19歳からスノーボーダー達を撮り始め、今年で19年になる遠藤励さん。90 年代から爆発的ムーヴメントとして世界に広がったスノーボードの流行や進化を、遠藤さんはプレイヤーとして、そして写真家として追いかけ続けてきました。そして18年目にしてようやく作品に厚みや奥行きを持ったスノーボーディングの世界を伝える要素が揃ったと判断。長年の目標であった写真集の制作資金を、クラウドファンディングで募りました。なぜクラウドファンディングを選択したのか、今後実現したいことなどについて遠藤さんにお話をうかがいました。
スノーボードフォトグラファー、18年の軌跡
―― これまでの遠藤さんの活動について教えて下さい。
遠藤:スノーボードフォトグラファーになって今年で18年目になります。始めたのは19歳からです。当時持っていたバイクを売り払って、一眼レフを買いました。ボディが5万とレンズ2本で、トータル12~20万円くらいだったかな。広角ズームと中望遠レンズを買いました。実は父が、チノンというカメラの会社で設計などを担当していたんです。当然カメラも持っていまして、キャノンだったかな、レンズなどは共用できるだろう、と思って僕もキャノンを買いました。レンズの取り付け方式が違って、結局一度も借りなかったんですけどね(笑)。今はカメラ2台で主に撮影しています。
―― これまでに撮影された写真について教えて下さい。何枚くらい、どんな国で撮られたのでしょうか。
遠藤:枚数でいうと、5万枚以上にはなると思います。撮影場所は日本、カナダ、ニュージーランド、フランス、ドイツにアラスカ――。それからアメリカのワシントン州に、僕の出身の長野の北アルプス北部全域です。五竜山などでよく撮りました。
―― スノーボードに魅せられたきっかけは?
遠藤:雪国育ちでしたから、物心ついた頃にはスキーをやっていました。親父に連れられて。好きでわりと行っていましたね。それが僕が中学生くらいの頃に、ストリートカルチャーでスノーボードが入ってきて、ハマってしまいました。
――プロスノーボーダーではなく、なぜ「フォトグラファー」を選択されたのでしょうか。
遠藤:最初はただただ、滑ることが好きでした。本当に青春を捧げていました。17歳の時に高校をやめて、通信制に通いながら冬場は毎日滑るという生活をしていました。大会を回ったりもして、自分を試していたんです。でもそれも、19歳まで。「スノーボーダーとして食っていく自信はない。遊びだな」――。そう実感しました。
滑りでは世界では勝負できない。そう気づいて、でも、自分は芸術分野には自信があったんですよ。図工や書道、美術、小学校くらいから自信があった。アートなら、写真なら、世界で勝負できるかも。そう思ったんです。
―― スノーボードの写真はどうやって撮影されるのでしょうか。ご自身も滑りながら…?
遠藤:フィールドまではハイクでついて行きます。でもボードに乗るのは基本的に移動する時だけで、止まって撮影することがほとんどです。でも「滑れる」ことには重要な意味があって、それはスノーボーダーとの「マインドの共有」ができることなんです。あそこでワンターンしたらかっこよくない?とか、あそこは滑れそう、あの斜面は危なそう、などの安全性も何となく分かるんです。これは自分が滑れるから、ならではのことだと思います。
僕の紹介ムービーの中で、ボルコムのマーケティング担当の方がこんな風に言ってくださいました。
「(スノーボードの)プレーヤーサイドからカメラを持った人間は、日本のスノーボードフォトグラファーの中ではかなり希少。遠藤と、先輩の東さんの2人しかいない」と。
スノーボードのことを何も知らないカメラマンが、ボーダーにいきなり「あそこで跳んでみてよ」と言うのとは一味違う撮影ができていると思っています。
――なるほど。逆に大変なことなどはありますか?
遠藤:職業カメラマンとしては難しい世界です。1枚撮るのに数週間かかることもありますし、数週間かけても必ず撮れるとは限らない。お金を稼ぐ、という視点から言えば、そんなに割のいい世界ではないですね。
憧れの人、場所、カルチャー……夢が叶った瞬間
2010Temple Cummins& Cannon Cummins
―― これまでで最も心に残っている撮影エピソードを教えて下さい。
遠藤:写真集のカバーショットを撮影した時です。2010年のワシントン州マウントベーカー。スノーボードの聖地とも言われている場所。僕の一番好きな山でもあります。ここで、
生粋のローカル、そして世界に出て行ったスノーボーダーと滑れる機会に恵まれたんです。
彼の名前は「TEMPLE CUMMINS(テンプル・カミンズ)」。ワシントン州の英雄。です。自分がスノーボードカルチャーに憧れてこつこつ上ってきて、やっと憧れの人、憧れの場所、憧れのカルチャーと対等に渡り合って作品に残すことができた。夢がかなった瞬間でした。
―― それが、写真集の表紙にもなっている一枚なんですね。
遠藤:そうです。夕暮れ近い時、急にガスが立ち込めてきて、霧になって太陽を隠したんです。その霧がまたいい具合の濃度で、太陽の光が霧にディフューズされて――。90年代に僕が刺激を受けたスノーボーダー達がみんなここを滑っていた。そんな場所で、彼(カミンズ氏)にも「ポーズをとってくれ」と頼んだ訳ではなく、ハイクの途中ただあそこに、偶然に立ったんです。本当に。
―― 本当に幻想的な写真です。ちなみに、憧れのカミンズ氏には何か言われましたか?
