『現実拡張 スマホ仮面』は、2012年11月から2013年3月にかけて「ニコニコ動画」および「YouTube」にて無料公開された全6話のアクションドラマです。スマホの使い方に四苦八苦しながら悩み、成長していく主人公とインパクトの強い敵役、そしてスマホというツールの先にあるネット社会を独自の視点で切り取ったストーリーは、自主制作のドラマながら熱狂的なファンを生み出し、現在も少しずつファンや視聴者が増加しています。
この『スマホ仮面』の続編を強く望むファンの声も多く、製作陣は2013年に制作を決意。MotionGalleryで148名から123万3,000円もの支援額を調達し、『現実拡張スマホ仮面SPECIAL アプリ大戦Gbps』が制作されることになりました。
『現実拡張スマホ仮面』が続編を作るにあたり、なぜクラウドファンディングを利用したのか、脚本、監督を手がけた堤真矢(つつみ・まさや)さんに、自主映画とクラウドファンディングとの関係について、そしてクラウドファンディングを行ったことでの変化について伺いました。
「ゆるい」動画から、作りこんだエンターテインメントドラマへ
――『スマホ仮面』を制作する前も映像を作っていたのですか?
堤:大学時代からずっと自主制作映画を作っていました。卒業後はいったん就職し、社会人生活と両立して作品制作を続けようとしたのですが、結局自分の思うバランスを確立できなくて、退職してフリーランスで映像の仕事をしながら、少しずつ活動の場を広げ、作品制作の足場作りをしていました。『スマホ仮面』を共につくった時空動画の皆さんとはその過程で出会いました。
時空動画は、もともとは舞台俳優の集団です。インターネットを通して演劇の面白さを伝えたいという思いのもと、今も活動をしています。当時から毎週、ゆるくも激しい独特の映像作品をニコニコ動画で配信したり、ニコニコ生放送をやったりして着実にファンを増やしていました。
僕の普段の作風とは全く相容れないチームだったので(笑)、最初は機会があれば手伝う程度のスタンスだったのですが、あるとき『スマホ仮面』の企画が持ち上がりました。時空動画代表の矢ヶ部さんを中心に皆で企画を考えていく中で、最初は単なるヒーローパロディ的な出発点だったものが、「スマホ」の「仮面」という、現代のコミュニケーションに関する興味深いドラマが描けそうな作品になっていった。これなら自分の色を活かせる!と思えて、脚本と監督をやらせて頂くことになりました。そこから時空動画の皆さんとの長いお付き合いが始まりました。
―― 一気に6話分作ったそうですね。
堤:結末までの大きな展開や伏線をまず作って、全6話構成ということは撮影前に決めました。細部は各話の公開スケジュールに合わせて作っていったという感じです。2話の撮影をしながら1話の編集をして、3話のロケハンをしながら4〜6話の脚本を書く…というような日々が8ヶ月間位続きました。それぞれ仕事をしながら、空いている日を調整して週1〜2日程度撮影するようなスタイルです。髪をこまめに切ってもらったり、スケジュールが延びすぎて季節が繋がらなくなったり…と、長期間ゆえの大変さは色々ありました。
―― ニコニコ動画でもよく見られていたんですか?
堤:時空動画にはすでに固定ファンがいたこともあって、ニコニコ動画では、作品を受け入れてくれるコミュニティが最初からある程度できていました。そこで好感触を持ってもらえたことは良い滑り出しになりました。いつもの「ゆるい」動画だと思っていたものが良い意味で期待を裏切り、どんどん大きく本格的な作品になっていく。その過程をリアルタイムで楽しんでもらえたことは本作の大きな特徴だったと思います。
本作には「現実拡張」というサブタイトルがついていて「現実とは、本物とは、何か」ということも作品のテーマのひとつになっています。そこで、視聴者の皆さんに実際に「スマホ仮面の戦いに参加するエキストラ」役で出演をしてもらったり、著名人のTwitterアカウントを劇中に登場させたりと、現実と虚構の境界を曖昧にして、視聴者を巻き込んだ作品世界を作れるような仕掛けを散りばめていきました。今思えば、それがのちのちに効いていた。
―― 続編を作ろうと思ったのは、どのような理由があったのでしょうか?
