facebook hatenabookmark line motiongallerymagazine next prev top twitter

LIVE&EVENT - 2020.01.22

ニッチな分野を攻める。金沢駅周辺で6軒のお店を展開するゲストハウス #21 石川

MotionGalleryとゲストハウス情報マガジンFootPrintsとの共同企画として、47都道府県のゲストハウスを毎月1宿ずつめぐり開催している「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」。第21回は、2019年10月22日(火)石川県金沢市で6店舗を経営する合同会社グッドネイバーズの方々にご協力いただきました。

日本各地のゲストハウスを毎月めぐり、地域で面白い活動を企む人たちが垣根を越えて出会える場をつくることで、新たな関係性やプロジェクトの芽を育もうとする企画「 ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-(以下、キャラバン)」。

21カ月目となる今回は、石川県金沢市でゲストハウスをはじめとする6軒の宿泊関連施設と飲食店を経営する 合同会社グッドネイバーズ 代表の吉岡 拓也(よしおか・たくや)さんのもとを訪れました。

合同会社グッドネイバーズが経営しているのは、3軒のゲストハウス「 off(旧:Good Neighbors Hostel)」「Blue Hour Kanazawa」「Neighbors Inn Kanazawa」と、1軒のアパートタイプのホテル「HOTEL TRIM」、チェックインやレンタサイクルなど系列宿の顧客対応を充実させる総合窓口「Traveler’s lounge TRAFFIC」、そして飲食店「おすしと和食 はた中」です。

イベントの冒頭では、吉岡さんより「なぜ星野リゾートを退職し、東京から金沢へ移住してゲストハウスをはじめたのか?」や「宿泊施設が多数建ち並ぶ金沢駅周辺で店舗拡大をする際に心掛けていることは?」などについてお話いただきました。そのプレゼンを中心に、今回のイベントをレポートします。

動画には、イベント風景だけでなく、合同会社グッドネイバーズが経営する店舗をめぐった金沢の街歩きの様子も収めています。

1人1品フード持ち寄りスタイルの「ローカルクリエイター交流会」第21回 in 石川

このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスを通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実施しています。

キャラバン隊として毎月各地をめぐるのは、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、「あなたのまちに、新しい映画体験を」をコンセプトに掲げるマイクロシアターサービス popcornに携わる梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoがゲストハウスの方々にご協力いただき、地域の人と人との新たな接点をつくるべく「ローカルクリエイター交流会」を開催しています。

今回は会場として「Traveler’s lounge TRAFFIC」をお借りしました。当企画では初の試みとなる、1人1品フード持ち寄りのスタイルで実施。“カレーの炊き込みご飯”と言われるビリヤニの専門店を運営する方が自慢のビリヤニを振る舞ってくださったり、世界各地のお菓子を持参してくださる方がいたり。さまざまなフードで埋め尽くされた机を参加者みんなで囲み、お酒片手に交流を深めていきました。

普段は椅子やレンタサイクルが並ぶ空間をレイアウト変更し、今回のイベント会場として使用させていただきました。

今回は遠方の参加者も少なくなかったので、dari&mokoからは街歩きの最中に見つけた金沢のおつまみを持ち込みました。

世界中を旅した経験から、世界中の旅行者を迎える場づくりへ

さて、ここから吉岡さんのプレゼンを振り返っていきましょう。

地元・愛知県の大学に入学し、18歳から約3年間は50カ国ほど世界を旅したという吉岡さん。起業前は、エメラルドを輸入する会社や、インドネシアにある旅行会社、国内のタクシー会社に勤めていたこともあり、最後の1年半は多数の宿泊施設を運営する大手法人「星野リゾート」で代表取締役直属のインバウンド事業部に所属していました。独立したのは2015年、吉岡さんが31歳の頃のことでした。

