田慎一郎監督はこう記している。
「ワクワクしっぱなしで台本の初稿を書き終わった後に青ざめました。「これ、撮れんのか?」と。とんでもなく大変な台本を書いてしまったぞと。今まさに、描いてしまった理想を現実にするため、汗と血にまみれながら駆けまわっています。 」
ワンシーンノーカット、生中継のゾンビ映画...を撮った人たちの物語、という二重構造の本作は、熱にうかされるように書き上げた後、それを現実にするための想像を絶する苦労があったことがうかがえる。
上田慎一郎
「ものづくりに奮闘する者たちの愛すべき滑稽な姿」
もう少しこの作品の背景を探ってみよう。プロジェクトページにはこうある。
「本作は、とある小劇団の舞台にインスパイアされて生まれたものです。数年前、その舞台を観劇した僕はその面白さに膝を打ちました。前後半で視点が一転する二重構造、ものづくりに奮闘する者たちの愛すべき滑稽な姿……。作家の方に映画化したいと伝えたところ快諾を頂き、映画化にむけて設定を大幅にアレンジ。改良を進めた結果、基本構造以外はまるごと変わり、まったく別の新しい作品へと姿を変えました。 」
本作のイメージソースもさることながら、印象的なのは「ものづくりに奮闘する者たちの愛すべき滑稽な姿」という言葉だ。映画作りの内幕が描かれた本作、そこに集っている役者、カメラマン、監督、そしてその家族たちはいかにも不器用な人たちである。何かを生み出そうとする人の多くは時々生きるのが難しいほど不器用で、世界の形にハマることができない。演者から寄せられたコメントにはこんなメッセージがあった。
「監督は「生きづらい人を集めた」と言っていました。だから、みんなそこに共鳴してお互いに自身、他人を受け入れあって動いていました。喧嘩して、泣いて、仲直りして。それでも、次に会うときは1からやり直し。人との交流の難しさをずっと実感していました。」
「生きづらい」彼らが作り出したこの映画は、不恰好で、一生懸命で、それが結実する時には涙と笑いが一緒に込み上げてくる。ラストの部活や文化祭でドロドロになりながら感動を覚えた時のような多幸感は、滑稽なほど命を削る彼らから発せられる生きるエネルギーだ。
それは奇しくも、クラウドファンディングに似ているような気がする。パッと見ちょっとカッコ悪くても、がむしゃらに何かを作ろうとする人の熱意にほだされて、そのクリエイティビティに触れているうちに見ているこちらがどうしようもなく幸せになってしまうのだ。
まだこの時に公開されていた特報では全貌は見えないながらも、何か事件の予感がすでに漂っていた・・。
「カメラを止めるな!」はクラウドファンディングサイトMotionGalleryから生まれた
これまでご紹介してきたコメントなどはクラウドファンディングサイト「MOTIONGALLERY」のプロジェクトページで見ていただくことができる。本作の配給などの費用を募り、リターンには作中で演者が着ているTシャツや台本を用意するなど見ている人と一緒に映画を盛り上げていこうという気持ちをうかがい知ることができる。
実はこの映画が生まれた映画監督や俳優を目指す人のための専門学校「ENBUゼミナール」と、MOTIONGALLERYは4年タッグを組んでさまざまな作品を生み出しており、 キュレーションページも設けられている。映画とクリエイティブを愛する人が集うクラウドファンディングサイトだからこそ、本作の爆発的ヒットを支える礎を作ることができたと言えるだろう。
クラウドファンディングのリターンに設定されていた台本。この緻密で面白みに溢れた映画の脚本を知ることができる貴重なリターンとなりました。今ではレア物!!
「僕にとって、映画は夢であり大嘘です」。こう記して始まったプロジェクトページでは、結びの挨拶をこう記している。
「人生初のクラウドファンディングに挑戦することにしました。正直、個人の人様にお金を支援して頂いて映画を創る事に少なからず抵抗はありました。それはやはり支援頂いた人の数だけ責任を背負う事になるからです。でも今回、その責任を背負ってみようと思いました。
大人が大マジメに説得力のある大嘘をつくにはお金が必要です。少ないながらもスタッフにもちゃんとギャラを支払いたい、この映画に賭けてくれたシネマプロジェクトの俳優達にも少しでも良い環境で芝居をしてもらいたい。
自分にとって、支援頂いた方々の背中のそれは、責任という重みとしてだけではなく、背中を押してくれる風にもなるだろうと、そう思っています。
自分には現実を描く映画は創れないけど、愉快痛快な大嘘で誰かの現実を変えることならできるかもしれない。思春期の頃、大嘘に満ちたアメリカ映画たちが、僕の現実を変えたように。映画の愛、大嘘に満ちた最高の娯楽映画を創ります。 」
監督自身のこのメッセージからも、夢に溢れたちょっと不器用なものづくりをする人の持つ魅力が伝わってくる。
MOTIONGALLERYで156万9千円を集めた『カメラを止めるな!』。監督のついた「大嘘」は監督の言葉を借りれば“幸せの総量をあげる”べく、日本中をかけめぐっている。