遠藤:「とにかくスノーボードがうまい」と言ってたそうです。普通のスノーボードフォトグラファーはなかなか自分達の滑りについて来られないけど、遠藤は滑れる。「世界一滑れるカメラマンだ」と。
―― それは嬉しいですね。
遠藤:はい(笑)。まだこの写真は見せていないので、感想を聞くのが楽しみです。
クラウドファンディングは、モーションギャラリー一択だった
2013Kei Nakanishi&My self@Otari
―― まず、クラウドファンディングという仕組みをどうやって知りましたか?
遠藤:初めはテレビかインターネットだったと思います。「キングコングの西野さんがクラウドファンディングで資金を募って、ニューヨークで個展を実現する」。そんな内容だったかな。それを見て「あ、僕もニューヨークで個展やりたい」と気付いたりもして。
― 国内にも幾つかクラウドファンディングサイトがありますが、その中でモーションギャラリーを選んだ理由を教えて下さい。
遠藤:「アートならMotionGallery」と言われたからでしょうか。当時、長野県がクラウドファンディングを活用した事業支援を始めるということで、県主催のセミナーに誘われて講習を聞きに行ったんですよ。そこのアドバイザーに「アートならMotionGalleryがいいよ」と薦められました。僕の見立てでは、「ネットサーフィンしていて、おもしろい(クラウドファンディングの)プロジェクトがヒットしたから支援する」という流れで応援される事は少ないと思います。なので、単に目立つプラットフォームであれば良いという事ではなく、プロジェクトの魅力を上手く表現する事が出来るプラットフォームでプロジェクトを行うほうがうまく伝わるのではないか、一つ一つのプロジェクトをしっかり見てくれるのではないか、と思いました。その見立ては間違っていなかったと思います。
2011Aysushi Gomyo@his house
―― ファンディングの仕組みについてはどうでしょうか。
遠藤:2種類から選べたことも大きかったです。目標金額に到達しないとファンディングされない「コンセプト・ファンディング」と目標金額に到達しない場合でも一定額の資金を獲得できる「プロダクション・ファンディング」――僕の場合は、協賛というよりもファンディングしてくれた人に共感してほしかったので、プロダクション・ファンディング方式を選びました。資金というよりプロモーションを兼ねて、より多くの人に知ってもらうことができたのではないかと思います。
―― プロジェクトを終えて、感想を教えて下さい。
遠藤:何よりも「知ってもらえる」というところが大きなメリットでした。写真集は、写真家が世に出るためのツールですから、それを発売前にクラウドファンディングで知ってもらえるというのは大きいです。版元にとっても、買ってもらえるチャンスが広がるので喜ばしいことだと思います。
スノーボード写真をアートに
2011Shin Biyajima@Tateyama
―― 写真集のタイトルでもある「インナーフォーカス」。ずばり、どうやったらインナーフォースできますか?
遠藤:生き方を見つめることだと思います。写真家として言うなら、生み出した作品から広がる影響力とか、そういうことまで考えたものを発信する。外見にフォーカスしないで本質や責任を考えて生きる。嘘のないものを出す。僕は写真を始めてすぐ、これを自分のテーマに据えました。商業写真家にはなりたくなかった、作家になりたかったんです。コマーシャルなど作られたものには興味がない、アートなものに興味がありました。
―― 遠藤さんにとっての「アートなもの」が「インナーフォーカス」されたもの、なんですね。これからスノーボードフォトグラファーとして、どんなことを実現したいですか?
遠藤:スノーボード写真が、銀塩のプリントとして額にいれて飾られるような道というか、そんな時代を作りたいです。スポーツ写真だから報道的、とかではなくて、いい一枚の絵だから飾ってほしい。そういう感じです。スノーボードショップに行ったら、かっこいいライダーのライディングが飾られてるとかですね。
スノーボーダーはアーティストです。キャンバスに滑りで絵を描く芸術的なアーティストなんですよ。ライフスタイルとして山を滑っている人達はアーティスト。僕の写真は、その人達と一緒にやっていく芸術活動。そう思ってやっていきたい、だから飾ってほしいんです。
そうするとスノーボードのカルチャーや、プロライダーの表現も評価される。
―― スノーボードのスポーツ的な側面以外の魅力も打ち出していきたいと?
遠藤:そうです。オリンピック1位、それは確かに価値がありますがそれだけではなく、かっこよさ、感動が伝わる芸術活動として伝えたい。なので、今後アート性の高い写真展も開いてみたいです。まだ成熟中の文化、というより芸術面ではまだまだ若くて文化までいっていないかもしれないけれど、50年後とかに値段がつけられるような時代がきていたらいい。そういう役目を果たせればいい。そう思っています。
2013Matt Cummins@Glacir