日本各地のゲストハウスを毎月めぐり、地域で面白い活動を企む人たちが垣根を越えて出会える場をつくることで、新たな関係性やプロジェクトの芽を育もうとする企画「 ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-(以下、キャラバン)」。
25カ月目となる今回は、発酵文化が根付くまち・秋田県横手市にあるゲストハウス&発酵バル「 Hostel&Bar CAMOSIBA(カモシバ)」にお邪魔しました。
イベント当日は、CAMOSIBAのオーナーであり100年続く糀(こうじ)屋の娘でもある阿部 円香さんに、ゲストハウス開業の経緯と、新事業であるハードサイダーの醸造に込めた思いなどについて、お話しいただきました。阿部さんのプレゼンを中心に、今回のイベントをレポートします。
動画には、CAMOSIBAの館内やイベント風景だけでなく、翌日のまち歩きの様子も収めています。
発酵文化に触れる「ローカルクリエイター交流会」第25回 in 秋田
このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスを通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実施しています。
キャラバン隊として毎月各地をめぐるのは、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、「あなたのまちに、新しい映画体験を」をコンセプトに掲げるマイクロシアターサービス popcornに携わる梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoがゲストハウスの方々にご協力いただき、地域の人と人との新たな接点をつくるべく「ローカルクリエイター交流会」を開催しています。
今回のイベントでは、横手市を拠点に活動する南インドカレー屋「チヴィコス」の特製カレープレートを振る舞っていただきました。この機会にとはじめてゲストハウスやCAMOSIBAに宿泊された方も多く、秋田(さらには山形からも...!)の皆さんと交流が深まる、楽しい滞在となりました。
参加者みんなで記念撮影。前列の右から3番目の女性が阿部さんです。
「チヴィコス」の特製カレープレート。想像以上にピリリとした辛さでクセになる味でした。
やりたいことを全部詰め込むために、起業を選択する
さて、ここから阿部さんのプレゼンを振り返っていきましょう。
横手市十文字町にある糀屋のもとに生まれた阿部さん。大学進学を機に東京へ行き、1年間休学をしてゲストハウスやホステルに泊まりながら世界各地を旅していたそうです。最初は都内での就職を検討したものの、最終的に起業を決意。箱根と長野の宿で修行をし、地元へUターン。現在の物件との縁から約半年間の改装期間を経て、2017年4月にCAMOSIBAをオープンしました。
阿部さん
やりたいことが多過ぎて、就活で興味を絞らなくちゃいけないことが嫌になっていました。そんな時、知り合いから「やりたいことがあるなら、いつかじゃなくて今やればいいじゃん」って言われて。それで、やりたいことや好きなものを全部詰め込んで、自分で起業しようと思ったんです。
この町でゲストハウスをしようと思ったのは、もともと旅が好きで、世界各地からお客さんが来てくれることで、お客さんの数だけ旅の非日常を味わえることが魅力だと思ったから。そして自分が生まれ育ったこの町で、地元の人と外から訪れる人を繋いで、地元に還元したいと思ったからでした。
「100年続く糀屋の娘ですが、実は糀アレルギーで、生の糀に触れると花粉症みたいになるんですよ」と明かす阿部さん。
豪雪の時期はエントランスを鉄板で覆って冬囲いします。暖かい季節になるとガラス戸に様変わりするそう。
醸造所のような場所づくり。糀が楽しめるバル併設の宿
開業に向けて銀行の融資や補助金を受け、さらにはクラウドファンディングにも挑戦し、1700万円を超える初期費用を掛けて改装。道路に面した蔵をバルに変え、連なる奥の建物を宿泊者棟にしています。
阿部さん
宿泊者の男女比率は半々。初年度は30代が多かったのですが、最近少し若返りをして20代が多くなっている印象ですね。約8割が日本人で、都道府県別では東京と秋田から訪れる人が一番多いです。国別では日本に次いで台湾が多く、これまで約40カ国の人たちが泊まりに来てくださっています。
手前が蔵を改装したバル。廊下を進み、引き戸の奥に構えられた建物が宿泊棟です。
1階に相部屋と共有スペースがあり、2階に個室があります。
バルでは、阿部さんの実家でつくられた糀や味噌を用いた料理をはじめ、地酒や各国のビール、地元の果物を漬けた果実酒などを提供しています。口当たりがまろやかな「塩糀の白麻婆」が特に人気なのだとか。
阿部さん
CAMOSIBAの名前の由来は「醸し場」です。秋田に暮らす人と宿に訪れる人が出会うことで、いろんな化学反応が生まれる。まさに醸造所のような場所にしていきたいと思っています。
最近では、横手市が主催する企業インターンに協力して大学生を1カ月間受け入れたり、バルのアイドルタイムである日中を活用し、シェアスペースとして貸し出したりもしています。
糀尽くしのメニュー。この他にも「呑み助セット」なるものが地元の人々に評判のようです。
地域の人々と共に、秋田をハードサイダーの聖地にしたい
やりたいことを実現させようと、他にもさまざまな活動を展開している阿部さん。地元のリンゴ農家と共同し、県内の大学生を主な対象とした宿泊付きの援農体験「 アップルキャンプ」も実施しています。
さらに先日、新事業としてリンゴの発泡酒である「ハードサイダー」の醸造もスタートしました。スタッフの松橋 真美(まつはし・まみ)さんと二人で1カ月ほどアメリカのオレゴン州にあるサイダー醸造所にて研修を受け、横手市のリンゴを使用したオリジナルのハードサイダー「OK,ADAM(オーケー、アダム)」をつくり、バルで販売しています。
阿部さん
ブランド名の由来は、アダムとイブが食べた禁断の果実から。リンゴを想起させる言葉を使いたかったこと、そしてどうしても口にせずにいられない魅惑的な味のサイダーを作りたいという思いを込めました。
果実酒のような甘い発泡酒ではなく、クラフトビールのようなほのかな苦味に、酸味とコクが合わさった味わいです。
醸造所として宿からほど近くにある3階建ての蔵付き物件を活用しています。1階を醸造所にし、将来的に他の部分をCAMOSIBAの離れやテナントスペースとする予定なのだそう。最後に阿部さんはこう締めくくりました。
阿部さん
「OK,ADAM」のコンセプトは「土臭くて型破り」。旅先で非日常を求める一方で日常との共通項を探すように、土地が古くから醸成してきた農業をベースに、日本でまだ馴染みのないカルチャーを発信する。そんな二面性を行き来することで、“美味しさの領域”を広げていきたいと思っています。
CAMOSIBAは私のやりたいことをドンッと形にした場所なので、ハードサイダーの事業に関しては、県内の農家さんや他の醸造家さんなどと共創する!というのが私のテーマです。また、これまでキズモノの収穫物はジュースかジャムになっていたので、その新たな加工の道をつくりながら、秋田県をハードサイダーが飲める地として、いろんな人たちと共に盛り上げていきたいです。
翌朝は、糀を用いた朝食をいただいたのち、車で約10分の場所にある「蔵のまち増田」の散策に出かけました。かつての商家たちの繁栄を物語る多くの内蔵を目の当たりにし、長きにわたりカルチャーの基盤を築くこの町だからこそ、新たなカルチャーが軽やかに誕生するのだと痛感するキャラバンとなりました。
CAMOSIBAでいただいた朝食。お味噌汁やあえものから甘酒まで、美味しい糀ざんまいでした。
希望者を募って訪れた「蔵のまち増田」。ここは国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたのまちへ。
(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利)