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INTERVIEW - 2016.08.19

映画『脱脱脱脱17』から見る、新しい世代が生み出す日本映画の在りかた。

中学2年生から映画を撮り始めた松本花奈さんは、現在18歳。今年2月に北海道夕張市で開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」では監督作「脱脱脱脱17」が審査員特別賞に続いて見事観客賞を受賞、映画界に新たな風を吹き込みました。

中学2年生から映画を撮り始めた松本花奈さんは、現在18歳。今年2月に北海道夕張市で開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」では監督作「脱脱脱脱17」が審査員特別賞に続いて見事観客賞を受賞、映画界に新たな風を吹き込みました。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭は1990年から続いている国内では最大規模の映画祭で、若手監督の発表の場としても注目されています。現役女子高生としては初の受賞となった本作品の製作費の一部は、クラウドファンディングで募ったもの。なぜ映画を撮るのか、なぜクラウドファンディングを選んだのか。本作のプロデューサー、上野遼平さんも交えてお話をうかがいました。

中学2年生から映画を撮っていた

―― 高校生にして日本映画界の期待を背負っている松本監督ですが、映画はいつからお好きだったんですか?

松本:中学の時からだと思います。そのころからカメラを回してました。機械やカメラに興味がありました。ロビンウィリアムズ主演の「いまを生きる」などを観て『映画っていいな』と思って。生まれは東京の多摩で、その後親の転勤でニュージーランドに2年、幼稚園の年長から小学校6年生まで大阪、中学から今まで東京、と引っ越しは多かった気がします。両親は共働きだったので、祖父がよく遊んでくれました。祖父は絵や音楽が好きで、祖父を通じて芸術に触れたことも大きかったのだと思います。

―― 初めて映画をご自身で撮影・監督されたのはいつ頃なのでしょうか?

松本:中2の時です。三鷹市の井之頭公園や学校などが舞台でした。「お兄ちゃんは家族」というタイトルで34分。弟は劣等生、兄は完璧、弟は兄に憧れる。しかし兄は転んだ拍子に学校でおもらししてしまい、いじめられるようになる。兄を羨んでいたはずの弟は、少しずつ兄をかばうようになる、といったストーリーです。

中断しながらやっていたので、撮り終えるまで1年くらいかかりました。でもがんばって「PFFフィルムフェスティバル」にも応募しました。それが5年くらい前の話ですね。

高校も部活で映画を作りたくて、映画部が有名な高校を選びました。しかしいざ入部しようとした時には定員オーバーだったので「KIKI FILM」という高校生のインカレ映画サークルのような場所に高校1年で参加して、本格的に映画を撮り始めました。

―― 今回、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞を受賞された「脱脱脱脱17」の制作の背景について教えて下さい

松本:そもそもは「MOOSIC LAB2016」の一環で始まりました(2012年頃から始まった若手映画監督とアーティストのコラボレーションによる映画制作企画を具現化する音楽×映画プロジェクト)。コラボしたアーティストが3人組ガールズバンドの「the peggies」で、ボーカルの北澤ゆうほさんに主演もやってもらっています。製作費は300万円くらいで、うち約160万円をクラウドファンディングで集めました。

スタッフさんは多くが10代です。みんなが同じ時間に、一か所に集まれることはなかなかないのでLINEのグループでやり取りして何とか進めていった感じですね。

プロジェクトでは「今の自分達をそのまま表現」

―― 無事目標を超える資金を集めることができた訳ですが、クラウドファンディングを終えてよかったこと、大変だったことを教えて下さい。

上野:MotionGalleryの運用まわりは自分が中心に担当していたのですが、まずリタ―ンを考えるのがそこそこ大変でした。出資の額に応じて、魅力的なものを考えないといけないので。そして何より送料がかかりますからね。それで「試写会の時に渡せる人に渡せば送料がかからない!」と思いついて、名簿を作って僕が手渡ししました。

