(トップ画像提供:KIKO)
日本各地のゲストハウスをめぐり、地域のクリエイターたちが垣根を越えて出会える場を開くことで、新たなプロジェクトの芽を育もうとする企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」。イベントを開催し、前後日程でまちめぐりも行っています。
第10回となる今回伺ったのは、宮城県仙台市にある「 HOSTEL KIKO」です。「世界の人と地元の人が交流を深める宿を、東北にもっと増やしたい」という思いを持った齋藤一郎(さいとういちろう)さんがCEO(最高経営責任者)を務めています。築約30年の寮を改修し、思いに賛同した若き仲間とともに、2018年6月からゲストハウスを運営。13部屋ある寝室それぞれの壁一面に描かれた、仙台のアーティストたちによるイラストが特徴的です。
東日本大震災の被災地である石巻市出身の齋藤さんが「HOSTEL KIKO」に込めた思いや、世界と地域をつなごうと実施したこれまでの取り組みなどを伺いました。
地域のコーディネーターとして、宮城大学助教の友渕貴之(ともぶちたかゆき)さんに交流会の前後日程で、仙台や隣町をアテンドしていただきました。動画には、交流会からまちめぐりまで、キャラバン全体の様子をまとめています。
秋の夜長を味わう「ローカルクリエイター交流会」第10回 in 宮城
このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスを通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実施しています。
キャラバン隊として毎月各地をめぐるのは、FootPrintsを運営する前田有佳利(dari)と、コンセプト「あなたのまちに、新しい映画体験を」のマイクロシアターサービス popcornに携わる梅本智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoが、ゲストハウスの方々にご協力いただき、「ローカルクリエイター交流会」を開催しています。
「ローカルクリエイター交流会」は約2時間のイベントです。交流しやすい場づくりを目的に、前半はゲストハウスを運営する方とdari&moko、それぞれの活動の原点についてプレゼン。後半は、参加者全員で自己紹介をしたうえで交流会を行います。
いつも交流会が盛り上がり、会場の熱は冷めやらず、希望者を募って2次会へ...というパターンがほとんどなのですが、今回の宮城開催は特にアツかった!翌日は平日にもかかわらず、多くの方々が3次会までお付き合いくださいました。
「HOSTEL KIKO」の共有リビングをお借りしてイベントを開催しました
2次会は近隣の居酒屋で、仙台名物セリ鍋を囲んで。3次会では特産物のホヤもいただきました!
東日本大震災をきっかけに、異文化交流の面白さを知る
宮城県の沿岸部にある石巻市出身で、20代の頃に転勤で仙台市に引っ越した齋藤さん。現在は宿泊業と不動産業を営んでいますが、以前まで酪農関係の会社に勤めていました。42歳になった2011年、東日本大震災が発生。故郷が津波に襲われました。
齋藤さん
震災後、混乱しながら必死になって石巻市にある実家を直しました。修復に500万円ほど費して、ようやく正気に戻り、高齢の両親を復興途中の不便な地域に住まわせるわけにはいかないと気付いたんです。それで、誰かに家を高く借りてもらえる方法を考えようと、本屋で偶然見つけた書籍を頼りに不動産業を学び始めました。
不動産業の知識をもとに、復興支援活動を行う企業に、実家を貸し出すことからスタート。さらに、マンションを購入し、1室を民泊紹介サイトに登録しました。すると、即座に海外のユーザーから6カ月間の長期予約が入りました。あまりの好条件に「何かのアジトに使われたらどうしよう......」と最初は警戒したそうですが、その心配はすぐに吹き飛びます。
被災時の辛かったご経験さえ、明るく話してくださる齋藤さん
齋藤さん
家賃の受け取りで毎月訪問していたのですが、その度に「やあ、イチロー!今日はサンドイッチをつくったんだ。僕らと一緒に食べないかい?」などと、いつも誘ってくれたんです。食事をしながら「先月はこんなことがあってね」や「先日この街を3時間くらい歩いたんだ」と話してくれて、だんだん仲良くなりました。
