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LIVE&EVENT - 2019.03.15

自由でカラフルな人生を。築200年の元骨董屋で「大人の保育園」をつくる宿 #11 長野

MotionGalleryとゲストハウス紹介サイトFootPrintsとの共同企画として、日本各地のゲストハウスを旅しながら毎月開催している「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」。第11回は、2018年12月2日(日)長野県飯田市にある「Yamairo guesthouse」で実施させていただきました。

日本各地のゲストハウスをめぐり、地域のクリエイターたちが垣根を越えて出会える場を開くことで、新たなプロジェクトの芽を育もうとする企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」。イベントを開催し、前後日程でまちめぐりも行っています。

第11回となる今回訪れたのは、長野県飯田市にある「 Yamairo guesthouse」です。中央アルプスと南アルプスに囲まれ、天竜川が貫くように流れる、自然豊かなまちに位置します。かつて骨董屋が営まれていた築約200年の建物をリノベーション。東京からUターン移住をした中村 瑞季(なかむら・みずき)さんがオーナーを勤め、併設する「ちょい呑み屋」ではパートナーの高橋 直也(たかはし・なおや)さんが料理長を勤めています。

高校を中退して17歳でニュージーランドに行ったのち、多摩美術大学の夜間学校に通学。それらの体験から生まれた世界観をゲストハウスという形に落とし込むまで約10年かかったという中村さん。その経緯や「Yamairo guesthouse」に込めた思いを伺いました。

地域のコーディネーターとして「 山暮らしカンパニー」の高橋 歩(たかはし・あゆむ)さんに、飯田市内をご案内いただきました。高橋 歩さんは以前、MotionGalleryで、遠山郷の暮らし体験型の家「COM(M)PASS HOUSE」をつくるプロジェクトのクラウドファンディングにも挑戦されています。動画には、そんなキャラバン全体の様子をまとめています。

ちょい吞みで満員御礼!「ローカルクリエイター交流会」第11回 in 長野

このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスを通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実施しています。

キャラバン隊として毎月各地をめぐるのは、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、コンセプト「あなたのまちに、新しい映画体験を」のマイクロシアターサービス popcornに携わる梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoが、ゲストハウスの方々にご協力いただき、「ローカルクリエイター交流会」を開催しています。

交流しやすい場づくりを目的に、最初に、ゲストハウスを運営する中村さんとdari&moko、それぞれの活動の原点についてプレゼン。その後、参加者全員で自己紹介をし、交流会を行いました。今回は、料理長の高橋 直也さんが腕を振るう「ちょい呑み会」も開催。合計4時間のロング・イベントでしたが、参加者数は30名を超え、満員御礼となりました!


「ちょい呑み屋」料理長の高橋 直也さん(左)と、「Yamairo guesthouse」オーナーの中村さん(右)


長野県民だけでなく、隣接する愛知県からわざわざ来てくださった方々もいました


「ちょい呑み会」は、地元の食材を用いたおつまみ盛り合わせプレートと餃子とモツ煮。飯田市の銘酒とともに

つくりたい空間「大人の保育園」のイメージに至るまで

「Yamairo guesthouse」がオープンしたのは、2018年5月22日。コンセプトは「free and colorful life like the mountains」。これは、宿の縁側から見える南アルプス山脈が、日の出から日没にかけて美しく色を変化させるさまになぞらえたもの。「ひとつの色に染まらず、自由でカラフルな人生を生きていきたい」という中村さんたちの信念も込められています。

実は、この思いは、多摩美術大学で空間デザインを勉強し、その集大成として手がけた卒業制作の作品のコンセプトと強くつながる点があると、中村さんは話します。

中村さん

卒業制作の課題は「自分のつくりたい施設をつくる」といったものでした。そこで私は、「大人の保育園 〜大人が子どもらしく遊び、成長していく場〜」というコンセプトを立てました。当時考えていた世界観を読み上げると...

“私たちは年を重ねるほど、自分の人生に囲いを付けて、そこからはみ出すことを拒んでしまう。保育園に通っていた日々を思い出してください。はじめて家族以外で過ごした世界。知らないことを知る嬉しさ。できないことができた喜び。これから先の未来にドキドキしていた頃。そんな気持ちは子どもだけの特権ではありません。大人の保育園では、さまざまな大人たちが集い、新しい人間関係を育むことで、気付かないうちに狭まっていた視野を大きく広げてくれる、そんな自分探しが出来る場です。”

そんなイメージを描いていました。これってまさにゲストハウスのことですよね。むしろ、なんでこの時、ゲストハウスって思いつかなかったんだろうって。なので、こういう空間をつくりたいという思いは、大学時代すでに芽生えていました。


