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LIVE&EVENT - 2018.09.20

若者の自由な発想を全力で応援したい。子どもたちが縁側に集う"泊まれる図書館” #04 和歌山

MotionGalleryとゲストハウス紹介サイトFootPrintsとの共同企画として、日本各地のゲストハウスを旅しながら毎月開催する「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」。2018年4月26日(木)に実施した第4回の舞台は、和歌山県新宮市「Youth Library えんがわ」です。泊まれる図書館、高校生の自習室、トライアル出店など、このゲストハウスが行ってきた数々の取り組みもご紹介。

日本各地のゲストハウスをめぐり、地域のクリエイターたちが垣根を越えて出会える場を開くことで、新たなプロジェクトの芽を育もうとする企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-(以下キャラバン)」。

第4回は、和歌山県新宮市の世界遺産「神倉神社」のそばにある"泊まれる図書館"「 Youth Library えんがわ(以下えんがわ)」にて開催しました。えんがわは、旅人にとっては、一軒家貸切タイプのゲストハウス。しかし、Youth(若者)を始めとする地域の人々にとっては、さまざまな役割を果たしてくれる"街の交流拠点”にもなっているのです。

子ども向けの図書館・高校生向けの自習室・若者の起業支援の場・地域のコミュニティスペース、そして恐らく日本初である"泊まれる図書館"、つまり私設図書館を備えたゲストハウス...。新宮市で暮らす若者、ならびに全国の若者の学びを全力で応援することを目標に、2013年から数々の取り組みを実施し続けています。

今回のキャラバンのレポートでは、新宮市を代表するローカルクリエイターといっても過言ではない一人の男性が、「番頭」としてえんがわに携わるまでの経緯と、えんがわという場所が現状に至るまでのストーリーについてご紹介します。

キャラバンの記録を動画でまとめました。記事とあわせてどうぞ

第4回、和歌山県南部のプレーヤーから高校生までが大集合する交流会に

このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスのある旅を通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実現しています。

当日のホスト役は、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、"あなたのまちに、新しい映画体験を"をテーマに掲げるマイクロシアターサービス popcornの立ち上げメンバー梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoユニットが、各地のゲストハウス運営者のご協力を得ながら、ローカルクリエイターたちに会いに行っています。

第4回の参加者は、開催地である新宮市で都会も顔負けのケーキを提供する20代のパティシエや、本州最南端にある廃墟となった劇場を復活させようとするアーティスト、それぞれ別々の地に留学を控えた3名の高校生など、新たな挑戦をする和歌山県南部の人々がこぞって集まる回となりました。


Youth Library えんがわ。その名の通り、縁側のある平屋です。春になると庭先の梅の木が美しく咲きます


当日のイベントの様子。近隣の学校に通う高校生から、30年以上運営を続けるうどん屋の店主まで


和歌山のフードユニット「ブレンド感覚」が出張参加。マグロを用いた「だし茶漬」などを提供してくれました

友達づくりの無限ループ。後呂さんがイベントを主催する理由

参加者同士がアイデアや刺激をフラットに共有できる場づくりをと、いつもキャラバン冒頭では、dari&mokoとゲストハウス運営者から、それぞれの活動の原点をプレゼン。今回は、えんがわの全4名の運営者のうち、「番頭」という肩書きで、主にイベントの企画と運営に携わる後呂 孝哉(うしろ たかや)さんにプレゼンターとなっていただきました。

これまで後呂さんが手掛けたイベントは、実にバリエーション豊か。獣害対策のプロが狩猟から行う「1日限定イノシシラーメン屋」や、元アップル社のエンジニアがつくる「Hamburger Festival」など。さらに、会場はえんがわだけに留まらず、和歌山県色川町で棚田のそうめん流しを主催し、廃校を活用したブックカフェ兼パン屋の敷地で開かれる「 KUJU MARKET」の実行委員に加わって、20名の集落に2000名の集客を実現するなど、数々の大胆でユニークなイベントを実施してきました。

しかし、なぜ、このように積極的にイベントを企画するようになったのか。プレゼンはその原体験を振り返るところから始まりました。


えんがわの縁側に佇む後呂さん。1989年、和歌山県新宮市生まれです


キャラバンの翌々日に開催された第3回「KUJU MARKET」の様子(写真提供:後呂 孝哉)

大学進学と同時に地元である新宮市を離れ、東京へ。その後、都心の電気メーカーに就職し、ゆかりのなかった栃木県宇都宮市の配属となります。平日は宇都宮で働き、休日は東京で大学時代の友人と会うという繰り返し。「このままではダメだ、宇都宮で友達をつくろう」と思い立ち、当時流行したテレビ番組に触発され、シェアハウスへ入居することに。

後呂さん

シェアハウスのメンバーと一緒に、それぞれ友達を誘って、5m55cmの恵方巻きをつくるというイベントを開催しました。そこで、自分でイベントを企画すると、友達の友達と繋がりやすいってわかったんです。企画すればするほど、友達の無限ループが起きて。それ以来、イベントを主催することにハマっていきました。

製麺所の店主と共に挑んだ麺の長さ6mの流しそうめんの会や、宇都宮にちなんで60店舗分の餃子を食べる会、そこから派生して大手ショッピングセンターと共同し、餃子デザインのTシャツやスマートフォンケースを制作するなど、次々と企画を展開していきました。

後呂さん

ローカルでイベントを開催すると、東京でするより、大手との共同企画が実現しやすかったり、メディアに取り上げられたり、地域に与えるインパクトがとても大きい。ローカルを拠点とすることの面白さに気付いた時、栃木も大好きだけど、生まれ故郷でもやりたいなって思って。和歌山に帰ることを決めました。

