日本各地のゲストハウスをめぐり、地域のクリエイターたちが垣根を越えて出会える場を開くことで、新たなプロジェクトの芽を育もうとする企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-(以下キャラバン)」。
第3回は、山梨県甲府市の「 BACCHUS KOFU GUEST HOUSE(以下BACCHUS)」にて開催しました。雄々しい山々に囲まれた甲府盆地の中央に市街地があり、車を少し走らせれば美しい南アルプスや溪谷などの壮大な自然が目の前に広がります。なにより、“いつもそばに富士山がいる光景”が、地元の人にとって日常化していることに驚かされます。
JR新宿駅から甲府駅まで電車で約1時間半。自然の豊かさだけでなく都心へのアクセスにも恵まれているのですが、進学や就職を機にそのまま県外から戻らない若者が多く、街なかはシャッターが目立ち、生産年齢の人口減少が課題とされています。しかし近年、この余白という可能性に惹かれ、移住をするローカルクリエイターが増え始めているのです。
今回のキャラバンのレポートでは、かつての街の賑わいを取り戻すべく地域と旅人を繋ぐBACCHUSと、さらには「 山梨移住計画」おすすめの山梨県を拠点とする興味深いクリエイターの動きについてもご紹介します。
キャラバンの記録を動画でまとめました。記事とあわせてどうぞ
第3回、型にはまらず自ら仕事をつくりだす人たちの交流会に
このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスのある旅を通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実現しています。
当日のホスト役は、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、"あなたのまちに、新しい映画体験を"をテーマに掲げるマイクロシアターサービス popcornの立ち上げメンバー梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoユニットが、各地のゲストハウス運営者のご協力を得ながら、ローカルクリエイターたちに会いに行っています。
第3回は、BACCHUS代表の野田 寛(のだ ひろし)さんと、さらには山梨移住計画の鈴木 啓太(すずき けいた)さんのご協力から、山梨県内を拠点に新たなマーケットや新たな働き方を自らつくりだしている人たちが、一堂に会する交流会となりました。
JR甲府駅から徒歩約12分に位置するBACCHUS。1階にはBAR&DININGもあります
当日は乾杯ドリンクとして、野田さんのお父さんが手掛けた葡萄を使ったワインが振る舞われました
生まれ故郷へUターン。衰退を目の当たりにして
参加者同士がアイデアや刺激をフラットに共有できる場づくりをと、いつもキャラバン冒頭では、dari&mokoとゲストハウス運営者から、それぞれの活動の原点をプレゼンしています。今回、BACCHUSの代表・野田さんが教えてくれたゲストハウス誕生の経緯を振り返りながら、この地域に向けた思いを紐解いていきましょう。
甲府市は、1964年の東京オリンピックの頃から年々顕著に人口が増加し、1980年代〜1990年代には約20万人を越え、ピークを迎えています。現在の人口は約19万人。表面的には約1万人の減少ですが、年齢の内訳を見ると、深刻な少子高齢化と生産年齢人口の低下が見られ、このままでは急激な人口減少が進むと叫ばれています。
高台から見た山梨中心部の街並み。山々に囲まれた盆地であることがよくわかります。奥には富士山の姿も
野田さん
甲府市生まれ山梨市育ちの僕ですが、高校生の時は東京に出たいという気持ちばかりでした。なので、東京にある大学に進学をしました。でも実際に東京暮らしを経験すると、やっぱり山梨の穏やかな土地の方が性に合っているなって実感して。
そして大学卒業後、2006年4月に甲府市へUターン。しかし、かつて東の甲府・西の広島と謳われた故郷は、小さい頃の記憶とは似ても似つかないほど、衰退していました。
野田さん
