日本各地のゲストハウスをめぐり、地域のクリエイターたちが垣根を越えて出会える場を開くことで、新たなプロジェクトの芽を育もうとする企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」。イベントを開催し、前後日程でまちめぐりも行っています。
第12回となる今回訪れたのは、岡山県岡山市の奉還町商店街にある「 KAMP Backpackers Inn&Lounge」(以下、KAMP)です。瀬戸内海に面したオリーブ園や離島など、大自然を会場に毎年開催されるキャンプフェスから派生して生まれたゲストハウス。現在は、クルージング事業やクラフトジンの開発など、驚くほどにさまざまな事業を展開しています。
「KAMP」のディレクターを務める「WHJAPAN社」北島 琢也(きたじま・たくや)さんに、ゲストハウスをオープンした経緯や、多岐にわたる事業、開業から5年目を迎えた今思うことなどを伺いました。
動画には、交流会からまちめぐりまで、キャラバン全体の様子をまとめています。
アイデアを磨き合う「ローカルクリエイター交流会」第12回 in 岡山
このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスを通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実施しています。
キャラバン隊として毎月各地をめぐるのは、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、コンセプト「あなたのまちに、新しい映画体験を」のマイクロシアターサービス popcornに携わる梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoが、ゲストハウスの方々にご協力いただき、「ローカルクリエイター交流会」を開催しています。
交流しやすい場づくりを目指して、前半は「KAMP」の北島さんとdari&moko、それぞれの活動の原点についてプレゼン。後半は、参加者全員で自己紹介をしたうえで交流会。その後、希望者を募って、北島さんおすすめの近隣の居酒屋で二次会を行いました。
今回の参加者は、ゲストハウス開業予定の方が多く、企画書を持参された方も数名いらっしゃいました。二次会は、ひとりひとりの「こんなことをやってみたい」の構想に、みんなでアイデアを出し合って肉付けするという、楽しく生産的なものに。岡山県に暮らすローカルクリエイターたちのチームワークの良さを目の当たりにする会となりました。
会場となる「KAMP」は、JR岡山駅から徒歩約5分。約100年の歴史を持つ奉還町商店街の中にあります
「KAMP」1階のカフェ&バースペースにて。平日開催にもかかわらず、大勢の方々が駆けつけてくださいました
2日間のつながりを、365日に広げる場所をつくろう
約10年前まで東京の企業に勤めていた北島さん。東京の暮らしに違和感を覚えて退職し、学生時代の思い出の詰まった岡山市へ移住しました。昔からフェスとアパレルが好きだったことから、アウトドアウェアを中心としたアパレルショップ「PHAT SHOP」を奉還町商店街でスタート。店の2階や隣の駐車場で時々イベントをしながら運営していたといいます。
「PHAT SHOP」を開業した頃、仲間たちと「東日本にはフェスが多いけど、西日本にはあまりない。ないなら、自分たちでつくろう!」と意気投合。そこで、2010年から、瀬戸内海に面した広大なオリーブ園や離島、キャンプ場といった岡山県の大自然を会場に、有志による手づくりのフェス「 牛窓ナチュラルキャンプ」を開催することにしました。
北島さん
「牛窓ナチュラルキャンプ」を毎年開催するにつれて、ライブに出演してくれるミュージシャンや出店してくれるクリエイター、さまざまなお客さんたちとの関わりが広がっていきました。だけど、年に1度しか集まれる機会がない。だから、年間を通じて集まれる場所をつくろうと、みんなで「KAMP」をつくることにしたんです。
「WHJAPAN社」の北島さん。「KAMP」のディレクターを務めています
2日がかりで開催される「牛窓ナチュラルキャンプ」。野外ライブや地元店舗の出店などで賑わいます
北島さん自身、学生時代にはワーキング・ホリデーを活用して渡航し、バックパッカー向けの宿で、労働と宿泊を物々交換するフリーアコモデーションを行ったこともあったそう。岡山に戻ってからも、海外の人を家に泊めるカウチサーフィンを実施していました。
全国的にもインバウンドの熱が高まりつつある一方で、当時、新幹線も利用できる便利な駅にもかかわらず、岡山駅周辺には世界の旅人に向けた交流型の宿がありませんでした。北島さんの経緯や市場のニーズ、そして仲間たちとの思い。それらの重なりから、「牛窓ナチュラルキャンプ」を一緒に企画していた岩田 洋史(いわた・ひろし)さんが運営する「WHJAPAN社」に加わる形で、2014年7月「KAMP」をオープンするに至ったのです。
「KAMP」の1階奥には、アウトドアグッズを中心にセレクトされた物販スペースがあります
エントランス横のらせん階段をあがった先が宿泊者専用スペース。こちらが女性専用の相部屋です
宿だけにとどまらず、瀬戸内海の魅力を発信する事業を展開
「KAMP」をオープンしてから約5年。ことわざの"思い立ったが吉日"を実証するように、驚異的なスピードで事業を展開しています。イベントの広報における企画や運営ディレクションのほか、近隣の宿の立ち上げサポートや経営、キャンプ場の再生サポートや経営、観光事業の勉強会での講演など。さらには意外な広がりも...
北島さん
「牛窓ナチュラルキャンプ」を離島で開催したことで、地域の渡船業者さんとも仲良くなって。それがきっかけで、2016年から「 SETOUCH SAILING CAMP」という瀬戸内海を周遊するクルージング事業を始めました。
クルージング事業「SETOUCH SAILING CAMP」の様子(画像提供:KAMP)
北島さん
あと、地元の酒造メーカーと共同して、オリジナルのクラフトジン「 The Inland Sea」をつくっています。岡山産のパクチーや広島産の山椒など、瀬戸海に面する県にまつわる12種類の食材を使っています。初回の分は年明けに完売したので、現在2回目の蒸留をしていて。台湾や上海からも問い合わせをいただいているので、これからも広がりそうです。
また、「KAMP」の1階ではランチタイムに本格的なスパイスカレーを提供。北島さんは10年前から旅先でよくカレーを食べ歩いていたそうで、その経験が活かされています。今では、すっかり地域の人々に「カレーの美味しいお店」としても認識されています。
チキンカレーとキーマカレーの合いがけ、1200円。ピリリと効いたスパイスが癖になります!
宿+イベントスペースを持つことの面白さ。5年目を迎える今思うこと
1階のカフェ&バーには、その雰囲気の良さと利便性から、年間を通じてさまざまな人々が集います。オープンから5年目を迎える現在では、毎月6〜8本のイベントが開催されているそう。ジャズダンス会や怪談ナイト、政治団体主催のイベントなど、ジャンルも多彩です。
北島さん
岡山県でラテンを専門に活動しているグループが、毎年ラテン合宿をしてくれたり、海外からやってきた建築関係の学生さんが団体で宿泊して、自分たちの建築にちなんだイベントをしたり。あと、今年の瀬戸内国際芸術祭に併せて、アートインレジデンスのオファーもいただいています。
"泊まれる"に加えてイベントスペースがあることで、対応や提案の幅が広がります。そのおかげで、地域の人たちとも一緒に、新しいことにどんどん取り組めています。これはとても強みだなと、5年目を迎えて感じていますね。
KAMPで開催されたライブイベントの様子。みんな楽しそうにサルサを踊っていました(画像提供:KAMP)
瞬く間に事業を展開し、岡山県から瀬戸内海へと舞台を拡大。北島さんをはじめとする「KAMP」に携わる人々の行動から、訪れるチャンスを逃さない瞬発力と、継続的な活動のためにも楽しさの追求を怠らないことの重要性を教えられました。
そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたの街へ。
(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利)