吉岡さん

世界中を旅した経験が、僕の人生に大きな影響を与えています。何も知らない若造だった当時の僕にとって見るものすべてが印象的で、価値観を180度変えるきっかけをくれました。旅を通じてそういうきっかけをもらったにもかかわらず、日本でサラリーマンを続けている自分に対して、突如「このままじゃダメだ。自分で何かをはじめなくては」と思ったんです。自分のこれまでの経験を一番生かせる仕事は何だろうって考えた時に浮かんだ答えが、ゲストハウスの運営でした。

「やるからには趣味ではなく事業として拡大し、社会に還元していきたい」と考えた吉岡さんは、ある程度の観光需要が見込める地域をピックアップ。京都・金沢・高山や当時暮らしていた東京でも物件を探し、幸運にも金沢駅から徒歩3分という好条件の空きビルを見つけ、金沢での開業を決意。2015年5月に「Good Neighbors Hostel(現off)」をオープンしました。

現在「off」が営まれているビルが「Good Neighbors Hostel」という屋号で最初に吉岡さんがゲストハウスを開業した場所です。

根底にあるのは「旅が好き」という気持ち。店舗拡大に込めた思い

開業から5年が経とうとする現在、スタッフ数は全店舗を合わせて約30名に増加。定員25名のゲストハウスだった1店舗目「Good Neighbors Hostel」は、無人運営かつキャッシュレスで5室限定の宿「off」にリニューアル。駅前ビルの3階を活用した2店舗目「Blue Hour Kanazawa」は、出張利用も意識した定員34名のシンプルなゲストハウスに。定員100名の3店舗目「Neighbors Inn Kanazawa」はファミリー利用を意識し、駅西口・住宅街側に唯一あることから、わざわざ訪れたくなるフレンドリーな接客を心掛けています。

「Blue Hour Kanazawa」のレセプション。窓の向こうには、駅前に威風堂々と構えられた「鼓門(つづみもん)」が見えます。

「Neighbors Inn Kanazawa」の共用リビング。その他にも各寝室とは別に、共用のキッズルームが設けられています。

吉岡さん

4番目にオープンした「Horikawa Hostel」は、小さくてのっぽなビルの2階と3階をそれぞれ定員6名の客室につくり変えたもので、民泊のような宿です。月3万円の家賃でも借り手がつかなった空きビルを借り、約1000万円でリノベーションしました。家族や友だちと1室にまとまって泊まりたいというニーズに合致し、夏場だけでもワンフロア50万円ほどの売上が出ていました。

5店舗目として「Traveler’s lounge TRAFFIC」をスタートし、2019年4月には6店舗目「おすしと和食 はた中」をオープンしました。「宿泊事業以外も展開したいと考えていた矢先に『off』の近隣の物件が空き、信頼できる料理人との縁も重なったので」と開業のきっかけを振り返ります。敷居が高くなりがちな寿司のイメージを変えようと、MotionGalleryを用いて クラウドファンディングにも挑戦。時価表記をなくして全価格を明記し、和食のアラカルト注文も可、子連れも歓迎といった新たなスタイルの寿司屋をはじめました。

賑わいのある通りから路地にそれると「Horikawa Hostel」のエントランスが現れます。現在は別の会社に運営を譲渡しています。

200万円を超える支援金が集まった「おすしと和食 はた中」のクラウドファンディング。

吉岡さん

現在の合同会社グッドネイバーズは、売上1億円・利益1000万円ほどの小さな会社です。だけど、5年後の2025年を迎える頃には売上を10億円にしよう、という大きな目標を掲げて活動しています。ただ、ゲストハウスだけでは利用者のパイが限られているので、今後はもっと、ホテルや旅館・飲食・ツアー・外国人向けの人材紹介といった事業にも手を広げていきたいと思っています。

僕の根底にあるのは「旅が好き」という気持ちです。なので、旅が好きになる人が増えたらいいなという思いをベースに持ちながら、少子高齢化と貧富の差が進む日本の社会構造のなかで「どうやったら自分たちの事業を伸ばせるだろう?」「どうやったら今の若い人たちが救われるんだろう?」と思いをめぐらせ、その解決策として旅を軸に事業を拡大して雇用を増やそうと考えています。