その後、私が所有する物件のうち6部屋を使って、約2年間で300人ほどの海外ゲストを迎え入れましたが、全然トラブルがなくて。「知らない日本をもっと見てみたいから、一緒に焼肉に行って、飲み放題を体験しよう!」とか「東北のみちのくプロレスが好きで、日本に来たんだ」とか。海外の人たちから異文化交流の面白さや地域の魅力を教えてもらいました。
2013年に「復興起業家」と名乗って自らを奮い立たせ、アパートやマンションの賃貸経営を行う「株式会社エステート齋藤」を起業。「いつか故郷の石巻市を、そして東北を盛り上げたい。まずはここ仙台で、世界中の人々を迎え入れる力を付けよう」と、インバウンドと交流を重視した宿の兼業を決意。そして、「いつかゲストハウスをつくりたい!」という思いを持った勝水与茶(かつみずあずさ※トップ写真の前列左)さんを宿の管理人として迎え、2018年6月1日「HOSTEL KIKO」をオープンしました。
仙台駅から徒歩16分。最大44人まで宿泊できる、仙台で一番大きなゲストハウスです(画像提供:KIKO)
各寝室には、仙台や日本をイメージしたイラストが描かれています(画像提供:KIKO)
齋藤さんは「KIKOが、地元アーティストの表現と挑戦の場になってほしい」と話します(画像提供:KIKO)
世界の人々に東北を、地域の人々に世界を知ってほしい
「HOSTEL KIKO」がある仙台市荒町は、仙台藩祖・伊達政宗公が整備した地域の1つ。かつて敵陣から城を守った名残から道は少し複雑な造りになっており、「HOSTEL KIKO」も入り組んだ道の突き当たりに建っています。近隣には昔ながらの商店街や350年以上の歴史を持つ味噌屋があり、なんとも味わい深い街です。
この街で、世界と地域をつなぐことを目標に、齋藤さんと勝水さんは仲間たちと日々ゲストハウスを営んでいます。そこには、世界中の人々に地域の魅力を知ってほしいというインバウンドに向けた思いだけでなく、世界中の人々との接点をつくることで地域の人々に世界をもっと知ってほしいというアウトバウンドに向けた思いも含まれています。
齋藤さん
海外の人々に来てもらうだけじゃなく、宮城県の人たちが世界に羽ばたくことも大事です。だから、海外に親しみや関心を持つきっかけになればと、さまざまな交流イベントを実施しています。地域の人たちが気軽に参加できるように食をテーマとすることが多いので、「KIKOに通ったら太った!」という声もあがっています(笑)
唎酒師(ききざけし)の解説を受けながら日本酒の飲み放題を体験するイベントや、近所の精肉屋の協力のもと参加者みんなでソーセージをつくってビール片手に食べるイベントなど。時には、マダガスカルで国営動物園を営むゲストに「ぜひお話しいただけませんか?」と相談し、自国について話してもらうイベントを開催したこともありました。
年齢や国籍を超え、幅広い層がイベントに参加。近隣の学生が参加することもあるそう(画像提供:KIKO)
まず自分たちが地域の過去と現在を知り、未来を一緒につくる
自主イベントだけでなく、ご近所のママたちによる持ち込み企画も開催。その内容は、海外ゲストやスタッフに英語で名前を尋ねるといったミッションを館内でいくつか出し、すべてクリアーしたら全員で食事をするといったものです。子どもたちからは「学校でALTの先生と話すのとは違った感じがして、楽しかった!」という感想が寄せられていました。
齋藤さん
宿泊者に地域のことを知ってもらうには、まず自分たちが地域の歴史や出来事をちゃんと知る必要があります。だから、持ち込み企画を歓迎して地域の方々と一緒に企画を練ったり、周辺のお店を実際に歩いてオリジナルマップを定期的に更新したり、夏祭りなどの地元の催しにも積極的に携わるようにしているんです。そんなことをしながら、今後も、KIKOを世界と地域をつなぐ場に育てていきたいですね。
勝水さんも「東北にはまだたくさんの宝物が眠っています。だからKIKOを介して、世界中の人々にそれらをもっと伝えていきたいです」と今後の意気込みを話してくれました。
夏の伝統行事「毘沙門天王祭」の神輿の行列に参加したこともありました(画像提供:KIKO)
宮城大学助教の友渕さんが企画した神社×地域おこしイベントにも、ゲストを連れて参加(画像提供:KIKO)
東日本大震災から約8年。「HOSTEL KIKO」は、目の前の地域を大切にしながら、石巻市そして東北全体へと広がりある未来を描き、今日も世界中の人々を迎えています。
そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたの街へ。
(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利)