朗らかな雰囲気をまといつつ、芯の強さを感じられる中村さんのプレゼンに、みんな聞き入っていました

この思いが芽生えた最初のきっかけは、17歳の頃のこと。なんと両親の勧めから高校を中退し、単身で1年半、ニュージーランドへ渡航。さすがに同じような境遇の人はおらず、世代の異なる多種多様な人たちに囲まれながら、英語や美術を学ぶ日々。その暮らしを通じて、考え方や立ち振る舞いは豊かなものへと成長していきました。

美術に関心を強めた中村さんは、帰国後、多摩美術大学の夜間学校へ進学。社会人や主婦などさまざまな年齢や立場の人々と同じ学年で同じテーマを学ぶことで、考え方や感じ方がますます豊かになっていったといいます。

これらの2つの体験が「大人の保育園」の世界観をつくる基盤となっているのです。

原点に立ち返り、ゲストハウスという答えを見つける

しかし、つくりたい空間はあっても、どの会社に就職すれば実現できるのかがわかりません。そこで、まずはアルバイトでお世話になった設計事務所に就職することに。

3年が経過した頃、これって誰が喜ぶんだろう? 私にしかできないこと? と働き方に疑問が湧くようになります。そして、ふと「大人の保育園がつくりたかったんだっけ…」と思いが蘇り、まさに今の自分がその空間を必要としているのだと気付き、退職を決意。自分にあった生き方を模索するために、客観的に自分を見つめ直そうと、ドイツへ飛び立ちます。

中村さん

ベルリンにある日本茶専門のカフェでアルバイトをして生計を立てていました。ちっちゃいカウンターの中に私が立って、いろんな国の人たちがその周りを取り囲んで、お茶を飲みながらいろんな話をしていて。そこで「こういう空間を、日本にいる私みたいな人たちに届けたい!」と閃いたんです。「でも、それってカフェじゃないし公園じゃないし...。そうだ、きっと宿泊施設だ!」とハッと思い立ちました。

帰宅後すぐ「東京 ゲストハウス」と検索し、一番上に表示された「ゲストハウスtoco.」にドイツにいながら履歴書を提出して面接。帰国した翌週には、もう働き始めていました。こうして中村さんは、原点から約10年かけ、ゲストハウスという答えにたどり着いたのです。


建物本来の味を活かして丁寧にリノベーションされている「Yamairo guesthouse」。最大12名宿泊できます


夕方「ちょい呑み屋」の営業時間になると、地域の人々や旅人が集い、おでんや餃子を味わっています

地元で良かった。訪れて良かった。そう思える場所に

ゲストハウスの開業地を検討した際、「日本の中で自分が安らぐ場所といえば故郷。だけど飯田市には何もない...」と"地元コンプレックス”に葛藤したという中村さん。しかし、むしろ同じ境遇の人のためにも、このまちが地元で良かったと思える場所をつくろう、訪れて良かったと思う人を増やせる場所になろうと、故郷での開業を決めました。

そんな思いを込めて運営し、現在では地域の人々にも愛される場所になっています。

中村さん

縁側に吊るしている干し柿は、近所のお母さんが干し方を教えてくれたものです。今朝も、近所のおじさんが宿にやってきて「今日は近くで餅つきしてるからさ、餅食べにきなよ」ってご馳走になって。昨晩は、近所のおばあさんから電話があって「大根の漬物をつくったから取りにおいで」とか。地元の愛情をすごく感じています。地元のみなさん無しではここまでこれなかった。今もとても応援してもらっていて。

このまちには、自慢できる人や物や文化がまだまだあると体感しています。それは、ゲストハウスを始めなかったらわからなかったこと。これから年を重ねて、いつか「Yamairo guesthouse」が地元の名所のような場所になったらいいなと思っています。

まるで新しく誕生した命を迎えるように、地域の人たちはみんな「Yamairo guesthouse」の成長を楽しんでいるようです。かつてのコンセプト「大人の保育園 〜大人が子どもらしく遊び、成長していく場〜」は、この場所で確かに息づいているのでしょう。


まち案内をしてくださった「山暮らしカンパニー」高橋 歩さん。おすすめのシナノゴールドが美味しかった!


イベントの前日には、800年前から続く伝統行事「霜月祭り」にも参加。なんとも神秘的でした


3000m級の山々に囲まれた飯田市。天竜峡では、川下りを行っている人たちの姿もありました

自分の暮らし方に疑問を感じる時、中村さんのように、原点にあった思いを振り返り、その思いを実現すための手段を客観的な視点で探してみるといいかもしれません。海外あるいは日本を旅して、雄大な南アルプス山脈のように彩りに溢れる、人々や文化に触れながら。

そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたの街へ。

(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利
 ※トップ写真提供:古厩志帆 / ハジメマシテ、飯田)


この記事を書いた人

MotionGallery編集部

MotionGallery編集部です。

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