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INTERVIEW - 2018.06.21

31年の時を経て。幻の漫画『踊るミシン』復刊プロジェクト クラウドファンディングで作者と読者がつながる、出版のニュースタンダード

オークションで定価の10倍以上の高値が付くほど、絶版後もコアなファンに愛され続けた漫画『踊るミシン』。作者は兵庫県神戸市出身のグラフィックデザイナーで、漫画や、児童書の挿絵も手がける伊藤 重夫さんです。1986年に誕生した漫画が、作者の旧友たちの熱い思いを受け、2017年の夏、新装版として復刊を果たしました。

その際に彼らが活用したのが、クラウドファンディングMotionGalleryです。2017年4月17日から7月28日までの約3ケ月間にわたり、プロジェクト名「 オークションで20,000円越え!最近さわがしいマンガ『踊るミシン』を復刊したい」と題して実施。コレクター(支援者)の人数216名、達成金額1,005,000円、達成率558%という大成功を収めました。

今回、作者と長年の付き合いがあるプロジェクト立案者たちのひとりで、同書の編集に携わった田中 敦子さんに、クラウドファンディングを実施した経緯や体験談をインタビュー。そこには、作者と読者がダイレクトにつながる、出版の新たなスタイルが築かれていました。

MotionGalleryに掲載された、漫画 『踊るミシン』復刊プロジェクトのページ

プロジェクト立案者のひとりであり、「踊るミシン復刊会」代表の田中 敦子さん。編集・取材・執筆を生業とされています

復刊のお知らせを兼ねて。クラウドファンディングを実施した経緯

『踊るミシン』は、「戦後文化の軌跡展1945-1995」という展覧会の招待作品として、全国4カ所の美術館で展示され、展覧会カタログにも収録されていた名作です。30年以上経った今でも熱烈なファンが絶えないこの漫画を、なぜクラウドファンディングを用いて、作者や旧友の手によって復刊することにしたのでしょうか。

田中さん:

「古本を探しているけど手に入らない」。そんな声がインターネット上で広がっていると知ったのが始まりでした。作者と昔から付き合いのある友人たち数名で飲んでいる時、ならば復刊会をつくって少部数でいいから、出そうよ!という話になりました。

とはいえ、探している方々の連絡先を知る術がありません。復刊することを、どう、お知らせするかが課題でした。そんな折、気づいたのがクラウドファンディングという方法でした。

ちなみに、偶然同じ頃、複数の出版社から書籍や電子書籍化の依頼があったそうですが、各社の方針や制約にとらわれることなく、納得のいく品質で自由に出版したいという作者の意向から、クラウドファンディングのチカラを借りて自分たちでの出版一択、となりました。

『踊るミシン』。村上春樹さんの小説の世界観に似ていると評する人が多いそうです

少額の目標設定の受け入れ。MotionGalleryを選んだ理由

それにしても、複数あるクラウドファンディングのプラットフォームのなかから、なぜMotionGalleryを選ばれたのでしょうか。

田中さん:

実は他にも2社ほど話を聞いて、検討していました。でも「目標達成金額は○○万円以上に」と言われたり、「リターンの最低設定金額」が本の定価以上だったりで。あくまでも少部数での復刊を予定していた私たちにとって「それは、ちょっと違うかなぁ」と。

それに対してMotionGalleryは、少額の目標設定でも受け入れてくださった。そのおかげでクラウドファンディングができたようなもので、ありがたかったですね。それに、もうひとつ。MotionGalleryで他のプロジェクトページをいくつか読んでみて、そこにクリエイターへの温かな眼差しを感じたんです、このことも、大きな決め手になりました。

目標金額を18万円としてスタートした復刊プロジェクトは、予想をはるかに超える大きな反響を呼びました。Twitterを始めとするSNSで多数拡散され、潜在的な需要を見事に発掘。100万円以上の支援金額が集まる結果となりました。

田中さん:

Facebookで「復刊会」のグループをつくったんですが、最初のメンバーは、もともと友人である人たちだけ。どうやったら情報を広げられるのかわからず、モヤモヤしていたんですが、ゴールデンウィークの直前、何人かの方のTweetをきっかけに、一気にプロジェクトページへの訪問者数が増えていきました。

こういうのを「拡散」というんだなぁ、ありがたいなぁ、と思っているうちに、1時間毎に支援者数が増えていって。それはもう、震えてしまいましたよ。うわぁ予想していたより、エライおおごとになってきた、どうしよう…って(笑)

プロジェクトページに掲載された予告GIFアニメ。不思議な魅力に既存のファン以外も引き込まれていきました

うれしい反響の連鎖。クラウドファンディングを実施して

想像を上回る結果となった復刊プロジェクト。クラウドファンディングを実施してみた率直な感想を伺ってみました。

田中さん:

ご支援いただいたタイミングや、各リターンを郵送した後などに、皆さんから多くのメッセージを直接いただけたことが、とてもうれしかったです。例えば「初版は持っているけど、また応援買いしますよ」とか「数冊申し込んで、周りの友人に改めて布教します!」とか「無事到着しました。実際手にして感激」とか。

「初版の◯ページにあった鉛筆の消し忘れも綺麗に消えている!なんだか寂しいような、うれしいような気持ちです!」とのコメントには「そんなに読み込んでいただいていたとは…参りました。ありがたとうございます」と、一同で感激しました。

初めての経験だらけのなか、リターンの郵送でトラブルが起きるかも...という心配もあったそう。ところが実際は、角折れによる取り替え1件と、届け先不明による返送が1件あったのみ。それも改めて住所を確認して無事届けることができ、発送は1〜2週間で終わったといいます。とはいえ、制作やリターンの準備は大変だったのでは?