元館長・並河さんとの出会いと、子ども向け図書館ができた背景

2017年9月に住民票を移し、正式に新宮市へUターンした後呂さん。陸の孤島と揶揄されるほどアクセスの悪い地域ではあるものの、美しい海と山と川が揃い、その環境で育った魅力的な人や場所がたくさんあることに、改めて気付かされます。


キャラバン翌日、後呂さんのアテンドで、海岸沿いで名物のマグロを味わうピクニック・通称「マグピク」を実施

後呂さん

地元に帰ってきたばかりの頃、噂を聞いて、初めてえんがわを訪ねたら、えんがわを立ち上げた並河 哲次(なみかわ てつじ)さんがいました。なんやかんや話しているうちに「後呂くん、番頭やって」って。そんな流れで僕も一緒に運営することになりました(笑)

立ち上げ人である並河さんは、大阪府出身でIターン移住者。2011年に25歳の若さで新宮市議会議員に当選し、6年半の任期を務めました。30歳を迎えるタイミングで、運営メンバーの1人である宮川 裕大(みやがわ ゆうだい)さんに館長の座を引き継ぎ、現在自らは「留守番係」と名乗っています。他、経理担当の窪田 常寿(くぼた ときひさ)さんを含め、合計4名で、自分たちの利益は追求せず、地域貢献のボランティアとして運営を続けています。


後列の左から2番目が並河さん。ちなみに後列の右2人がフードユニット「ブレンド感覚」、前列左がmoko・中央がdariです

えんがわの誕生は2013年6月。世界遺産「神倉神社」の近くに佇む、空き家となっていた古民家を改装。「子どもや若者の自由な発想を応援できる"秘密基地"をつくろう」という思いから、子どもや若者向けの本や漫画を揃えた私設図書館としてスタートしました。

多くの人々に馴染みがある存在で、寛げるオープンな場所となり、かつ読書が子どもたちのアイデアをより広げてくれるのではと、「図書館」というスタイルを取り入れたのだといいます。


えんがわの図書棚の一角。ビレッジバンガードのような興味をそそるポップや、インターン生による選書棚なども

子どもに多彩な出会いを。"泊まれる図書館”が誕生した経緯

ゲストハウス機能を拡張させたのは、2014年2月。月々の電気代や改修維持費などを補う収益源をつくりながら、子どもたちに多様な人々と出会える機会を届け、さらに新宮市を訪れる若者も応援したいという考えから、1日1組限定・定員3名のゲストハウスを始めました。

最近では「本屋」や「図書館」に絡めたコンセプトの宿も増えていますが、旅館業法を取得し、私設図書館として一般の人々に約500冊の無料貸し出しを行い、公に「泊まれる図書館」と表現したゲストハウスは、えんがわが日本で初めてではないでしょうか。

後呂さん

今まで、学校にいる子どもたちが外国人と触れ合う機会って、滅多になかったんです。ゲストハウスを始めたことで、外国の人たちが頻繁にえんがわに来るようになりました。熊野古道を目指す一人旅の人とかファミリーとか。おかげで、子どもたちと世界各国の人たちが触れ合う機会が生まれています。


えんがわから徒歩約10秒の場所にある、「神倉神社」の入り口「太鼓橋」。世界各国の人々が訪れていました

えんがわの宿泊代は、Youth(若者)は1泊500円、それ以外は1泊5000円。大人が若者を応援するといった価格設定にしています。さらに、google mapでえんがわの軒先をキャンプ場として登録しているため、日本一周をしている学生が立ち寄ることも多く、宿泊代の仕組みを聞き、軒先ではなく屋内に、喜んで宿泊していくケースがほとんどだといいます。

高校生向けの自習室とトライアル出店の拡張

えんがわの取り組みは、図書館とゲストハウスにとどまりません。2016年の年末から、隣室の床を貼り直し、高校生の自習室として拡張させています。

実は以前から、近隣の学校に通う小学生と高校生がえんがわによく訪れていたのですが、高校生には自習室としての利用ニーズがありました。しかし、遊びたい小学生と集中したい高校生が、同時に一室を共有するのは困難でした。そこで、虫喰いがひどく、使用を断念していた隣室の床を自分たちで貼り直し、自習室をつくることにしたのです。

さらに、飲食業の許可を取得。使用していなかった納屋を、若者の夢を応援する「トライアル出店」の場として安価で貸し出すことに。すると、兼ねてからコーヒースタンドを経営したいという目標を持った当時19歳の若者が噂を聞きつけ、自身でリノベーション。2017年1月11日から翌年9月28日の期間で「Coffee stand 納屋」をトライアル出店しました。


床貼りが完了した現在の自習室。夕方以降は、時々イベントスペースとして使用されています


青いドアが印象的な「Coffee stand 納屋」。店主の庄司 颯さんは、開業前に新宮のカフェで修行をしていたそう

図書館・ゲストハウス・自習室・トライアル出店の場。さらに宿泊者のチェックアウト後、子どもたちが学校にいる時間帯は、近隣に暮らす子育て世代のコミュニケーションの場として自由解放しています。Youth(若者)の支援を主軸に、さまざまな取り組みを実施し続けるえんがわ。プレゼンの最後に、後呂さんはこう教えてくれました。

後呂さん

都心から遠い場所でも、その地域に暮らしている人と訪れる人が組み合わされば、面白い場所ができる。えんがわに携わって、僕が確信していることです。

そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたの街へ。

(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利


この記事を書いた人

MotionGallery編集部

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