堤:嬉しいことに、全6話完結の少し前くらいから「こんなに面白いものを無料で観ていいの?」「続編があるなら有料でも観たい」というような声をちらほら頂けていました。最初の全6話の制作では、全員ノーギャラにも関わらず実費のみで約60万円のお金がかかっていたのですが、そのことを発表したときもファンの皆さんは驚いていた。
インターネットの世界には「振り込めない詐欺」という、無料で観ちゃいけないと思わせるくらい高クオリティの作品に対する賛辞の言葉があるんですが、そうした言葉を頂いて僕らは「よし、じゃあ振り込めるようにしよう!」と考えたんです。
元々、何らかの企画でクラウドファンディングに挑戦してみたい、という気持ちはずっとありました。時空動画や僕自身が当時作ろうとしていたものの根底には「作り手と、それを支える受け手がもつ力」の新しい関係性を、視聴者の皆さんと一緒に作っていきたい、という意図があったと思うんです。
ネットメディアの発達でよりダイレクトな作り手と受け手の関係は生まれやすくなったけど、やっぱり「無料で見られて当たり前」という状況の中でできることには限界がある。「無料からお金を生む」というのは現代の創作活動のひとつのテーマだと思います。拡散力や手軽さなどの利点は活かしつつ、「モノ作りにはお金がかかる」という当たり前のことと、もう一度皆で向き合いたかった。そのための手段として、クラウドファンディングは有効だと考えたんです。
「お金を稼ごうとすること=メジャー志向の是非」というテーマを、クラウドファンディングでお金を集めたインディーズ作品が描く。これぞ「現実拡張」の次のステップにふさわしいと思いました。
売れようとした作品特有の「いやらしさ」をうまくネタにしながらも、当時のネットに氾濫していた過剰なマスメディア陰謀論だったり商業性嫌悪だったりというものにも批判の目を向けた、「作品」を取り巻くすべての立場に対して中立的な作品を描けたら、それは前作とは全く違うけど、まさに「スマホ仮面の続編」が描くにふさわしい「イマ」を切り取る異色のエンターテインメントになるのではないか。その切り口が見えた時に、自分の中で具体的なビジョンができあがっていきました。
そもそもスマホ仮面は、アプリに課金して変身するヒーローという設定なんです。アプリ自体高額な上に初期装備は貧弱で、強い装備や必殺技を使おうとするとさらに課金しなきゃいけないという。だから、スマホ仮面を応援する言葉として「今こそ課金だ!」というキャッチフレーズがずっとあって。当初意図していたわけではないのに、そのフレーズがクラウドファンディング時に俄然活きてきましたね。ギャグとして嫌味なく「お金を払ってください!」と言える幸運な企画だった。ほかの企画だったら、なかなかこのノリはできません。
拡散の企画力とファンが抱いていた「振り込めない詐欺」という意識が合わさり、爆速達成へ
――クラウドファンディングをやろうと決めてからは早かったですね。
堤:1作目が完結したのが2013年の3月末。そこから1週間後くらいに会議をして、続編を作ろう、クラウドファンディングでやろうと決めたのが4月の頭。そしてMotionGalleryでクラウドファンディングを初めたのが5月。1カ月しかなかったですね。MotionGalleryにしたのは、手数料が安くて映画系のプロジェクトが多かったから。ほかのプラットフォームよりも、僕達のプロジェクトに会っているんじゃないかなと思ったんです。
しかし、ファンの皆さんには本当に支えられました。プロジェクトオープンの前日に時空動画のイベントがありまして、 「スマホ仮面続編やります。明日からクラウドファンディングをします」って告知をしたんです。すると、次の日の朝にいきなり10万円のチケットが購入されたんです。そこで、ファンの皆さんが「だれかが10万円の特典買った!」と盛り上がってくれて。僕はその日仕事だったので、朝10万円が入ってからしばらくサイトを覗けなかったのですが、夕方に途中経過を見てみたらすでに目標金額を達成していた…。
―― 結果、目標金額の4倍もの金額が調達できたんですね。
堤:とにかく、時空動画の積み上げた活動や前作の評価があったので、期間中にお金を集めるのにものすごく苦労した!という印象はあまりないんです。とはいえ、話題の火を絶やさない努力はしました。たとえば、生放送。週に1回時空動画がニコニコで生放送を行って、活動の進捗状況を報告していました。上映会をやろうと思います。こういう特典をつけます。というアピールですね。その放送中や放送後はやっぱり参加してくれる人が増えるんです。あとはTwitterも有効ですね。
特徴的なのは、2回、3回と複数回にわたってチケットを購入してくださる方も多かったこと。定期的に生放送で『スマホ仮面』のことをアピールすると、それだけ期待してくれて支援額を増やしてくれる方が多かった。だから、すでに支援してくれた方が多い場所でも、定期的に自分たちが今何をやっているかを報告する意味はあると思います。クラウドファンディング終了日も生放送を24時までやって、その場でカウントダウンをして盛り上げました。その時も駆け込みでチケットを購入頂いた方もいらっしゃいました。