変化するゲストハウス市場のなか、次の一手をどう打つか

最後に「今後のゲストハウス市場はどうなると思いますか?」と吉岡さんに質問を投げかけました。過渡期を迎える市場の海で、合同会社グッドネイバーズという船はどういった針路を目指すのでしょうか。これまでの5年間を思い返しながら、吉岡さんはこう話します。

吉岡さん

2015年の開業当時、ゲストハウス市場はまだブルーオーシャンでした。訪日外国人旅行者の数は2011年に起きた東日本大震災の直後は激減しましたが、東京オリンピックが決定した2013年には1000万人を突破し、2015年には金沢駅に北陸新幹線が開通しました。そんなタイミングで開業できたので、驚くほど最初は儲かっていました。稼働率は年間95%で毎月100万円弱の利益が出て。おかげで「きっと失敗する」と起業も移住も嫌がっていた妻も安心して東京から移住することができました。

吉岡さんが先に単身で移住し起業。事業が早く軌道に乗ったことで、すぐに家族を呼び寄せることができたそうです。

しかし好機は長くは続かず、2018年以降、金沢駅周辺に宿泊施設が急増。この頃には金沢に限らず日本各地でゲストハウスが増え、国内の利用者がまだ少ないゲストハウス市場特有の状況も相まって、観光地として名高い地域を中心に今もレッドオーシャンと化しつつあります。

吉岡さん

次々と客室が増えるなか、異なる一手をどう打つかを日々考えています。ポイントの1つとなるのは、大手資本が手を出さないニッチな分野を攻めること。例えば「off」のように個性派に向けて内装を奇抜にしたり、「Horikawa Hostel」のように6名まとめて1室に泊まれる環境を割安で提供したり。また、大人数・富裕層向けに、最大10名まで宿泊可能な金澤町家の宿をつくることも計画しています。

もちろん、そうやって店舗数を拡大すれば予約管理や鍵の受け渡しなどの事務作業も増えます。なので、事務作業を少しでも集約することで効率化を図ろうと、ここ(Traveler’s lounge TRAFFIC)をつくりました。そうは言っても金沢における宿泊事業の競争はやはり厳しいので、稼ぎ頭になる新たな事業を据え、蓄えた利益で次の一手をさらに打てないだろうかと、今まさに案を練っています。

最後に「いつか家族で海外に住みながら働ける環境をつくりたいなと思っています」と、旅好きな吉岡さんらしい言葉を添え、プレゼンを締めくくりました。

世界で最も美しい駅14選に選ばれた金沢駅。ライトアップされた夜の風景も見応えがありました。

かつて自身の価値観を180度変えるきっかけをくれた“旅”に対する思いを軸にしながら、社会貢献を念頭に事業を展開する吉岡さん。その後「Horikawa Hostel」は別の会社へ運営を譲渡しましたが、目標として掲げた「5年後は売上10億円」に向かって着実に前進するように、2019年12月に女性専用のアパートメントホテル「HOTEL TRIM」をオープン。現在、金沢駅周辺で全6店舗を運営しています。

ニッチな分野を攻めることで、潜在的な需要が掘り起こされ、旅にまつわる人々の価値観が変わっていく。今後も合同会社グッドネイバーズを筆頭に、新たな旅のスタイルが生まれていくことでしょう。

そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたのまちへ。

(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利)


この記事を書いた人

MotionGallery編集部

MotionGallery編集部です。

https://twitter.com/motiongallery/


この記事を
シェアする!

Twitter

Line

Ranking
記事ランキング

Follow Us
Motion Galleryをフォローする

各種ソーシャルメディアでも、MotionGalleryの情報を配信中。今すぐフォローして最新情報をチェックしよう!