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INTERVIEW - 2015.12.16

今ここにある、昭和レトロフューチャー。世界的な建築物「中銀カプセルタワービル」の保存・再生を目指す!

​日本を代表する建築のひとつ、「中銀カプセルタワービル」。1972年に竣工したこの建物は国立新美術館やマレーシアのクアラルンプール国際空港などを手掛けた建築家、黒川紀章の代表作です。しかし、中銀カプセルタワービルは、竣工から43年がたち、常に取り壊しの噂が取り巻いています。

日本を代表する建築のひとつ、「中銀カプセルタワービル」。1972年に竣工したこの建物は国立新美術館やマレーシアのクアラルンプール国際空港などを手掛けた建築家、黒川紀章の代表作です。しかし、中銀カプセルタワービルは、竣工から43年がたち、常に取り壊しの噂が取り巻いています。

「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」は、このビルの保存・再生のため、中銀カプセルタワービルに関する書籍を出版し、収益を保存・再生運動の資金にすることを計画、資金調達の手段としてクラウドファンディングを選択しました。中銀カプセルタワービルの魅力、そして今後の計画について、プロジェクトの代表、前田達之さんにお話を伺いました。

銀座8丁目のランドマーク「中銀カプセルタワービル」の今

―― すでに前田さんは9つもカプセルを所有していると伺いました。

前田:一つのカプセルをユニットと呼びます。中銀カプセルタワービルは、太いシャフトと呼ばれる2本の幹を中心として、このユニットが取り巻いている構造になっています。現在、私はユニットを現在9つ所有しております。最初に購入したのは2010年のことでした。いつも目の前の道を歩いていて、なんかいいなと思っていたんです。そのころ、たまたま1つのユニットが売りに出ていることを知り、自動車1台分で購入できるということに驚き、購入を決めました。それからというもの、土日の休みに壁に漆喰を塗ったり、雨漏りを直したり、修繕の日々が続いています。気がつけば5年のうちに、所有するユニットは増え、保存・再生プロジェクトもスタートすることになりました。

―― お住まいになっている人は多いですか?

前田:事務所利用の方、居住者の方半々くらいでしょうか。スモールハウス・多拠点居住に関するメディア運営をされている YADOKARIさん*のオフィスや、親がこのタワーのファンで購入したという学生さんなど、住んでいる人は若くておもしろい方が多いです。住人同士の仲はよく、新しい入居者が引っ越してくると歓迎会も開催しています。

*YADOKARIはウェブメディア「未来住まい方会議」で世界中のスモールハウスを500件以上紹介するなど、ミニマルライフ/多拠点居住/スモールハウス/モバイルハウス/コンテナハウスを通じ暮らし方の選択肢を増やし、「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信しています。
YADOKARIスモールハウス 「INSPIRATION by YADOKARI」を制作する為に、MotionGalleryでクラウドファンディングを実施するなど、「住」の可能性を切り拓いています。

関連記事:マイホームでも賃貸でもない、”第三の選択肢”を実践してみせる。「YADOKARI」がスモールハウスをクラウドファンディングで建てた理由って?

―― 都会の集合住宅で、そのようなつながりが生まれているのはおもしろいですね。

前田:43年も経った建物なので、建物で苦労することも多いのですが、住人同士で「こんなときは、こうやっている」と、快適に暮らすコツを共有したりしています。団結する気持ちが強いですね。歴史に残る名建築ですから、住みたい方は多くいらっしゃいます。賃貸でも6万円台から借りられるので、社会人の方だけでなく学生さんもお住まいになっています。ただ、10平米前後しかないので、2名以上で暮らすのは難しい。そのため、結婚や同棲をきっかけに卒業していく方が多いです。また、事務所で利用されている方も非常に多いです。名刺に「中銀カプセルタワー」の文字があるだけで興味を持ってもらえるそうなんですよ。場所も銀座8丁目に位置しているので、どこにいくにも便利ですし。

『メタボリズム建築』の概念を今こそ

―― 不具合はやはり多いものですか?