田中さん:

作者である伊藤さんは、古い紙の原稿を全てデジタル化して、汚れを消して整えたり、リターンの一つ一つに直筆のサインを書いたりと、かなり大変だったと思いますが、自分が納得するまで追求したい人なので、原稿の調整はギリギリまで何度も手を入れていて、苦ではないように見えました。

印刷先や発注方法は、メンバーで何度か集まって一緒に吟味しましたが、これも、大変というよりは、実物を手にするまでのワクワク感のほうが大きかったです。

1名限定リターンのLOFT展示済み巨大イラスト。天気予報を確認し、連日晴れの時期を狙って発送したのだそう

その他にも、予想していなかった印象深いエピソードはありますか?

田中さん:

このプロジェクトのスタート初期の段階でコレクターになってくださった東京・下北沢のある古書店さんが「もし、クラウドファンディグ終了後にも残り部数が出たら、うちで取扱わせてもらえませんか」と連絡をくださったんです。それで、実際に販売していただいたんですが、ありがたいことに、送っても送っても売り切れて、何度も追加発注をいただきました。

また、少し落ち着いた頃、メンバーのひとりが「私たちの地元である関西で店頭販売の実績がゼロって、寂しくない?」と言い出して。それで、以前ミニコミの設置でお世話になったことのある京都の書店に相談して取扱ってもらったんですが、こちらも、すぐに完売。「なんで、こんなに売れるんだ!?」と驚かれたんですが、私たちこそ、驚きの連続でした。

始まりは、少人数の需要を想定した復刊プロジェクトでした。それが、爽やかな初夏の風に乗るように瞬く間に広がって、このような大きな反響をつくり出していったのです。

サイン入りA5サイズのオリジナル・プリントと書籍がセットになったリターンも人気でした

支援者との関係を絶やさない。約3カ月間という長期プロジェクト

一般的に、クラウドファンディングのプロジェクト期間は、1カ月間や1カ月半などの設定がほとんど。しかし、この復刊プロジェクトは約3カ月間の実施でした。なぜ長期の挑戦を試みたのか、また長期ならではの心掛けを教えていただきました。

田中さん:

たしかに開始前は、3カ月間って長過ぎるかも...という迷いはありました。でもプロジェクトの原点は『踊るミシン』を探している人たちに届けること。なので、できるだけ多くの人に気付いてもらえるように、長く実施することにしたんです。

ただ、長期間だと、クラウドファンディングを通して支援してくださった方々が「そんな先の約束で、本当に届くの?」と不安を抱くかもという懸念がありました。なので、支援いただいたら、できるだけすぐ、最低でも24時間以内に、お礼のメールを返信するように心掛けました。こちらから発信できる「 アップデート」というブログみたいな機能がプロジェクトページにあったことも、進捗状況を節々でご報告するのに、重宝しました。

他にも、カバーデザインは2案用意し、支援時にどちらがいいか投票してもらうという参加型の企画も実施。結果は僅差でAに決定しましたが、Bを希望する声もかなり多かったため、最終的に、カバーを付けるとAのデザイン、外すとBのデザインに、と読者の好みに合わせて両方楽しめる仕様にしたのだとか。

比較的長期とはいえ期間限定のプロジェクトのため、終了後に「もっと早く知っていたら、支援したかった!」と惜しむ連絡も。そんな時は、取り扱っている書店の案内や、若干数の直売で対応していたといいます。(※現在は、書店での販売も直売も終了しています)

支援を通じてカバーデザイン案の投票を行うという企画。初版のイメージからか、Aの方がやや人気でした

作者と読者がダイレクトにつながる、出版のニュースタンダード

『踊るミシン』の復刊プロジェクトを始めた日から約1年が経とうとしている今、田中さんはクラウドファンディングに挑戦したことを、このように振り返ります。

田中さん:

反響や読者の感想をここまでダイレクトに知ることができたのは、クラウドファンディングならではで、始める前には予想しなかった発見であり、喜びでした。クラウドファンディングを通して、本を求めてくれる人たちと直接やりとりをしながら、自分たちの思うようなかたちで出版できて、本当に良かったと思っています。

それに自分たちのチカラだけでは、大判サイズの本を定価1,760円では出せなかったと思うので、そういう点においても、MotionGalleryには感謝しています。作者である伊藤さんも、出来上がりを、とても喜んでくれていました。

インターネットが普及して個人で少部数から印刷できる環境が整っており、TwitterやFacebookなどのSNSが発達、さらにクラウドファンディングという仕組みが機能している現代、出版の新たな在り方が築かれつつあるのではないでしょうか。

そして実は、待望の第2弾が、先日MotionGalleryでリリースされました!第2弾は、全ページの半分近くがカラーで、ファンでさえ予想しなかった書き下ろしを含むリミックス作品集です。初回の支援をしそびれたという方や、この記事を見て作品を読んでみたくなったという方など、ぜひこの機会をお見逃しなく!

終始和やかな雰囲気で取材に応じてくださった田中さん。作品や作品を愛する人々を大切に思う素敵な方でした

(text:前田 有佳利)


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この記事を書いた人

MotionGallery編集部

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