直接渡すことで反応も見えるし、喜んでもらえます。今後、同じような映画プロジェクトで同じようなリターンを渡す場合には、試写会で手渡しするのはかなりおすすめです。

プロジェクト紹介の文章などもかなり考えました。あまり大人が考えたような文章にしたくなくて、 今の自分達をそのまま表現できるような文体を意識していました。

―― かなり考えてクラウドファンディングに取り組まれたのですね。上野さんのご経歴についても聞かせてください。

上野:僕ももともと監督をやっていましたが、そこからプロデューサーになりました。監督からプロデューサーになるのは珍しいとよく言われます。

京都出身で、昨年大学入学のために上京してきました。松本さんと同じく、高校(三年)生の時に「瘡蓋譚 ―カサブタタン―」を夕張に出品して、その時は監督をやりました。

――松本さんと上野さんが出会ったきっかけも、ゆうばりなんですよね?

松本:そうなんです。一昨年の「瘡蓋譚」で上野君のことは知っていたので、去年の映画祭で見かけて。私から声をかけちゃいました。

上野:『脱脱脱脱17』の製作中は、結構衝突もしました。脚本に口出して、松本と喧嘩になったこともあるし。僕も監督やってたので、松本の気持ちは分かる。でもその分、気持ちで画を通そうとしてるとか、このシーン作ろうとしてる、とか、やったことがあるからこそ分かっちゃう。プロデューサーは作品がだめなら監督と同じくらい「あのプロデューサーだめな映画作ったな」と言われる。リスクを背負ってある種一緒に心中する立場なんですよ。だから心苦しくても言います。いろいろひっくるめて、映画を作るのはみんな人間です。一人の人間に帰れる場所、それが僕にとっての映画だな、と今回改めて思いました。

――そうやって映画を撮り続けるためには、やはりどうやって資金調達するかはとても重要ですよね。

上野:ほんとそう思います。監督として上野:映画を撮って分かってきたことは「映画業界は結構まずい」ということです。ハリウッドで撮っていたら300億規模の予算が集まるのに、日本だと3000万しか集まらない、とか。海外みたいにフリープロデューサーがいないとか、いろいろな問題が見えてきました。だから製作委員会方式とはまた 違う方式での 映画製作をやりたくて、監督からプロデューサーになりました。日本で映画を撮ろうとすると、資金集めにはみんな苦労しているみたいです。

松本:MotionGalleryでよかったのは、資金が集められただけではなく、思いがけないうれしい反響があったところです。例えば、中学の先生と交流ができたとか。クラウドファンディングは作品ができる前にファンディングするタイプと、撮り終えた後と両方ありますが、今回は撮影前にプロジェクトを始めました。

なので、 当初は素材が何もない状態でしたが、一から素材を作りました。何もないより、場面写とかイメージが伝わる画があったほうが、ファンディングする方にも安心感があるかなと思いました。ちゃんと必死さというか、熱意を伝えられるかが大事なのかもしれません。私としてはファンディング前にもかなり労力をかけたつもりです。

―― そうしてがんばった作品が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2つの賞を受賞した訳ですが、ぜひ感想を教えて下さい。

松本:授賞式の前に疲れて寝てしまったくらい熱中してて、気づいたら授賞式が始まっていてダッシュで向かったくらいだったのですが(笑)、すごくうれしかったです!

―― お二人から見て、どんなところが評価されたのだと思いますか?

上野:松本の作品はクラシックだけどちょっと不思議。映画祭の雰囲気ともマッチしたのかもしれません。アート的な表現に逃げず、ちゃんと娯楽映画を作るということをやっているので、そこが評価してもらえたのではないかと思います。

映画界の「シャア」に

―― 本当におめでとうございます。最後に、お二人の今後の目標について教えて下さい。どんな風に日本映画界に影響を与えるのかとても興味があります。

松本:自分も学生ということもあり、今まで学生の話がほとんどでした。特に男の子を描くことが多かったので、女子や学生ではない脚本、映画にも挑戦したいと思います。

上野:将来的には、東宝みたいなのを作りたいんです。どうせ悪い大人になるならでっかい悪い大人にならないとダメだと思って。「世界を変えるんだ」と言って悪い大人になる。「映画界のシャア」を目指したいですね。


この記事を書いた人

MotionGallery編集部

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