僕達にはニコニコ動画というメディアがあり、スタート時点で既に作品のコミュニティができあがっていたことが成功の要因のひとつだったと思います。
―― 視聴者の人たちが、コアとなってさらに拡散をしてくれる。
堤:そうですね。そういう熱心な方々は「スマホ仮面に5万課金した!」ってTwitterでつぶやいてくれるんです。それを自分たちやメンバーがリツイートして、タイムライン上でプロジェクトが盛り上がっている雰囲気を演出する、ということは、よくやっていました。
拡散力を持っている方に発信してもらうことも非常に意識しました。ネームバリューのある出演者の方に一言つぶやいてもらう、ブログに書いてもらうだけで、結果が大きく変わってきます。そのために、発信力のある方にカメオ出演をお願いして身内になってもらう、というような作戦も使いました。
『スマホ仮面』チームには、プロデューサー兼VFXという形で参加してくれた生㌔Pというメンバーがいて、彼が1作目の時から広報面のブレーンとして、情報の出し方、拡散の方法、視聴者を巻き込む戦略など様々なアイデアを出してくれていました。正直広報に関しては僕は大したことはしていなくて、生㌔Pをはじめとするスタッフ・キャストの知恵や努力が本当に大きいです。
―― そして、製作期間も非常にタイトでしたね。
堤:公開予定日は9月27日。クラウドファンディングの終了が7月で、7〜9月に撮影をして、9月22日にコレクター向け試写会というスケジュールでした。編集は撮影しながら行って、試写会当日の朝までデータの書き出しをしていました。ちょっと書き出しが遅くなってしまって、試写会会場でキャストの人たちに場をつないでもらったり…。それくらいギリギリでした。
だから試写会の時点では、キャストも僕も完成した『スマホ仮面』をきちんと見ていない状況。上映中に書き出しエラーが見つかったらどうしよう…と思いながらの上映で、全然集中できませんでした。幸い大きな事故はなく試写を終え、その一週間後に細かくブラッシュアップをして無事、完成版を公開しました。ただその後、そこまでのスピード感を維持できず、コレクター特典であるDVDの完成と発送が遅れてしまったのは大きな反省点です。
―― なぜ、そこまでタイトにスケジュールを守ったのでしょう?
堤:そもそもなぜそんなタイトな設定にしたのか、というのはまた別の話になってくるので割愛しますが、そのスケジュールを守ることに固執したのは、やはりお金を頂いているという意識だと思います。「仕事」の定義は色々あると思うのですが、お金を頂いた時点である意味本作は僕らチームの「仕事」になったんです。MotionGalleryのページに、この日の何時にアップしますと宣言した以上、きちんと守らなければいけない。僕一人の自主制作だったら、締切をどんどん伸ばしていたかもしれません。でも、チームのメンツと、その後ろにあったたくさんのファンの皆さんの存在にかけて、しっかり作らなければいけないと思えた。その責任の意識が全員にあったと思います。
クラウドファンディングが制作に対する意識を変える
―― クラウドファンディングの経験を通して非常に考え方が変わったんですね。
堤:一番変わったのは、やっぱり制作意識。自分が賄える範囲で自主制作をしていた学生時代も、『スマホ仮面』の1作目を作っていたときにも、つねに頭のなかには「これって、結局趣味じゃないだろうか」という、ニヒリズムに近い感情があったんです。「映画を撮っているといっても、自己満足でしかないんじゃないか?」という思いと、「いや、誰かが面白いと思ってくれるなら意味はあるんじゃないか、それは自分で決めることではないんじゃないか」という葛藤がありました。
でも今回、お金を払ってくれる人がこれだけいるという事実が、意識を変えてくれた。少なくとも100人以上の人から、金銭的な支援という目に見える形での期待を受け取って作っている作品なんだ、ということが、いち作り手としての自信にも繋がりました。ようやくただの自主制作から片足を抜け出した。僕にとっての「現実拡張」とは、そのことだったと思います。
調達した資金でDVDも制作できたので、今は公式サイトから購入できるようになっています。また、これは運用費などのコストがある程度見合えばですが、amazon等での販売も検討したいと考えています。小さく回収を考えるよりも、大きなプラットフォームに乗せて人目に触れる機会を増やして購入のハードルを下げる方が、多少赤が出ようともトータルではメリットが大きい場合もあると思うし、そうしたチャンスは拡げ続けていきたいです。
―― これからはどのような作品を作る予定ですか?