僕が幼い頃は、映画館や古着屋があって、母に手を引かれながら賑わう人混みを歩いていたんです。でも帰ってみると、どこもシャッター街で。ガラの悪いヤンキーさえいなくなっていて。地域のおじいさんやおばあさんから昔の街の話を聞いたりするうちに、いつか地元に貢献できる商売を始めたいと考えるようになっていきました。
野田さん。1983年甲府市生まれ。現在は、山梨に3軒・東京に1軒にある居酒屋の専務取締役も務めています
ローカルと旅人を繋ぐ。地元でゲストハウスを起業
そんな思いを胸に、山梨に本社を構えるネジの製造メーカーに入社。大学時代から旅好きだった野田さんは、タイのアユタヤにある工場への1年間の出向を希望しました。アユタヤ滞在中、会社帰りや休みの日はゲストハウスのバーラウンジをよく訪れ、世界中の人たちと話をして刺激を受けたり、日本人と話すことで故郷を懐かしんだりしていました。
野田さん
アユタヤで暮らす一人のローカルの人間として、ゲストハウスで出会う日本人に、アユタヤの魅力的なスポットやおすすめの過ごし方を伝えていたのですが、いつもとても喜ばれて。ふと、甲府に旅人と地元を繋ぐ宿がないじゃんって気付いたんです。こういうことを地元でやりたいって思いました。
帰国後、2010年から2013年の全国的なゲストハウス開業ラッシュを受け「やるなら今だ」と2014年に退職。200名を超える県内外の友人たちの協力を受けながら、仲間と共に築約40年の元ビジネスホテルをほとんどDIYでリノベーションし、2015年8月、ついにBACCHUSをオープンさせました。
1階には、軽く飲めるBAR&DININGも。ビジネスホテルだった頃は寿司屋のテナントが入っていたそう
相部屋の2段ベッドも手づくり。DIYの際は、Facebookイベントページを立てて広く告知をしていました
野田さん
コンセプトは「人と人、人と文化が出会う宿」です。僕が旅をする時に一番記憶に残っていることはなんだろうって考えたら、宿の内装より、旅先で会った人のことだなって。宿の近くの飲食店で偶然話したおじさんが面白かったとか。だから、泊まった人たちが街の人たちと顔を合わせられるような宿をつくりたいと思ったんです。
交流会と二次会を終えたのち、希望者を募って、野田さんの案内で街歩きへ。宿泊ゲストに必ず紹介するという「オリンピック横丁」には、創業約50年となる老舗の居酒屋「くさ笛」があり、70歳を超えた女性が開業時と変わらず店を切り盛りしていました。最近では、シャッター街に新しいお店が増え始め、街は活気を取り戻しつつあるようです。
夜の甲府の街歩き。オリンピック横丁は、なんともノスタルジックな雰囲気でした
山梨県を拠点に活動するローカルクリエイターたち
イベントの前後日程で、山梨移住計画の鈴木 啓太さんが、BACCHUSから車で約30分圏内の場所に拠点を構えるローカルクリエイターたちのもとへと案内してくれました。地域の特色や文化を取り入れた彼らの働き方を目の当たりにし、山梨を選んだ背景や温めている新たなプロジェクトの話を伺い、山梨のさらなる可能性を痛感することとなりました。
甲府市 / 若き"発酵兄妹”が継ぐ、創業150年の「五味醤油」。みそづくりを体験するワークショップも定期開催
北杜市 / DIYで建設した醸造所「UCHU BREWING」。3月からクラフトビールの醸造を開始。無農薬でホップも栽培しています
韮崎市 / 廃墟と化していた街のシンボルを復活させた複合施設「アメリカヤ」。カフェ・書店・写真スタジオなど
「やまなしの人や暮らしを伝える」をテーマに、山梨の新たな魅力を編集しているフリーマガジン「BEEK」
図らずも、今回ご訪問した人々のほとんどが、BACCHUSの野田さんのように、東京や京都はたまた世界で学び、その経験を生かして山梨に拠点を構えたU・Iターン移住者でした。
多角的に知ることで、ある一点の良さを強く認識し、複合的に学んだ経験値を糧にその一点をさらに魅力的なものにつくりあげていく。ワイン・味噌・ビールなど、発酵の街ともいえる山梨で、そんな新たな文化が醸成されていく様を感じ取ることができました。
そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたの街へ。
(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利)