前田:建物の老朽化はどんな建物でも避けられないところです。現在、給湯設備は故障してしまいビル全体でお湯が出ない状況です。多くの居住者は近隣のジムや銭湯を利用しています。バスタブに水を張って、電熱ヒーターを用いてお湯をわかす強者もいるんですよ。お湯とお風呂に関しては居住者同士の交流会でもよく話題に上ります。

ユニットによっては深刻な雨漏りも発生しています。設計した黒川紀章さんは、経年劣化したユニットの交換を想定した設計をしましたが、費用面の関係で現在にいたるまで交換されたユニットは一つもありません。

―― この建物を残したいと思われたのはなぜでしょう?

前田:じつは、2007年には老朽化とアスベストの問題で、管理組合により2年以内に建て替えを行うという決議がなされました。けれども、取り壊すには費用もかかりますし、権利者の数が多いなど制約も大きく、手付かずのまま決議が無効になってしまいました。その後、私がここに来るのですが、自分で修繕をしていくうちに、建物に愛着が募るようになっていったのです。

 なによりもまず、建物が魅力的であり、またここに集う人たちも個性的な人たちばかりでした。建物に魅力があると、人が集まってくるということを実感しました。そこで、保存・再生の活動を始めたところ、さらに多くの人たちが集まるようになってきた。多少の苦労はありますが、ここまで求心力のある建物はほかにないと思うんです。

―― そして保存・再生運動をはじめられた。

前田:多くの人達に中銀カプセルタワービルの魅力を広め、収益を保存・再生運動の資金にすることを計画しました。2007年の建て替え決議のときと比べると、修繕積立金もかなり貯まってきているんです。もちろん、大規模修繕を行うということはお金でだけでなく、組合員の意見がとても重要になっている。

 管理組合の「票」を多数お持ちの中銀さんは、この建物の素晴らしさもご存知であると思います。ただ、銀座という土地を考えると新しく開発したほうが金銭的な利益は遥かにあることも事実です。だから、私達は建物をきちんと残す活動だけでなく、「残したほうが、中銀さんにとってもおトクなんだ」と思っていただけるくらい、この建物の価値を上げていきたいと思っているんです。そうすれば、大規模修繕などの提案も否決されることなくスムーズに実行に移せる。資金調達という面もちろんですが、中銀ビルの相対的な価値を上げていきたいと思っています。

―― その一環として本を出版されるのですね。

前田:優れた建物ですから、みなさんに見ていただきたいし、そのデザインを活かして居住されている人たちの生活を紹介したい。現在も生きている中銀カプセルタワーを知ってもらいたいと考えたからです。現在ある140のカプセルのうち、購入時のままの形を保っているものはほとんどありません。購入した人たちが暮らしやすいようにカスタマイズしている。でも、そこがこのタワーの魅力でもあると思うんです。自分たちの暮らしやすいように形を変えていく。それこそ黒川さんが考えていた“メタボリズム”の発展形だと感じるのです。おもしろかったのは「自分の住まいも写真集に撮ってもらいたかった」と声を掛けてくれる住人の方が何人かいたこと。この建物や暮らしを気に入っていて、後々までに伝えたいって思わないと、こんな言葉って出てこないんですよね。多くの人たちに愛されているんだってことをひしひしと感じました。

*メタボリズムとは
1960年代、メタボリズム・グループによって展開された建築運動。メンバーは評論家の川添登を中心に、建築家の菊竹清訓、黒川紀章、大高正人、槇文彦、デザイナーの栄久庵憲司、粟津潔らで構成されている。建築や都市の計画において、メタボリズム(新陳代謝)という時間的な概念を導入することで、可変性や増築性に対応した建築・都市空間を提示した。
グループは60年に日本で開催された「世界デザイン会議」を機に結成された。この会議に向けて発刊された『METABOLISM/1960』には、川添によって「来るべき社会の姿を具体的に提案するグループ」という宣言が記されており、メタボリズムという理念が日本の高度成長期という都市の膨張や技術の進歩といった時代性に対応したものであることがうかがえる。計画案としては、菊竹による「塔状都市」、「海上都市」、黒川による「ヘリックス・シティ」、大高と槇による「新宿ターミナル再開発計画」など、建築や都市に対するプロジェクトが提案された。実現されたものとしては、菊竹が設計したの《エキスポタワー》(1970)や黒川が設計した《中銀カプセルタワー》(1972)が挙げられるが、多くの計画案は実現されず、高度経済成長の時代が終わるとともに、メタボリズム・グループの活動は急速に失速していった。しかしながら近年、「TOKYO METABOLIZING」などの展覧会を通じて、メタボリズムは再評価されている
(引用:現代美術用語辞典ver.2.0 - Artscape