堤 :『スマホ仮面』の前から個人的に制作していた短編の作品集がありまして、現在はそれを仕上げています。『スマホ仮面』は、時空動画をはじめ、さまざまな人の感性が入り混じった作品で、それこそが面白さだったのですが、その短編集はより自分の本来の作風が出せているので、作っていてまた違った面白さがあります。
ただ、やっぱりスマホ仮面で目指した「作り手と受け手の新しい仕組み作り」というものには今でも興味があって、ささやかな規模からでも、そういった試みは今後も続けていきたいと思っています。少し前に、YouTubeで「視聴者ファンディング」というサービスが始まったのですが、今はそれを試験的に導入してみたりしています。『スマホ仮面』を作っている時、意外だったのは「続きが見たい」という方だけでなく「1作目、お疲れ様のつもりで払いました」という方がけっこういてくださったこと。つまり、投げ銭の感覚でファンディングしてくれたんですよね。面白かったら、レンタルビデオを借りた気持ちで、映画館に行った気持ちで支援する…そんな文化が少しでも根付いてくれたら素敵だなと思います。
『スマホ仮面』は、始まった当初から「人に拡げる」ことが意識された作品でした。こういう作り方をして、見せ方をすれば、自分たちと直接の知り合いじゃない誰かにも知ってもらえるんじゃないだろうか? と、企画の段階から考えていた。その試みの中で本当に多くを学ぶことができた作品でした。
『スマホ仮面』を含むこの数年の作品制作で得たものを活かして、来年くらいにはまた長編作品をやりたいなと思って色々と準備をしています。これからも、メジャーとかインディーズという概念に捉われない作品作りを続けていきたいと思っています。
WEB動画『現実拡張 スマホ仮面』
インターネット演劇集団「時空動画」の企画により、2012年11月~2013年3月にかけて「ニコニコ動画」および「YouTube」にて無料公開された、全6話の自主制作ドラマ。
不仲な妹を守るためにスマホの課金アプリで変身した“情弱”(=情報弱者)のおっさん・神郷ダンと、彼を釣ろうとネット掲示板で暗躍する悪の組織「DEEP」の戦いをコメディタッチで描く。そこに、独特のアクションとVFX、数々の特撮パロディネタ、そして「情報時代のリアル」というテーマが絶妙なバランスで散りばめられ、低予算ながら濃厚なファン層を生み出した。その熱は、今なお広がり続けている。
全6話の完結後、ファンの声に応える形で続編製作が決定。クラウドファンディングサイト「MotionGallery」にて製作資金を募ったところ、わずか2日間で目標金額を達成、最終的に自主制作としては異例の、120万円を超える支援金が集まった。
完成した続編『現実拡張スマホ仮面SPECIALアプリ大戦Gbps』は、2013年9月に公開。パワーアップしたアクションや造形、VFXに加え、変身アプリの広告用に作られた新ヒーロー「スマホ仮面NEO」と彼を取り巻く人々を通し、広告と芸能の内幕という新たな視点でのドラマを描く野心作である。
公式サイト
http://smapho-kamen.ticktackmovie.net/
公式Twitter
@smaphokamen
監督・脚本:堤真矢
制作プロデュース・設定監修・VFXスーパーバイズ:生㌔P(かえるボイラー)
アクション監督:飯田卓也
プロデュース・原案(第1シーズンのみ):矢ヶ部哲未(時空動画代表)
音楽:川尻大輔
衣裳:ai
ほか
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