クラウドファンディングを通じて広まった社会の関心

前田:出版に際し、クラウドファンディングを行いました。資金調達の目的もありましたが、この運動をもっと多くの人に知ってもらうための手段の一つとしても側面も大きかった。こんな活動がある、こんな本が出るということを、幅広く知らせるにはクラウドファンディングはとてもよい仕組みだと考えています。具体的な目的のためにお金を集めているのって、単なるWebサイトを置くよりも本気であることを伝えられる気がします。

―― その結果、323名もの方が参加されました。

前田: こんなに参加してくれる方が多いとは思いませでした。数多くのメディアにも、クラウドファンディングを行っていることでこの活動が取り上げられ、大きな反響を得ることが出来ました。とくにタワー内部を見学できる20,000円のチケット。予想以上に反響が大きくて、あっという間に売り切れてしまい、急遽増枠するほど。本当はもっと枠を増やしたかったのですが、会社員をやっていて土日のみでしか対応することができず、心苦しい限りです。目標金額は150万円ですが、200万円を越す資金を調達できました。この資金をもとに、128ページの『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟』を出版することができました。

また、多くの方に参加してくださったこと、そしてクラウドファンディング期間中に新聞やWebなどで大きく取り上げられたことは、出版営業に関してもとてもプラスになっているようです。「これだけの人が出版前に興味を持ってもらえて、報道でもこれだけ取り上げてもらえている」ということが形になっているので、営業がしやすい。そうなると、書店でも多めに仕入れてもらえるし、大きく売りだしてもらえる。刷り数も多くなる。それらのことでこの建物を初めて知ってくれる方もいるかもしれない。そこでまた、新しいファンが増える…。単に写真集を出版しただけでは、ここまで取材も来なかったと思います。クラウドファンディングを行って、資金を募っていたからこそ。そこまで考えると、このクラウドファンディングという仕組みは、人々を惹きつける新しい仕組みだと思うんです。

クラウドファンディングのリターンで見学にいらっしゃる方は、建築ファンの方や、本職の建築家、インテリア関係の職の方に留まらず、学生さんや近所にお勤め、お住まいの方など本当にいろいろな方が多いです。遠方からお越しの方もいらっしゃいます。彼らに話を聞くと「以前から内部も見たい建物だったが、その機会がなかった。クラウドファンディングで、保存の手伝いもすることができて、なおかつ住んでいる人から直接話を伺えて本当によかった」と言ってくれる。若い方や、建築系ではない方は「近くを通っていて気になっていた」という理由で参加してくれている。建物を好きな人同士を繋ぐ役割もクラウドファンディングを果たしているんですね。

―― 今後はどのような活動をされていきますか?

前田:大規模修繕さえ行えれば、ビルの寿命は大幅に伸びます。ただ、マンションは集合住宅なので、すべてが管理組合で決められます。そのためには、大規模修繕に賛成するオーナーさんを増やしていきたい。個人的な活動として、使われないまま時間が経過しているユニットのオーナー様に今後も使用する予定が無ければ私達に貸してほしい、あるいは買い取りますと連絡しています。購入したユニットは土日で数ヶ月かけて修繕し、新しく利用したいと考えている若い方に利用してもらうなどして、中銀ビルのなかがよりいっそう活性化するようにして、ビル全体の価値を高めていこうと思っています。

クラウドファンディングを通じて、この建物を愛する人達の声を多く伺うことができました。今後もこの建物が長く愛されるよう、さまざまな仕掛けを考えていきたいと思っています。


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MotionGallery編集部

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